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コラム:自分戦略を考えるヒント(26)
強みの上に自らを築け!

堀内浩二
2006/1/12

  堀内です。明けましておめでとうございます。  

 今回のタイトルである「強みの上に自らを築け」という言葉は、昨年亡くなった「マネジメントの父」、ピーター・ドラッカー教授の言葉として知られています。自分戦略を考えるうえでは「定番」といえる言葉です。

 ただ、キャリア相談を受ける中でしばしば気になるのが、「強み」イコール「他人が口出しできないくらいの専門領域を持つこと」だととらえられていること。もちろんそれも強みを構成する要素ですが、それだけではありません。そこで今回は「強み」についてじっくり考えてみたいと思います。

強みとは何か

(1)強みとは相対的なもの

 ある力が強みになるかどうかを決めるのは、非常に相対的な基準です。つまり需要と供給のバランスです。

 需要>供給の典型は、「ほかに分かる人がいないから」という理由で本人も心配になるほどの裁量を与えられてしまうケース。逆に供給>需要の典型は、上がつかえていてなかなか仕事を任せてもらえないケースです。
ということは、供給が少ない状況に身を置けばいいわけですから、常に「少数派」でいることを目指せばいいのでしょうか。

 技術の流行を追いかけるのは、自ら多数派に入ろうとしてわざわざコモディティ化(性能に差がなく、主に価格で競争優位が決まる商品。日用品など)しているということなのでしょうか。

 これはYesでもありNoでもあります。確かに盲従すればそのようなリスクもありますが、だからといってニーズの小さい市場でいくら少数派を自認しても、仕事のチャンスそのものが限られてしまいます。望ましいのは、ある程度大きな需要がある市場で優良な供給者と見なされることでしょう。エンジニアに限らず社会人が自己研鑽を続けるのは、「ある程度大きな需要がある市場」に参加し続け、かつそこで「優良な供給者」となるためです。

(2)強みとは厳しい競争の末に認められるも

 恋愛では「そのままのアナタでいてね」といわれたあなたも、上司から「そのままのキミでいてくれ」といわれたことはないでしょう。(1)で述べたように、強みが相対的なものであるということは、差別化のための競争がほぼ避けられないということです。また、いったん競争優位を築けばもう安心、というようなものでもありません。

(3)強みとは自分の好きなこと・得意なことの周辺にあるもの

 強みが他者(上司や顧客)によって認められるものならば、自分の好き嫌いや得手不得手とは関係ないのではないかと思われるかもしれません。

 しかし、不得手なことで競争優位が保てるほど緩い競争環境があるでしょうか。人の能力など似たり寄ったりです。能力が同じなら、深くかつ長く仕事にコミットした人の方が、成果も、その後の成長も高いでしょう。

 では、人をして仕事にコミットせしめるものは何でしょうか。それは、その仕事そのもの、またその仕事を通じた自分の成長が報酬であると考えられること。ひらたくいえばその仕事が好きであるということではないでしょうか。

1対Nのジャンケンで考える、強みの複合効果

 「そうはいっても、『強み』と呼べるほどの何かを持っているわけでもないし……」と思われるかもしれません。例えば「自分はネットワークエンジニアとして上位5%にいる」といい切れる人は少ないでしょう。もしネットワーキングの知識だけがネットワークエンジニアの序列を決めるのであれば、これは過酷な競争です。しかし幸いなことに、実際に求められる仕事の強みはそれほど一元的ではありません。

 イベントなどで、抽選の代わりに1対Nのジャンケンをしたことはありますか。ある回のジャンケンに勝った人だけが次回のジャンケンに参加できるというルールでやってみると、100人からスタートしても計算上、わずか3回のジャンケンで4人弱(100×1/3×1/3×1/3)になってしまいます。

 自分の強みを考え仕事に活用するということは、この1対Nのジャンケンに似ています。例えば、あるプロジェクトに求められるネットワークエンジニアの条件が、以下の3つであったとしましょう。

・ネットワーキングの知識(特に運用環境の設計に強いこと)
・コミュニケーション(外国人を含む10人程度のチームをリードできること)
・英語力(電話会議をこなせること)

 随分高いハードルです。しかし先ほどの「1対Nジャンケン理論」(?)で考えれば、3つの条件すべてで上から3分の1に入れれば、100人の中の4人になれます。強みは、組み合わせることでより強くなるということです。

 とはいえ、この例は少々単純化し過ぎています。3条件は同じ重みではなく、メンバーの選定にあたっては特定の強みがとりわけ重視されるでしょう。もしこのプロジェクトで探しているのが技術者で、あなたがその方面で卓越した技術者ならば、コミュニケーションや英語に関してはプロジェクトが(チームを組むなどして)サポートしてくれるでしょう。専門性を軽んじてはいけません。

仕事で求められる強みは1つではあり得ない

 ただ、いわんとしていることはお分かりいただけると思います。いわゆる「オンリーワン」戦略の発想もここからきています。まず参入する市場を決めて、その中で勝ち残りを目指すのが「ナンバーワン」戦略とすれば、自分の強みが一番重なり合うところに市場を探す(なければつくり出そうと試みる)のが「オンリーワン」戦略です。

 スポーツで例えれば、相撲は基本的に「ナンバーワン」戦略しか取り得ません。とにかく相撲というゲームでの強さがその世界での序列であり、その序列はしばしば引退後の社会にも及びます。『認められたい!―がぜん、人をやる気にさせる承認パワー』という本(太田肇著。日本経済新聞社刊。1470円)では、そのような組織を「相撲型組織」と呼び、下記のような特徴を指摘しています(相撲界の問題を指摘しているわけではありません、念のため)。

『人々が閉ざされた世界の中にいて、一元的な尺度で序列づけられる場合、“ゲーム”の楽しさを味わえるのは、トップ争いをする一握りの人たちだけです』

 一方、野球やサッカーは、結果がすべての厳しい世界ですが、その中では「オンリーワン」を目指す余地があります。投手が野手に転向するといった「コンバート」は、われわれ社会人の世界でいう「キャリア・チェンジ」でしょう。総合力は弱くても、野球なら代打あるいは走塁要員、サッカーならスーパーサブなど、「スペシャリスト」を目指すチャンスもあります。

 スポーツと比較すれば、仕事の世界では「ナンバーワン」戦略と「オンリーワン」戦略をかなり自由に組み合わせることができます。

 例えば2006年にやってみたい仕事をイメージしたうえで、簡単な「強み設計表」を作って考えてみましょう。架空の仕事で構いませんし、意中の公募プロジェクトなどがあるならぜひそれでやってみましょう。

・自分がやりたい仕事のイメージ

 社内ネットワークの構築から運用にチームメンバーとして参画する

・採用基準に沿った、強みのイメージ

採用基準
活用できそうな強み
強み指数
専門性(基礎) 構築経験はゼロだが運用監視ツール(H社のO製品)の導入・運用経験を通じてネットワーキングの基礎知識は習得。現在、資格習得に向け勉強中
20%
専門性(アプリ
ケーション)
ERP導入に伴うネットワークトラフィック見積もりを上司の指示のもと行った経験あり
50%
対人スキル トラブル対応のため1カ月で10の支社を行脚。現在に至る良好な関係を築いた
50%
対自己スキル 運用のためのスクリプト言語を独習し、自分で書き直して採用された(自発性と学習意欲)
50%
そのほか 仕事の内容に納得できれば残業も出張も、転勤もOK
50%

 「採用基準」の欄は、その仕事の採用基準を想定してリストアップします。場合によっては明示されているでしょう。「活用できそうな強み」は、その基準からみた自分の強みです。「強み指数」は、自分が書いた強みの自己評価です。応募者を想定し、100人いたら上から20番目くらいには入るだろうと思ったら、強み指数は20%です。強み指数を掛けてみれば、自分の「オンリーワン指数」が計算できることになります。

 上で述べたように、どの基準を重視するかによって採用の可能性は大きく動きます。従ってオンリーワン指数は必ずしも採用の可能性に連動するものではありません。ただ「強みは相対的なもの」という定義を考えれば、自分が強みと思っているものが客観的にどれくらい強みなのか、それらを組み合わせることがどれほど重要なのかを実感する助けになります。

意外なものも強みになる

 上の表では、「転勤OK」というのも強みにカウントしました。これは年齢や家族構成や本人のし好の問題で、本人の努力とは関係ありません。しかし、これまで述べてきたように、強みは他者が認めるものですから、若さや出身地といった単なる属性であっても強みになります。

 最後に、わたしが自分の強みにしたいと願い、ある程度実現できている(と思っている)ことを1つお教えしましょう。それは知人から、「堀内は結構ヒマな時間があるらしいと思ってもらっていること」です。

 ヒマな(状態だと思われる)ことが強みなのか、と思われるかもしれませんが、そうなのです。仮にあなたが「面白いビジネスを思いついたんだけど、誰かディスカッションに付き合ってくれそうな人いないかなぁ」と考えたとします。

 いろいろ頭に思い浮かべた知人の中で実際に声を掛けるのは、その分野に通じているだけでなく、ちょっと時間がありそうな人ではないですか。これだけ時間が貴重な資源となっている現代においては、これはなかなかの強みだと考えていますし、そう思ってもらえるようにそれなりの努力を払っています。

 それでは2006年も張り切っていきましょう。ちなみにわたしはヒマしてますから、何か面白い話があったら声を掛けてくださいね。

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。

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