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組み込みエンジニアは何を見るか

第8回 組み込みATOKは、パッケージとここが違う!

三浦優子
2007/12/13

ATOKブランドを守る努力

 組み込み開発といっても、あくまでもATOKというブランドを背負っているだけに、ゼロから新しい組み込みソフトを作る場合にはない苦労も多いという。

 同社のアライアンスビジネス部 アライアンス企画推進グループ 課長 藤井栄一氏は「われわれはあくまでも、ATOKというブランドがある製品を提供しています。受託でソフトを開発するのであれば、メーカー側にいろいろと口を挟む余地はないと思います。が、ジャストシステムのATOKを提供する以上、われわれとしてもブランドを守る責任があるのです。相手先に常駐して開発することを求められても、それはしないなど、ほかの組み込みソフト開発事業者とは異なる戦略を持って対応しています」と説明する。

 確かに、操作環境がまったく異なるとはいえ、「ATOK」というブランドが付いている以上、エンドユーザーはパソコンで利用するATOKを思い浮かべて利用する人も多いだろう。ところが、実際には入力環境もUI(ユーザーインターフェイス)も、機器ごとにまったく異なる。その中でどうATOKらしさを発揮するのかという点も、プロダクトオーナーに課せられた使命となる。

 「ATOKといっても、パソコンではキーボードで入力しますが、携帯電話ではテンキーで入力します。パソコン用と組み込み用では、チームはまったく別で開発を進めています。パソコン版ATOKは、もはや完成された域に達していると思いますが、ほかのデバイスでATOKを利用するというのはまだまだ発展途上ですから、省入力機能や、押し間違いをフォローするといった機能を搭載することで、使われる方に『ああ、これはATOKだ!』と思ってもらえるものに、仕上げていかなければなりません」(関氏)

メモリの割り当てを巡る水面下の攻防

 対応する機器の中でも、新しい製品が登場するスピードがダントツに速いのが携帯電話だ。新しい携帯電話には、前の製品よりも機能が向上したATOKが求められる。

 「半年ごとに新しい携帯電話が出てきますから、ATOKの使い勝手もそれに合わせて向上させていかなければなりません。メーカー同士の競争も激しいですから、われわれもいろいろと苦労しています」と関氏は話す。

 営業を担当する藤井氏によると、携帯電話の場合、メールの重要性が増してきたことによって、端末メーカー側の対応も大きく変わってきたと指摘する。

 「いかに効率よく文字入力ができるのかで、端末に対する評価が変わってきていますから、昔以上にATOKの重要性をよく理解してくれるようになったと思います」(藤井氏)

 場合によっては、新しい機能を提案することで、割り当てられるメモリ容量が予定よりも大きくなるといったこともあるそうだ。

 「『この機能が入るのなら』といってもらうようなこともあります。相手にそういってもらえるような機能を開発していくことで、ATOKというブランドを持った製品を組み込みで提供する意味があるのではないかと思います」(関氏)

 ブランドを背負って組み込み開発に参加するということは、機器メーカーと協力していくだけでなく、相手の期待をいかに上回ることができるのか、その勝負をするということなのかもしれない。

身の回りの機器にATOKを載せた場合を想像する

 組み込みソフトを開発する先輩として、これから新たに組み込みソフト開発にかかわりたいと考えているエンジニアは、どんな勉強をすればいいのかを関氏に聞いてみた。

 「基本的には普通のプログラミングの勉強をすればいいということになると思います。開発環境は本当に千差万別ですから、これを勉強しておけば大丈夫ということはないんですよ。例えば、以前は開発環境としてはLinuxが多くなるといわれていましたが、最近は結構Windowsも多い。プログラマとして、いろいろ経験しておくことが大切ということなのかもしれません」

 プログラマとしての修業とともに、自分の身の回りに存在する端末を見て、「この端末が新たに文字入力機能を持ったらどうなるのか?」という想像をめぐらせることも、よいトレーニングになると関氏は指摘する。

 「ATOKを新しい機器に組み込むということは、それまでは文字入力や変換を行っていなかった機器に変換機能を持たせることになるわけですから、そういう想像は重要です。われわれはハードウェアメーカーではありませんから、ハードの在り方を変えることはできません。しかし、ソフトによってそのハードの新しい可能性を広げるお手伝いをすることはできるんです。想像したソフトが新しい機能を生む可能性も十分にあると思います」(関氏)

 新しいハードウェアにATOKを搭載すると、発売より前に新しいハードウェアを目にしたり、「開発用に基板どころか、段ボールに半導体が載った試作機が届くこともあります」(関氏)という。他人より先に新しいハードウェアを目にするのは、「絶対に人にいえない苦しさもありますが、一足早く新しいものを見ることができた楽しさもあります」と関氏は笑う。

 新しいものに挑戦する好奇心と、取引相手を考えて行動していくことが組み込み型ATOKの開発者に必要なものといえそうだ。

 

今回のインデックス
開発環境が機種ごとに違うことも
ATOKのブランドを守ったり、メモリの割り当て増を狙ったり

 

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