Zohoユーザー会で、開発責任者と交流してみた
岑康貴
2008/6/23
さまざまな開発コミュニティやユーザー会が行う勉強会やイベント。果たしてそこではどんなトピックが話されているのだろうか。興味はあるけど、スケジュールや開催場所の関係で参加の都合がつかないという人もいるだろう。そこで、勉強会やイベントに参加し、その模様を伝える。 |
数多くの勉強会やユーザー会が開かれる昨今、企業が主導するユーザー会も少なくない。今回は少し変わり種だが、オンラインオフィスツールとして知られる「Zoho」のユーザーオフ会「Zoholics!」にお邪魔をさせてもらった。
Zoholics! は、Zohoを提供するアドベントネットが主催するユーザー会。昨年10月にスタートし、Zohoのユーザーと運営側との情報交換の場となっている。5月23日に開催された第3回では、30人ほどが会場に集まった。これまでにも単なる情報交換だけでなく、ユーザーによる活用コンテスト企画なども行われてきたが、この日は米国本社の開発責任者がスピーカーとして登壇した。その内容を紹介する。
■ビジネス・アプリケーションに広告モデルは合わない?
同社の日本法人でZoho事業を担当するのは、いずれも若いエンジニアばかりだという。この日も現場のエンジニアがZohoの現状と展望を説明した。そもそも同社の事業は企業向けのIT管理製品やセキュリティ商品、開発者向けのツールやテスト自動化製品などが中心。オンラインベースのワープロや表計算アプリケーションなどを含むZohoは一見、異端にも見える。
しかし、いくつかの新サービス紹介とデモの後に登壇した同社代表取締役の山下義人氏は、Zohoが同社のほかの事業と同じ「中小企業のIT化を支援する」ものであると語った。個人が使用できるZohoアプリケーション群は無料だが、それらはある意味で「アドベントネットの広告」であり、市場を広げるというミッションを負っているという。その中から、法人利用での課金につながればよいという考え方のようだ。また、「生産性向上を目的としたビジネス・アプリケーションの場合、広告を表示するモデルは合わないのではないだろうか」とも話した。
続いて、米アドベントネット本社からZohoの開発責任者、マニ・ベンブ氏が登場。本社やインドの開発オフィスの状況、Zohoの開発状況、Zohoの日本市場における展開などについて説明した。
■「開発とサポートに注力し、安価なサービスを」
オフ会の様子 |
ベンブ氏はSaaSについて、「ビジネス・ソフトウェアの4分の1はSaaSモデルになり、2011年までに193億ドルの市場に成長する」と、ガートナーの調査結果を引用し、SaaS形式を早くから採用してきたZohoがよいポジションにいることを示した。
また、日本向けにほぼすべてのZohoアプリケーションをローカライズすると明言。「絶えずサービスの品質向上に力を入れていく。そのために、Zohoのサービスに特化した専門のエンジニアチームを日本に置いている」と語った。
Zohoの開発に関しては、メインの開発オフィスがインドにあり、250人以上のエンジニアが開発に当たっていると説明。Zohoの各アプリケーションに専門の開発チームが存在するという。CentOSサーバでグリッド環境を構築しており、高い性能と可用性を確実なものにするために冗長アーキテクチャを採用しているそうだ。
さらにZohoのビジネスモデルに触れ、「伝統的な、高額なエンタープライズ・ソフトウェアのモデルは慢心の表れだ。彼らは、コストの60%を営業とマーケティングに費やしている。Zohoでは、本当にユーザーが満足するために必要な部分、すなわち開発とサポートに注力し、結果として安価なサービスの提供を可能にする」と述べた。すでにOEMパートナーとして、アメリカではIntelliworksやEntrepreneur、中国ではBaihuiなどが名を連ねているという。
最後にベンブ氏は、「これまでのソフトウェアは、インストールしなければならなかった。Zohoは常にWeb上に存在する。ソフトウェア自体は必要ない。インストールも必要ない。メンテナンスも必要ない。サインアップするだけだ」と述べ、Zohoがこれまでのビジネス・ソフトウェアを過去のものにすると話した。
■「実際のフィードバックが得られてうれしい」
アドベントネット Zoho開発責任者 マニ・ベンブ氏 |
この日、ベンブ氏へのインタビューの機会を得た。以下は一問一答だ。
――ZohoはSaaSという形式を採用しているが、SaaS市場についてどう考えているか。
ベンブ氏 SaaSは非常に大きな市場だ。Zohoとしてやってきたことが、世界の流れとマッチしていることはとてもうれしく思っている。しかし、SaaSの世界にはまだ、これだというような大きなプロダクトが存在しない。Zohoがその穴を埋められるようにしていきたい。また、SaaSもZohoも、企業向けだけではなく、教育市場という方向性も存在する。こちらも力を入れていきたい。
――今日、日本のユーザーと顔を合わせた感想は。
ベンブ氏 とてもうれしい体験だった。実際にユーザーの顔が見えると、すごくいいね。実際、Zohoはユーザー数がどんどん増えているが、単なる数字としてではなく、それを実感として感じるのが難しい。特に、開発者は内にこもりがちだから、こうした実際のフィードバックが得られる場は重要だと感じた。
――日本のユーザーはクオリティに厳しい傾向にあるが。
ベンブ氏 確かに、クオリティの向上は重要な課題だ。しかし、Zohoは常にアップデートし続けている。ユーザーからのフレンドリーなフィードバックを受けて、1つ1つ真摯(しんし)に対応していく、というのがZohoのスタンスだ。これが最もいい形だと考えている。
■企業とユーザーの交流の場
ユーザー会の終了後、同会場では懇親会が開かれた。会の本編ではユーザーからの質疑の時間が設けられていなかったためか、特にベンブ氏に対して、開発の裏側について質問をする人が目立ち、企業とユーザーの交流の場として懇親会が有効に機能している様子が見られた。その一方で、山下氏にビジネス面での提携の話をする人もおり、ちょっとした商談の場にもなっていたようだ。ユーザー同士での交流も盛んに行われていた。
「もともとはZohoを広げるため、キャズムを超えるために、Webサービスのイノベーターやアーリーアダプターを集めることが目的だった」と山下氏は開催のきっかけを話す。しかし実際に開催してみると、Zohoのテクノロジーに興味のある技術者や、ビジネス面で興味を持った企業の担当者などが集まってきた。その結果、サービスに対する要望などのフィードバックが多く得られるようになったという。当初の、どちらかというと「広める」という目的よりも、今は「フィードバックを得て、交流する」ことが中心になっている。
山下氏は「企業がユーザーとオープンな交流の場を持つというのは、難しいけれど重要なことだ」と語った。今後もこうしたユーザー会を開催していくという。個人の技術者だけでなく、企業がユーザー会を積極的に開催するということの重要さが見えたイベントだった。
関連記事 Index | |
|
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。