コラム:自分戦略を考えるヒント(8)
目標を確実に達成する手法
〜まずは「将来あるべき姿」を描こう!〜
堀内浩二
2004/1/22
こんにちは、堀内です。今回は、昨年末にお会いしたプログラマの吉川尚人さん(仮名・28歳)との会話から話を進めます。彼は大きな目標を持っているのですが、それを実現するにはどうすればいいのかに戸惑っているようでした。 |
■自分の目標から遠ざかっているのでは……
吉川 一昨年から、年始に自分の目標を紙に書いています。今年は「独立」と書いたのですが、何か無理しているような気がして……。
堀内 いいじゃないですか。考えたことを言葉に残しておくことは有効ですよ。
吉川 実は2003年も同じことを書きました。いまの仕事はシステム開発のプログラミングが中心です。このままうまく進めば上流工程の仕事を覚え、プロジェクト管理を任されて……というキャリアになると思います。ただ、その流れの延長に「独立」というキャリアが見えてくるわけではありません。
堀内 いまの仕事に不満があるわけではないのですね?
吉川 設立から数年のベンチャーなので大変なこともありますが、「スキルを磨く」という意味では、恵まれた環境だと思います。しかし、いまのままでは自分が立てた目標に近づいているのかがよく分からないのです。むしろ、遠のいているように感じることもあります。
■未来を起点にして現在の自分を考える
堀内 なるほど。では未来を軸に考えてみたらどうでしょうか。未来のキャリアを考えるには、大きく2つの方法があります。
1つは「Forecast(フォーキャスト)」。それは台風の進路予想図みたいなものです。この地点までこのスピードでこの道を進んできたから、次の時点にはこれくらい進んでいるかな……というように、未来の予測をすることです。この考え方をキャリアにも応用して先輩エンジニアや友人、転職エージェントに相談すれば、だいたいのイメージをつかめるのではないでしょうか。
●Forecast(フォーキャスト)の考え方 |
図1 現在を起点にして未来のある地点の状況を予測するもの。このアプローチだと、「将来あり得る姿」しか描けない |
吉川 転職エージェントには相談したことがあります。自分の“市場価値”を知りたかったからです。
堀内 わたしも2年に一度くらいは相談していました。それはさておき、市場価値が測定できるということは、ITエキスパートには労働市場(マーケット)があるということですよね。一定の需要があると分かっていれば、安心して特定のスキルを伸ばすことにコミットできます。ところが独立の場合は、比較検討する材料が少ないので予測が立てにくい。10年、15年といった長期的な将来を考えるときも、同じです。
もう1つの考え方は「Backcast(バックキャスト)」。こちらは、まず「いつ(何年後に)」「どうなっているのか」を決めて、その未来を起点にして現在へとさかのぼってくることです。この考え方をもとに、吉川さんのキャリアビジョンを教えてもらえますか。
●Backcast(バックキャスト)の考え方 |
図2 まず「将来あるべき姿」を描き、未来のある地点における目標を実現するには、現時点で何をすべきかの計画を立てるもの |
吉川 そうですね。「33歳・2008年に(=いつ)」「仲間3人を集めてITコンサルティング事業を開始する(=どうなっている)」にします。4人で、というのは漠然とイメージしたもの。
堀内 とにかく到達点が決められたので、次は2008年時点の自分が書くであろう年表を作ってみましょう。
■プロジェクトオーナーは「自分」。リスケもOK
吉川 未来の自分を起点にして、年表を書くといわれても……。
堀内 ですよね。ただ、何が何でも4年後には独立するわけですから、そのときに持っていたいスキル・資金・人脈などについて“思い切って”書き込んでください。その次は中間地点の2006年、その次は2005年に、自分が起こしていなければならないアクションを書き込んでいきます。プロジェクト管理でも、それまでの実績から導いた予測と、ゴールから逆算した必達値とをすり合わせながら予算や工数をやり繰りしますよね。それと同じ手順です。
吉川 いざ書こうとすると書けないことだらけなので、まずは何をしなければならないかを書いてみます。それなら手を付けやすいので。そう考えてみると、「4年後の独立」は難しいかもしれません。やはり「35歳・2010年」にしておこうかな(笑)。
堀内 目標自体がタイト過ぎるなら、リスケジュールしても構いません。プロジェクトのオーナーは「自分」なので、リスケも自分の気持ち次第で行えます。
ただ、わざわざ「バックキャスト」という概念を持ち出した背景を説明させてください。これは、環境政策を立てるときに使われる言葉です。自然環境や資源は、なんとなく無限にあるような気持ちで使っていますが、現実はそうではありません。でも、なかなかこれまでのペースは落とせないし、コストが高い代替システムへの移行も進まない。とはいえ、破壊・枯渇という決定的な予測(フォーキャスト)が手に入ってからかじを切っても、間に合わない可能性があります。
そこでまず「●●年後にソフトエネルギーに完全に移行している社会」を描き、そこにどうやって到達できるかを考えていくのがバックキャストの考え方です。いわば、「過去から現在への延長線上にない、不連続な未来を作り出す」ための方法論です。吉川さんのように大きなチャレンジ目標を持っている方は、一度じっくり試す価値があるのではないでしょうか。
■未来の予定はどんどん修正して構わない
吉川 ずるずる引き延ばしにしないための方法ですね。しかし、その年表は仮説だらけになりませんか。
堀内 そうです。何しろ未来の話だから(笑)。何かいい話があってアッサリ実現できるかもしれないし、トラブル続きでぜんぜん前に進まないかもしれません。だから、年表は(最終期限以外は)どんどん修正していきますし、複数のシナリオを作ってもいいのです。とにかく進みたい方向と、数年後にいたい位置と、現在位置を自分なりにつかもうということです。
吉川 よく分かりました。年表を仕上げる前に、実はもう1つ気掛かりがあります。正直いって、「独立」したいのかどうか、よく分からないのです(笑)。学生時代から友人と「やっぱり独立でしょ!」と語り合ってきたので、それがそのまま目標になってきたような気がします。ただ、こうして将来のキャリアビジョンを具体的に考えてみると、そこまでして「ホントに独立したかったのか……」という迷いを感じるときもあるのです。
堀内 それが普通だと思いますよ。転職したいと思っても、いざチャンスが来ると「いや待てよ、転職していいのかな……」と考え直したくなるものです。独立のように、自分で一歩を踏み出さなければ何も始まらない場合はなおさらのことです。特に大きなチャレンジを目標にする場合は、前回の記事で説明したように自分なりの「よい決断」(機を逃さない決断 ・後悔しない決断)を立てたいものですからね。
筆者紹介 |
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。 |
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