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コラム:自分戦略を考えるヒント(30)
「Getting Things Done」と自分戦略

堀内浩二
2006/6/28

意外に「深い」仕事術

 @ITや@IT自分戦略研究所の読者であれば、「Lifehack」(ライフハック)という言葉を目にしたことがあると思います。仕事や生活の効率を上げるコツということです。そして「Lifehack」好きの人たちの間で人気なのが、アメリカのデビッド・アレン(David Allen)氏が提唱している「Getting Things Done」(以下GTD)という仕事のやり方。

 最初は、サクサク仕事をこなすだけの方法論だろうと思っていました。しかし書籍を読んだり自分なりに試したりしているうちに、自分戦略にも通じる深いメッセージを持っていることが分かってきました。そこで今回はGTDの紹介がてら、なぜ日々の仕事の生産性を高めることが、自分のこれからを考えることにつながるのかを解説してみたいと思います。

「徹底的なリストアップ」で頭スッキリ

 GTDの最も重要なポイントは、「やるべきこと・やりたいこと」を徹底的にリストアップし、メンテナンスしていく点にあります。これは100であろうが200であろうが、まずはとにかく全部書き出してしまう。それからおもむろに仕分けをしていきます。

 この「とにかく全部」というところが、とても重要なポイントです。現在抱えている仕事も、やりたいのにできないことも、すべて書き出していくと、「考えるべきことはすべてここにある!」という感覚を持つことができます。これが、漠然とした不安感や焦燥感をかなり軽減してくれます。

 またこの作業は、「考える」ことと「する」ことを分離してくれます。例えばリストのメンテナンスを毎週末にやると決めておけば、平日はあれこれ悩まずに、「仕事をこなす」ことに注意を向けられます。仕事をしながらあれこれと考えてしまう方は、これだけでもかなり生産性は上がるのではないでしょうか?

 ちょっとGTDからそれますが、わたしも個人的に似たようなリストを作っていました。ToDoリスト(やることリスト)とは別にやりたいことを書き留めておく、その名も「煩悩リスト」。多い時期は、なんと800項目近くにもなりました(!)。この煩悩リストは、上記のようなメリットに加え、「思考の堂々めぐり」を防ぐ役割があります。人間、放っておくとけっこう同じことを何回も考えてしまうもの。アイデアややりたいことを書き留めておくことで思考の堂々めぐりを防ぎ、少しずつでも前進することができます。

 こういったリストは、自分戦略を考えるうえでもとても重要なデータベースです。しばしば「自分がどこまでやれるかを決めるのは、自分の想像力だ」というようなことがいわれますが、自分が描けないような大きなビジョンが勝手に実現することは、まずないでしょう。

「本当のToDo」でやる気アップ

 皆さんも、その日あるいはその週のToDoリストを作っていると思います。ここであえて「本当の」という言葉を使ったのは、行動可能(Actionable)でなければ実際に「Things To Do」(やること)とは呼べないから。

 例えば「○○の件でAさんに意見を聞く」という仕事をToDoリストに書いて、そのままほったらかしになってしまったことはありませんか。この仕事は、実際にはこんなタスクからなっているはずです。

・必要な資料を入手して、
・それを読み、
・自分の見解をまとめて、
・Aさんと日程調整をして、
・実際に会って意見を聞いてみる

 ここまでブレークダウンしておけば、「次にやること」が明確なので、頭を使う必要がありません。ここまでやって初めて、前述の「考える」ことと「する」ことの分離が可能になります。

 GTDでは、(プロジェクトマネージャ諸氏には違和感があるかもしれませんが)複数のタスクからなる仕事はすべてプロジェクトであるという定義をしています。

 具体的な作業レベルのToDoリストを持つことは、モチベーションアップにもつながります。この連載の「『やる気』がわいてこないときの対処法」という回で、「作業興奮」について書きました。これは、作業自体が作業のやる気を高めるという脳の働きです。何となくやる気が出ない、どこから手を付けていいか分からないというときにこそ、このタスクリストが役に立ちます。

「何でも来い」の境地で創造性アップ

 GTDでは詳細なワークフローやコツを提案していますので、興味を持たれた方は文末の参考文献をご一読ください。ここでは、それがGTDであれ何であれ、自分なりに日々の仕事のやり方を考え、実践することの意味合いについて書きたいと思います。

 詳細な計画を立て、そのとおりに実行できる仕事は、全体から見ればほんの一部でしょう。われわれの仕事の多くはむしろ不定型で、いつ降ってくるか分からないピンチやチャンスとの付き合いなしには考えられません。わたしが、これからの時代に必要な仕事術に対して持っているイメージは、決まり切った工程を淡々とこなす「定型作業のチューンアップ」ではなく、荒波にもまれながらも目指す方向に進んでいくための「航海術」のようなものです。参考:「Steve Jobsのスピーチから読み取る自分戦略」。

 アレン氏は、GTDの目的(の1つ)を、「何でも来い」(Ready For Anything)の状態になれることという、印象的な言葉で表現しています。あるいは武道家の「構え」のようなものだともいっています。

 そのような「何でも来い」状態になって初めて、余裕を持って「リストにないこと」、つまり創造的なことを考えられるというのです。例えば今週半日休んで充電したいと思ったとしましょう。しかし、「いま抱えている仕事を後回しにしても大丈夫」という確信なしに、どうしてリラックスすることができるだろうかということです。

 いわゆる仕事術の多くは、まず自分の原則を定義し、それに従って行動を選択するというステップを踏みます。これをトップダウンアプローチとすると、GTDはボトムアップ、まずは「仕事のこなし方」を身に付けようという発想です。

目の前の仕事の山をこなしてこそ見えてくる、自分戦略

 「これが自分のやりたいことかどうか分からないから身を入れて働けない」「やりたいことを見つけて没頭したい。でもいまの仕事は……」という相談を受けることがあります。こういう方こそ、まずはGTDで目の前の仕事をとにかくやっつけることを学ばれるとよいと思います。

 なぜなら、上述の原則とか、ビジョンとか、目的意識といった自分なりの判断基準は、何もないところから出てくるものではないからです。それは、実際に見て、聞いて、経験してきたことの中から醸成されていくものでしょう。仕事をたくさんこなすことで身に付く、アレン氏がいう「構え」の延長として、いやでも育ってくるものだと考えています。

 わたしは経営者の自伝やインタビューを読むのが好きな方です。数十年のキャリアを持ち、大きな業績を挙げられた方は、必ずその方なりの哲学を持っているものです。しかし、その哲学は若いころに完成されていたのかといえば、決してそうではありません。むしろ仕事を通じてどんどんバージョンアップをされていった様子がうかがえます。

 そう考えると、われわれは「安心して」目の前の仕事に没頭することができます。目の前の仕事はサクサクこなし、新しいチャレンジを受け入れる余地をつくっていこうではありませんか。

参考文献
仕事を成し遂げる技術――ストレスなく生産性を発揮する方法』(デビッド・アレン著、森平慶司訳、はまの出版)
Life Hacks PRESS〜デジタル世代の「カイゼン」術〜』(田口元、安藤幸央、平林純、角征典、和田卓人、金子順、角谷信太郎著、技術評論社)
ストレスフリーの仕事術―仕事と人生をコントロールする52の法則』(デビッド・アレン著、田口元訳、二見書房)

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。


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