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コラム:自分戦略を考えるヒント(24)
専門バカに陥らない心掛け

堀内浩二
2005/10/27

専門バカという言葉から連想するもの

 今回は、専門性は高めたいが、「専門バカ」にはなりたくという悩みです。こうした悩みを持つ人は、意外と多いのではないでしょうか。それでは大手システムインテグレータで働いている相談者の渡辺さん(仮名、男性、27歳)の話を聞いてみましょう。


渡辺 僕は大学時代にコンピュータを学んだわけではありませんが、この仕事を始めてからは純粋に技術に興味があって続けています。今後も、どちらかといえばマネジメントの方向でなく、アーキテクトとして先端技術にかかわれるポジションで仕事をしていければと考えています。ただ「専門バカ」とか「ビジネス音痴」とか呼ばれるのは嫌なんですよね。

堀内 実際にそういわれたことがあるんですか?

渡辺 そういうわけではないんですが、営業部門と話をしたりすると、やっぱり話が噛み合わないこともありますよね。そういう時に何となく……。

堀内 感じると。渡辺さんは、専門バカという言葉からどんなイメージを連想されますか?

渡辺 えーと、まず「視野が狭い」。あとは「頑固」で「こだわり」が強烈という感じです。

堀内 そういう意味でいうと、営業の視点しか持たないのもまた営業の専門バカということになりますね(笑)。今日はそれは置いておいて、何があったら視野が広がるんでしょう?

渡辺 よくいわれる話ですが、「顧客志向」が足りないなんていいますよね。実際、僕の立場だとそれほど客先に出るチャンスもないので、いきなり顧客志向といわれても、どうしようもないですよね。

ミルのことから考える

堀内 渡辺さんの悩みは、実はけっこう普遍的な悩みだと思います。営業の方だって、現場では顧客のニーズをつかむのに苦労しているはずです。では「専門バカ」に陥らない簡単なエクササイズをご紹介しましょう。

渡辺 お願いします。

堀内 例えば、渡辺さんがコーヒー豆をひくミルを買うとします。普通の金属刃とちょっと高いセラミック刃と、どちらを買いますか?

渡辺 うーん、いいものだったらちょっと高くても買いますけど、セラミックの方はどういいんですか?

堀内 どうだったらうれしいですか?

渡辺 まあ、長持ちしてくれれば。そう考えると、セラミックは硬いから多分長持ちしますよね。

堀内 そうですね。さらに、おいしい方がいいんじゃないですか?

渡辺 それはそうですが、刃が違うだけでしょう?

堀内 いえ、メーカーによると風味がいいらしいですよ。

渡辺 どうして?

堀内 金属刃では金属臭がコーヒー豆に付くんですが、セラミック刃ではそれがないから、だそうです。

渡辺 なるほど。じゃあセラミック刃にしようかな。

堀内 お買い上げありがとうございます(笑)。いまの話を整理すると、こんな感じですね(図1)。

図1 コーヒーミルの場合の性能・機能、便益、特徴を挙げる

技術ありきの発想でも専門バカではない

堀内 これはセールストークを組み立てるときなどに使われるフレームワークです。渡辺さんは「長持ち」して、できれば「おいしい」コーヒーが作れるミルが欲しかったわけですから、ベネフィットだけを考えていました。一方、ミルの開発者は、セラミックという素材で刃を作ってみたかっただけかもしれません。

渡辺 まさか、そんなことはないでしょう(笑)。製品開発というのは市場のニーズに従って行われるものですよね?

堀内 本来はね。でも、あながちそうでもないですよ。例えば渡辺さん、「XMLデータベースを使ってみたい」といわれているそうですね。それはなぜですか?

渡辺 やはり次世代のデータベースですから、技術的に興味がありますよ。

堀内 ミルの開発者も、次世代の刃に技術的な興味があったのかもしれませんよ。

渡辺 分かりました。すでに専門バカな発想になっているわけですね。

堀内 技術ありきの発想がすなわち専門バカということではないと思います。エンジニアとしては新しい技術にキャッチアップしておくべきですし、どうせなら楽しいことをやった方がいいですよ。ただし、「XMLデータベースだから」採用したい、という理由では相手に通じないので、上司や顧客と共有できるシナリオを作る必要があります。現状はこんな感じですから、これを埋めていきましょう(図2)。

図2 この場合、性能・機能は「XMLデータベース」だが、便益と特徴が書かれていない

製品の特徴とユーザーの便益

堀内 仮に渡辺さんが元請けだとすれば、顧客はユーザー企業ですよね。ごく一般的なケースで考えてみましょう。顧客が望むメリットは何ですか?

渡辺 えっと、必要な機能が安く早く手に入ること。

堀内 手に入った後、つまり運用時は?

渡辺 メンテナンスが安くて簡単なこと。あとスケーラビリティがあること、かな。

堀内 はい、ではXMLデータベースだと安く早く作れるんですか?

渡辺 う〜ん、ちょっと調べてみないと分かりませんが、エキスパートがそろえば早く作れるんじゃないかと思います。でも安くはないか。

堀内 ではメンテナンスはどうでしょう。安くて簡単ですか?

渡辺 多分そうだと思います。

堀内 どうしてですか?

渡辺 データ構造の変更が容易ですから。

堀内 ではこんな感じですか。ポイントは、製品の特徴(フィーチャー)と顧客の便益(ベネフィット)の間に強み(アドバンテージ)という「中間点」を入れることです。これだけでかなり考えやすくなりますし、システムの作り手と使い手のコミュニケーションが楽になるはずです(図3)。

図3 性能・機能は「XMLデータベース」で、便益は「稼働後のメンテナンス」。そして特徴は「データ構造の変更が容易」

 この「中間点」の発想はシンプルですがよく使われます。例えば技術系ベンチャーが事業を考えるときには、まったく同じ発想で「技術」と「市場」の間に「効用」を入れてみて、実際にニーズ(市場)があるか、その市場に訴える効用が出せそうかということを考えたりします。

渡辺 顧客からすると、この図だけではちょっとベネフィットが少ない感じですね。

専門バカに陥らないために

堀内 そうですね。便益は多い方がいいですし、ちゃんとベネフィットと思ってもらえなければなりません。例えば、XMLデータベースを採用すると、本当に売りになるほどメンテナンスが安くて簡単になるんですか? RDBMSだって、容易ではないにせよ変更はできるわけですよね。人件費まで含めて考えるとどうですか?

渡辺 うーん、XMLデータベースはまだ実績がないですからね。

堀内 そうですね。しかし、そこであきらめてはいけません。新しい技術を試すということは、ユーザー企業側も導入側も一定のリスクを追うわけです。それを上回るメリットが見込めるのかどうか、この図は何回も作り直していくことになると思いますよ。

渡辺 ちょっと難しそうですが、少なくとも、こういった視点を持っていれば「専門バカ」には陥らないで済みそうな気がしてきました。

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。

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