コラム:自分戦略を考えるヒント(12)
夏休みは「人とのつながり」に投資しよう!
〜“弱いつながり”ほど効果が大きい〜
堀内浩二
2004/8/5
こんにちは、堀内です。先日ランチをご一緒したSEの大木貴雄さん(仮名・33歳)と、「夏休みに何をするか」をテーマに盛り上がりました。猛暑の今年は夏休みの使い方にもちょっと一工夫して、楽しみながら視野を広げるような経験ができるといいですね。 |
■7日間の夏休み。さあ何に使う?
大木 いやー暑いですね。早くも夏バテ気味です……。
堀内 夏休みが待ち遠しいって感じですね。今年はどのくらい休みが取れそうですか。
大木 たぶん7日間くらいです。でも「資格の勉強をしよう」というモードじゃないなあ、今年は。まとまった時間こそ、本来はスキルアップのチャンスなのかもしれませんが。
堀内 普段キャリアアップ、スキルアップとアップアップしているのですから(笑)、この夏休みは好きなことに時間を使ってみたらどうですか。
大木 ともかく、僕は貧乏性なのか、好きなことばかりしていると、何か気持ちが焦ってしまうのです。「こんなにのんびりしていていいのかなあ」と。
堀内 とはいえ7日間もあるじゃないですか。「夏休みはのんびりと好きなことをして過ごす意義」を考え、安心して「アップアップ」状態から離れられるようにしてみましょうよ。そもそもスキルアップは「長い休みがなければできない」というものではありませんよね。
大木 @IT自分戦略研究所のITトレメのように、「細切れの時間を活用しても勉強はできる」ということですね。
堀内 そうです。もちろんまとまった時間を取って集中して勉強することにも意義はありますが、「いまは勉強しない理由」としてそのように考えておきましょう。では「夏休みでなければ」できないこと、あるいは「夏休みならでは」というと、何でしょう?
■「人とのつながり」を再確認する
大木 まずは「帰省」かな。
堀内 それは夏休みらしいですね。帰省して同窓会に出たり地域の活動に参加したりするのは、自分の日ごろの生活を客観的に見直してみるチャンスですよ。
大木 確かに。帰省するのは数年に一度ですけど、「田舎暮らしもいいなあ」と思ったり、「でもまだ帰る時期じゃないなあ」と思ったり、あれこれ考えてしまいます。
堀内 普段はライフスタイルの違う人と出会うことが少ないと思いますので、「こういう生き方もあるんだ」というサンプルを収集するつもりでいろいろな人に会ってみるといいと思いますよ。
「人と会う」ことをテーマにすると、帰省でなくてもいろいろありますよね。大木さんはどんなきっかけがありそうですか。
大木 山歩きが趣味なのでその集まりとか、その関連で環境ボランティアのサークルに1つ入っていますけど、そのくらいかな。
堀内 そういう人たちのITリテラシーはどうですか。
大木 いや全然ダメですよ(笑)。ダメなんていっては失礼ですけど、メーリングリストもホームページも僕が管理人やっています。
堀内 ITの知識が決定的に足りなくて困っている領域はいくらでもあります。大木さんも仕事ではかなりディープな業務アプリケーションを組み、最先端の技術を追いかけているのですから、夏休みにはそういう人たちにヒアリングして、ITを使って何ができるかを議論したり、何かの作業を手伝ってあげるのもいいのでは? 実はそういうつながりが仕事や転職に結び付いたりするんですよね。それが「弱い紐帯(ちゅうたい)」というものです。
■「弱いつながり」ほど効果が大きい
大木 チュータイって何ですか。
堀内 ここでは「Weak ties」(人とのつながり)という意味で、アメリカの社会学者がいまから30年前に調査を行って有名になった概念です。紹介機関・親族・転職前の会社の仲間などから紹介を受けて転職した人よりも、職場の外の友人・知人からの紹介で転職した人の方が転職後の満足度も収入も良かったんだそうです。
大木 へー、そんなものですか。
堀内 確かに自分のケースを考えてみても、そうだと思いますよ。親しい人とはもともと多くの情報を共有している面もありますが、あまり親しいと気軽に仕事を紹介しにくいものです。1度一緒のプロジェクトで働いたことがあるけど後はあいさつメールくらいの人の方が、「もし興味があったら……」という感じで紹介しやすいですね。
逆に、過去に自分が紹介を受けた仕事を振り返ってみても、ボランティアで一緒だった人とか、以前の同僚の知人とか、「弱い紐帯」経由が多いです。
面白い例では、以前こんなことがありました。知人から興味深い仕事を紹介されたので友人に話してみたら、「何だ、その案件だったらオレの方が詳しい話できたのに……」。親しい人はわたしのことをよく知っている(と思っている)が故に、「どうせ忙しいだろうと思って……」とか「こういうのは興味ないと思って……」といって遠慮したりするんですよね。「弱い紐帯」の力を実感した瞬間でした。
■「好きなこと、楽しいこと」でつながりを深める
大木 いわゆる「コネ」ということですかね。あまりコネに頼るのは好きじゃないんですけど…。
堀内 いやいや、別に「いざというとき、特別な便宜を図ってもらえるように人脈を広げておこう」というような話ではありません。いいたかったのは、直接的な利害関係がなくても人のつながりは意外に大きな力になるから、自分の業界を越えてつながりを求めていこうということです。
大木 なるほど。でも、なんか見返りを期待しているみたいに思われるのもイヤですよね。
堀内 それはそうですよ。そういうつもりで付き合っていると自分もイヤですし、長続きしないじゃないですか。だからこそ、損得勘定抜きで没頭できる「好きなこと」をやるのがいいいのです。
大木 おお、うまくまとめましたね(笑)。僕はそんなに活発に人と会ってワイワイやるというタイプでもないので、巡り巡っていいことがそんなにやってくるかどうかは分かりません。だけど、少なくとも今年の夏休みは楽しそうなことをいろいろやってみますよ。
堀内 わたしもあまり出歩いて人脈を広げてうんぬんというタイプではないのでよく分かります。わたしが個人的に大事だなと感じているのは2点あります。1つは「好きなこと、楽しいと思えること」でつながること。これは先ほど説明したように、「人脈を広げよう」なんて考えていると、ついインスタントに見返りを求めてしまいたくなるからです。もう1つは「無理をしないこと」ですね。性急に信頼を得ようとして、できもしないことを引き受けたりするのも、裏目に出るばかりですからね。
大木 要するに自然体でいればいいと。それなら簡単ですね。
堀内 簡単なはずですけどね。わたしはこれでもいろいろ欲があるので、これを守るのは難しいです……(笑)。
筆者紹介 |
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。 |
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