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Internet Week 2008 「IT Community Impact!」レポート

「勉強会しましょうか」が世界を変える

岑康貴
2008/12/4

IT勉強会が盛んだ。インターネットの普及によってイベントへの参加が容易になり、動画中継のインフラが整備されたことによって情報が流通しやすくなった。こうした流れを「世界を変える新たな潮流」としてとらえたイベントの模様をレポートする。

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 2008年11月25日に秋葉原コンベンションホールで開催された「Internet Week 2008」。その中で、「IT Community Impact! 〜世界を変える新たな潮流〜」というセッションがまる1日かけて行われた。

 活発化するIT系勉強会の中心人物たちが、IT系勉強会・コミュニティイベントの現状やノウハウ、課題を共有しようというものだ。セッションは「ITコミュニティイベントの概要」「地域コミュニティ」「運営をサポートするツール紹介」「コミュニティの未来を語る」の全4部。

 有料イベントではあったが、コミュニティ関連のセッションであるということから、当日はUstream.tvによって動画中継が行われた。

長きに渡って開催されてきた勉強会たち

 第1部「ITコミュニティイベントの概要」では、ビート・クラフトの小山哲志氏が司会を務め、日本UNIXユーザ会(jus)の法林浩之氏、カーネル読書会を主宰する吉岡弘隆氏、オープンソースカンファレンス(OSC)運営事務局の宮原徹氏、まっちゃ139勉強会のはなずきん氏の4人がそれぞれ「勉強会」の現状を語った。

 
 
法林浩之氏

 jus勉強会は1994年8月にスタート。当時、IT系セミナーが高価だったことから、もっと気軽に参加したいユーザーのための勉強会を実施しよう、というのが始めたきっかけだったと法林氏は語った。

 企画当初のコンセプトは「自己啓発」「レベルの底上げ」「継続的な開催」「収支均衡」の4つ。jus会員1000円、一般2000円という料金設定を行い、平日夜の開催と事前申し込み制の撤廃を通じて、自己啓発に努める人が気軽に参加できるような体制を整えた(ただし、需要があったため、後に事前申し込みシステムを整備した)。内容は初心者向けが中心。毎月開催を行い、必ず懇親会を行うようにした。また、安価な貸し会議室で行う、資料はコピーで済ませるなどで支出を抑え、支出が収入(参加費用)を超えないことを目標とした。

 こうして始まったjus勉強会は、実施回数158回を重ね、毎回平均して20人から30人の参加者を集めるようになった。各回で赤字になることはあったが、年単位で赤字になった年はないという。ただし、近年はコミュニティ主催の勉強会そのものが全体として増加傾向にあるためか、参加者数がやや減ってきているという。

 
吉岡弘隆氏
 

 吉岡氏は「カーネル読書会の作り方」と題し、「インターネットが個人の人生を変えた」と断言。シリコンバレーで体験した「技術者が企業や組織の壁を超えて、学生たちと共に行っている勉強会」が日本でもあっていいのではないか、との思いから、自らカーネル読書会を立ち上げたと語った。「横浜Linuxユーザグループ(YLUG)のメーリングリストでシステムコールの実装について質問したのがきっかけ」だという。「Linuxカーネルを読みたいなんて人がそんなにいるだろうかと思っていた」が、インターネットを介してそうした人と出会うことができるようになったのが今の時代だと吉岡氏は語った。

 カーネル読書会は1999年4月にスタートし、9年半で92回開催。30人から80人程度の参加者が集まる(会場の規模による)。Linux関連の話題をゲストスピーカーに話してもらい、そのまま会場内でピザとビールを振る舞うのが基本スタイルだ。アンドリュー・モートン氏、グレッグ・クローハートマン氏など海外からのゲストも招致している。吉岡氏によれば、「お金は払えないけど来ないか、とメールをする。断られることも多いが、たまに来てくれる」のだという。

 
宮原徹氏
 

 「勉強会の運営は難しくない。会場を押さえてしまえば、宴会の手配は目をつぶっていてもできる」と吉岡氏は語る。最も重要な「内容」の選定は「わたし(吉岡氏)が面白いと思うもの」という基準が絶対。現在の悩みは、「学生の参加が少ないこと」と「来ない人は決して来ないこと」だという。

 宮原氏は「オープンソースと地域作り」と題して、OSCと地域のかかわりについて語った。OSCはオープンソースコミュニティの活動成果の発表の場や、開発者とユーザーの出会いの場を提供することが主な目的。2004年のスタートからこれまで、東京のみならず、北海道、新潟、名古屋、京都、福岡、大分、沖縄など日本各地で開催してきた。もともと「オープンソースソフトウェアを広めていかなければ」という思いから、教育コンテンツを制作し、「プロジェクタを背負って全国行脚していた」ことが始まりだと宮原氏は語った。

 
 
はなずきん氏

 地域ごとに特徴がある、と宮原氏は語る。長岡技術科学大学を会場に使用したため学生が多く参加した新潟、地元支援団体「LOCAL」の立ち上げへとつながった北海道、Web制作関係者が多く、地元発のこだわりが強い名古屋、自治体が強くバックアップした島根など、オープンソースコミュニティを通じた地域振興の事例が挙がった。

 はなずきん氏は「IT勉強会カレンダー」を紹介。1日に1時間から1時間半をかけて、「気が向いた時に、気負わずゆっくり、自分のペースで」更新していると語った。また、午後のセッションにも登場する「まっちゃだいふく」氏の「情報は発信元に集まる」という言葉を引用した。今後もさまざまな開発者と協力して機能追加をし、良いものにしていきたいという。

「勉強会しましょうか」から始まった

 第2部は「地域コミュニティ」をテーマに、北海道の技術系地域コミュニティ「LOCAL」の澤田周氏、日本PostgreSQLユーザ会 九州支部の清末直氏、関西オープンフォーラム(KOF)の安田豊氏、栃木Ruby勉強会「toRuby」の池澤一廣氏の4人がそれぞれの活動を紹介し、パネルディスカッションを行った。

 澤田氏は、LOCALを中心とした北海道での技術コミュニティの試みについて説明。札幌地区では2004年から毎年オープンソースソフトウェアのイベントが開催されているが、インターネットの普及によって地域ユーザーグループの活動が停滞してきており、また北海道が「物理的に広過ぎる」ため、アクティブな人材が札幌に集中してしまうという課題があった。さらに、イベントを開催するだけの潤沢な資金がない、学生が首都圏に就職してしまうなどの悩みを解決したいと考えていたという。

 こうした課題の解決を目的にLOCALを結成。イベントの企画・開催や、地域の技術イベントの開催支援、コミュニティ間の交流促進などを行う「コミュニティのためのコミュニティ」として活動している。地域に技術者文化を根付かせるのが目標だという。澤田氏は「LOCALは北海道限定である必要はない。日本中のいろいろな地方でLOCALが立ち上がっていくことを望んでいる」と語った。

左から澤田周氏、清末直氏、安田豊氏、池澤一廣氏

 清末氏は、地方のイベントにおいて「人が集まらない」「毎回来る人が同じ」「スピーカーがいない」などの課題がよく挙がるが、実はこれらは「地方だから、という問題ではない。どこでも同じ問題を抱えている」と主張。コミュニティを成功に導くには「他のコミュニティにも積極的に参加し、横のつながりを広げていく」「勉強会やセミナーを定期的に行い、活動実績をWebなどに公開する」「スピーカーがいなければ、自分で話す」の3点が重要と持論を展開した。

 安田氏は「KOFはコミュニティではなく、単発の勉強会」と断った上で、「関西を元気にしようという目的で活動している」と話した。原則、入場無料にし、企業の協賛を募って「赤字なしで黒字なし」をキープしているという。小部屋で行う小さなセッションを数多く実施するのが基本路線。「お金をかけずに規模感のあるイベントを実施できるようになってきた」と語った。

 池澤氏はtoRubyを始めるきっかけを紹介。栃木で自営業を営んでいたが、Rubyについて学びたいと一念発起。dRubyの作者である関将俊氏が近くに住んでいることを知った池澤氏が、関氏に「Rubyを教えてください」と声を掛けたところ、関氏から「勉強会しましょうか」と持ちかけられたという。

 日常の業務を独りで行っている池澤氏は、勉強会を始めたことによって「自分の生きる文脈や、人との出会いの場を発見した」と語った。40歳を過ぎてからプログラミングを始めた池澤氏の「もっとtoRubyのような小さな勉強会がたくさんできてほしい」というメッセージが印象的だった。

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