前編 シリコンバレーは、世界中の優秀な人材を求めている
岑康貴
2008/7/22
エンジニアにとって、シリコンバレーで働くとはどういうことなのだろうか。日本との違いや、シリコンバレー特有の文化、キャリア形成などを、実際の企業や、現地で働いているエンジニアたちの言葉から考える。 |
IT産業に従事する者で、シリコンバレーを知らない人はいないだろう。アメリカはサンフランシスコ・ベイエリア南部に広がるIT産業の集積地として有名なこの地へのツアーを、ITエンジニア派遣のパソナテックが行った。同社に登録する派遣エンジニア12人が参加したこのツアーから、現地のIT企業の様子、エンジニアたちのワークスタイルやキャリア形成と、それを体験した日本人エンジニアの意識の変化についてレポートする。
前編では、視察した2つの企業、VMwareとヒューレット・パッカード(HP)について紹介しよう。
■環境に配慮した企業、VMware
仮想化技術で有名なVMware社。パロ・アルト市にある本社オフィスは、環境に配慮した造りになっている。建築家ウィリアム・マックダナウ氏によって設計されたこのオフィスは、「森の中の会社」がコンセプトだ。水をリサイクルし、オフィス家具もリサイクルされた木製製品を使用。もともと敷地内にあった大きな樫の木を切らないように、その周りに建物を配置するという気配りも行っている(写真をお見せしたかったのだが、残念ながらオフィス内は撮影禁止だった)。
カフェテリアでも、環境への配慮は見られた。周囲250メートル範囲内で作られたもののみを使用したオーガニック素材の料理は社員の健康と社会への配慮に基づいており、キッチンでもゴミは出さず、食器は腐葉土に変えるという徹底ぶりだ。スナックルームも、健康的なもののみを置くようにしているという。社員は無料で食べ放題。「コストはかかるが、スタッフの満足のため」だという。
マーケティング・マネージャのウォーレン・ウー氏による企業紹介からも、そうしたVMwareの姿勢はうかがえた。仮想化技術によってコンピューティングの変化をリードする、というビジョンをベースに、現在の同社の中心事業であるサーバの仮想化で「1000台のサーバを80台くらいに減らせる。サーバを1台減らすと、7000kWが削減できる。二酸化炭素なら4トンの削減だ。これは車1台半を減らすのと同じことで、55本の木を植えるのと同じ効果がある」と説明した。
VMwareオフィスにて、ウー氏のプレゼンテーションを聞くツアー一行 |
■世界中から優秀な技術者を採用
同社の現在の従業員数は、全社で約6000人。毎年、売り上げの伸びと同じペースで、人員も増やしている。毎週、60人から80人くらいの新入社員のオリエンテーションが行われている。特に研究開発分野では、世界中の数百校の大学と提携して人材を採用している。また、これらの大学にはソースコードも公開し、共同研究を推進しているという。
現在は仮想化技術の製品ベンダとして認知されている同社だが、ウー氏は「今後はサーバ上で行っている仮想化を個人のパソコンにも応用していく」と語った。企業において、個人のパソコンを管理するのは非常にコストのかかる業務の1つだが、個々の端末をシンクライアント化し、データセンターにすべてのデータを集約させることで、一括管理を行えるようにしようという試みだ。50台から100台くらいの個々のパソコンを1つのCPUで管理することができ、現在はオフラインに環境を持ち運ぶ技術も開発中だという。
環境に配慮し、従業員の満足を満たそうとするオフィスと、一般に知られている以上の技術や事業の説明を受け、多くの参加者が同社への認識を改めたようだった。ツアー終了後の感想の中でも、同社の視察への満足度の高さは多く聞かれた。
ISVソリューションエンジニアの デズモンド・チャン氏によるデモも行われた |
■2月から勤務中の吉澤氏が登場
VMware 吉澤剛氏 |
ウー氏によるプレゼンテーションの途中で、1人の日本人が(シャツにジーンズというラフな服装で)会議室に登場。2008年2月より同社でソフトウェアエンジニアとして働いている、吉澤剛氏だ。
日本でネットショップの運営などに携わった後、一念発起して渡米。シリコンバレーで働きたい、という思いからカリフォルニア大学サンタクルーズ(UCSC)校の分校でLinuxのカーネルやPythonを学び、別の会社でのインターンを経験した後、同社に入社した。
吉澤氏に日本の企業とのワークスタイルの違いについて聞いたところ、「日本ではきちんと会社勤めをしていなかったので、明確に違いといえるかは分かりませんが」と前置きをしながらも、「とても自由。定時はおろか、コアタイムもきちんとは決まっていません。結果を出せばよいという考えで、当日の朝に『今日は家で仕事をするからオフィスには行かない』というメールが来るほどです」と答えた。
また、同社のエンジニアのキャリア事情については、「常に必要な部署で必要な人材を採用しているので、先輩や後輩という概念がない。逆に、転職の機会はいつでもあります。日本人にはビザの問題があるので簡単ではないかもしれませんが。でもいまのVMwareは、出て行く人より入ってくる人の方が多いですね」と話した。
キャリアに関する情報については、LinkdInを使用するのが主流だそうだ。周りの人の多くが使っているという。また、求人サイトに履歴書をアップロードしておくと、リクルーターから頻繁に連絡があるのだという。転職先は「探せば簡単に見つかる」そうだ。
シリコンバレーといえばコミュニティの活動も盛んだが、吉澤氏はReview Board(オープンソースのソースコードレビュー共有サービス)の開発にかかわっている。ただ、いまはオンラインのみで、もっとオフラインで勉強会などにも参加していきたい、と語った。
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