コラム:自分戦略を考えるヒント(17)
出合いの連鎖が新たなキャリアの道をつくる
堀内浩二
2005/3/4
■独立を目指した理由
高速なデータベース管理システムのMySQL、高機能なコンテンツ管理システムとして普及しつつあるPHPアプリケーションのXOOPS、そしてEclipseのPHP開発用プラグインであるTruStudio。これらはすべてオープンソースのアプリケーションであり、今日紹介する坂井さんが中核メンバーとして参加されているものでもあります。
今月は出合いを上手に生かして、好きなことが仕事につながっているように見える坂井さんから自分戦略のヒントを学びます。
■XOOPSとの出合い
アートライ 代表取締役 坂井恵さん。XOOPS日本公式サイト管理チーム、TruStudio日本ユーザ会世話人代表、日本MySQLユーザ会副代表などを務める。最近の趣味は歌舞伎の観劇と自転車ロードレース観戦 |
堀内 現在は1人で会社をやられているんですよね。
坂井 現在で7期目です。社員がいた時期もありましたが、いまは1人です。
堀内 オープンソース活動は以前から参加していたんですか。
坂井 いえ、XOOPSが初めてです。ですからまだ3年たっていません。
堀内 ではPHP(XOOPSの開発言語)を通じてXOOPSをお知りになった……?
坂井 いえ、PHPも多少はやりましたが、当時のメインはDelphiとOracleで作るような業務アプリが中心でした。XOOPSは、ある異業種交流会で知人から、紹介というか宣伝されて知りました。
堀内 ……で、ハマったと(笑)。
坂井 まずアプリケーションとしての出来の良さにびっくりしました。開発のプロとしてショックを受けたといってもいいかもしれません。オープンソースというのはすごいと。そこで早速XOOPSの日本サイトにユーザー登録してあれこれ首を突っ込んでいるうちに、いつの間にかWebサイトの管理チームに入っていました。
■TruStudioとの出合い
堀内 TruStudioもその延長で?
坂井 フリーで使えるPHPの開発環境を探しているうちに、EclipseのPHPプラグインをロシア人が開発していることを知りました。それが現在のTruStudioなんですが、もちろんロシア語は分からないので英語で苦労しながら開発者とやりとりをして、日本語のリソースファイルなどを作りました。
XOOPS入門――ひとが集まるWebをつくる。 坂井恵、天野龍司著 翔泳社 ISBN4-7981-0618-6 2004年5月25日 2800円(税込) |
堀内 わたしが初めて坂井さんに会ったのは、その半年くらい後のXevというXOOPSの講演イベントでしたね。坂井さんの板についた司会ぶりをよく覚えてますよ。
坂井 実は人前で話すようなことは、あれが初めてといってもいいくらいだったんですよ。発起人の仲間に司会を押しつけられちゃって、おかげで準備のために徹夜しました(笑)。
堀内 徹夜? それはびっくりです。でも交代で発表しただけでしたよね。そんなに準備することありました?
坂井 いや、話すのが苦手だから「ここで間が空いたら何を話そう」とか考えだすと、そのためのネタを仕込んでおかなければ安心できなくなっちゃうんですよ。Xevはこれまで3回やってますけど、3回とも司会で、3回とも徹夜でした。
堀内 すごい……。こういっちゃなんですけど、一文の得にもならないことをまあ(笑)。
坂井 でもおかげさまで、人前で話すことに関する苦手意識はすっかり消えましたね。むしろ、少し楽しくなってきました。XOOPSについては、ああいう挑戦の場をもらえたことが最大の報酬だと思います。
堀内 挑戦といえば、昨年はXOOPSの入門書(『XOOPS入門 ―― ひとが集まるWebをつくる。』共著、翔泳社)の出版までされましたよね。あれはやっぱり管理者チームということで坂井さんに声が掛かったんですか。
坂井 いえいえ。実はMySQLの活動からつながったんですよ。
■XOOPSが生んだMySQLとの出合い
堀内 あ、そうなんですか。それは面白い。では先にそちらを聞きましょう。XOOPSが使っているDBMSであるMySQLのユーザー会(日本MySQLユーザ会)に入ったきっかけは?
坂井 たまたまXOOPSの集まりでMySQLのユーザー会の方と出会ったのがきっかけです。
当時MySQLは知名度が高くなかったので、これを広めるために入門記事を雑誌の連載にしてもらえないかなと思いつきまして、知人のツテをたどって出版社に企画を持ち込んでみました。
■MySQLがきっかけでXOOPS本に
堀内 そしたらXOOPSの入門書も書いてくれ、と?
坂井 いやいや(笑)。自己紹介したときに「こんなこともやっています」という形でXOOPSの話をしたんです。ただ、そのときはそれだけでした。幸いMySQLの方は連載が決まりまして、記事を書いたりしているうちに、出版社の方からXOOPSの入門書のお話をいただいたんです。
堀内 本を書かれたことで本業の方にも効果がありましたか。
坂井 研修講師の機会などをいただけました。ただ、XOOPSは私にとってはあくまでも楽しんでやっている趣味ですので、本業との相乗効果を狙って何かやることはないですね。
ただ、オープンソース活動への参加が仕事につながったかと聞かれればYesです。例えば、現在最も深く仕事上のお付き合いをさせていただいている会社とは、ある異業種交流会でMySQLの話をしたのがきっかけでした。
■好循環が生まれた理由
堀内 お話を伺っていると、趣味と仕事が、無償と有償の活動の中で好循環を形成していると感じます。
坂井 それは美化しすぎな気がします(笑)。ただ、振り返ってみると、節目節目で本当にいい方に出会えてきたかなという幸運を実感します。
堀内 幸運といいますが、意識して出会いの種をまかれて来られていますよ。
坂井 人と会うことは好きです。異業種交流会に参加するのも、別にビジネスに結び付けてやろうと思っているわけじゃありません。やっぱり「面白い」という気持ちが先にあって、結果としてその中のいくつかが仕事につながってきたという感じです。
■キーワードは継続
堀内 XOOPSに出合ってからまだ3年たってないわけですから、ずいぶんいろいろあったと思いますが、坂井さんが、これは大事だなと思っていることはありますか?
坂井 ええ。「アンテナを伸ばしておく」こと、あと「継続する」ことですね。
堀内 「アンテナ」といっても、テレビのアンテナみたいに受信専用じゃないですよね(笑)。
坂井 そうですね(笑)。情報収集だけをしているよりも、発信した方が楽です。情報の方から寄ってきてくれますから。なので興味のあることは、なるべくいいふらして回ることにしています。
堀内 もう1つの継続するというのは?
坂井 確かにオープンソースをきっかけにしていろんなことがつながったのはここ2年くらいの話なんですが、よく考えてみると、自分が頑張って継続してきたことが土台にあると思うんです。
堀内 あ、それは分かります。例えばさっき連載記事を企画されたといっていましたけど、それ以前から文章は書かれていたわけですよね?
坂井 そうですね。いつか本は書きたいなと思っていましたので、文章を書く機会は積極的に作りました。
堀内 やはりそうですよね。そういった蓄積があったから、チャンスを大きく生かせたのだと思います。いきなり1万字の連載を半年とか、本を1冊とかいわれても無理ですもん(笑)。MySQLとのかかわりも、データベース周りを強みとしたいという軸があったからこそでしょうね。
坂井 そうですね。Oracleは一生懸命勉強していたので、それとの比較においてMySQLを理解することは比較的容易でした。あと、TruStudioの日本ユーザー会(TruStudio日本ユーザ会)のWebサイトなども、あまり更新していないのですがアクセスは結構あったりして、これもいち早く立ち上げて地道に運営を続けているからかなと思っています。
■インタビューを終えて
「1人カンパニー」の社長というのは忙しいものです。しかし、ちゃんと無償の活動に時間を割いて、それが巡り巡って仕事につながっていく。特にこの2年くらいのお話は聞いていてワクワクしました。
短期的に帳尻を合わせようとしても思うようにはいかないものです。短期的な見返りが期待できないとすれば、その活動自体が面白くなければ続けられません。
面白いと感じることをやるから続けられる。続ければいつかチャンスが来る。そのチャンスを生かすための蓄積を怠らない。
こうしたスタンスを大事にすることで、面白いことと仕事との好循環が期待できるのではないでしょうか。
筆者紹介 |
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。 |
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