堀内浩二
2006/10/27
こんにちは、堀内浩二です。今日は、9月30日に行った@IT自分戦略研究所 MIXで、わたしが担当した「エンジニア2.0」という、今後のITエンジニア像を考えるセッションを、記事として再現したいと思います。
■「2.0」を考えてみるという実験
最初に、「エンジニア2.0」というタイトルについて説明します。
Web 2.0がもたらした効用の1つに、「『2.0』を考えてみる」という思考スタイルの発見があるように感じます。
Web 2.0は定義が曖昧(あいまい)であるが故に、皆さんもいろいろな情報をつなぎ合わせて、自分なりのWeb 2.0をイメージされたのではないでしょうか。その作業を通じて、「『2.0』を考えてみる」という発想法を発見された方も多いと思います。
例えば、FAXは機能的には成熟した商品ですが、あえて「FAX 2.0があるとすると、それは何だろう?」と考えてみるとどうでしょうか。さまざまな発想が誘発されてくることが実感できると思います。
将来をイメージするやり方として「『2.0』を考えてみる」ことが有効であるならば、「ITエンジニア2.0があるとすると、それは何だろう?」という問いを設定し、考えたことを参加者の皆さんと共有してみたい。そう思ったわけです。
■そもそも、ITエンジニアとは何か
2.0を考えるためには、当然1.0を考える必要があります。まずは自分の職業を定義するところから始めなければなりませんが、セッションでは下記の定義からスタートしました。
「エンジニアリングとは、科学・技術の知識を用いて人類の問題を解決することである」(Wikipediaによる。原文は、Engineering is the application of scientific and technical knowledge to solve human problems.)
@IT自分戦略研究所 MIXで講演する堀内氏 |
簡単にいえば、エンジニアとは「テクノロジを駆使して問題解決をする人」ということです。この定義に立てば、技術が進歩してもITエンジニアの仕事の本質は変わりません。
しかしあえて、「ITエンジニア2.0があるとすると、それは何だろう?」と考えてみると、どうなるでしょうか。
例えば、社会が求める「問題解決」の質が変わってくるとしたらどうなるか。単に技術的にOKというだけではない解決を求められているとしたら、エンジニアが出すべき答えが、従って仕事が、変わるということになるのではないでしょうか。
とはいえ、未来をいい当てることはできません。そこで、現在確実に起きていて、今後も続きそうな大きな「潮流」、エンジニアの仕事に影響を与えそうな「潮流」から予測してみることにしました。
■「マインドの時代」
その潮流として、昨年の「Steve Jobsのスピーチから読み取る自分戦略」というコラムに材料を求めました。「自動化」「グローバル化」「仕組み化」、そしてそれらの帰結としての「豊か化」(コラムでは「過剰」)です。
日本のような先進国に限っていえば、モノが過剰にあるために競争が進み、単純な機能対価格の比較だけではモノ選びの基準として不十分になっています。
セッションではコーヒー豆を例に考えてみました。店頭で2種類のコーヒー豆が売られているとします。味も価格も安全性も同じ、つまり経済的には等価だとしたら、あなたなら何を基準に選ぶでしょうか?おそらくはパッケージのデザインが気に入った方、あるいは環境への負荷を考慮して生産されているとか生産者から搾取していないとか、そういった付加情報に依存して決めると思います。
そのようにして選ばれるモノにはどんな価値があるのかといえば、それを提供する「意味」。そこに至る「物語」。そこまでやる「こだわり」。そういったソフトな価値です。
では提供者の「何」が、そのような価値をもたらすのか? わたしは、「マインド」という言葉を当てました。
どのようなマインドでモノを作り、世に送り出すか。直接は目に見えにくいその部分が、モノの付加価値の源泉になるという意味で、「マインドの時代」に入っているといえるでしょう。
■「マインドの時代」がIT業界に及ぼすもの
「マインドの時代」はモノだけではなくサービスや「問題解決」、つまりITエンジニアの仕事にもやって来ており、今後もその流れは続くと仮定しました。
その兆しの1つは「デザインの重視」です。似たようなWebサイトが乱立している現在、「ちょっとした使い勝手」や「見た目の美しさ・楽しさ」がWebサイト選びのポイントになってきています。
セッションでは、数年前と現在のAmazon.comのWebサイトを比較してみました。ここでは文章だけで説明します。
数年前に比べ、Amazon.comは現在の方が取り扱う品目ははるかに増えているのに、画面は逆にスッキリし、売らんかなというスタイルから、買い物という経験を楽しんでもらおうというスタイルへの移行が感じられます。
ソフトな価値の重視は、デザインといった目に見える部分だけでなく、ソフトウェアの品質の定義にも見ることができます。ソフトウェアの品質は、ISO9126という規格によれば下記の6つで規定されます。
- 機能性(functionality)
- 信頼性(reliability)
- 使用性(usability)
- 効率性(efficiency)
- 保守性(maintenability)
- 移植性(portability)
この中に使用性(usability)という項目があります。ユーザビリティについては、1998年にISO9241-11という規格が定められており、そこでは有効さ(effectiveness)、効率(efficiency)といった、定量化できそうな基準に加え、満足度(satisfaction、不快さのないこと、および製品使用に対しての肯定的な態度)が挙げられています。ここから先は調べが及んでいないのですが、肯定的(ポジティブ)な態度とは楽しい・美しい・面白いといったことでしょう。ソフトな価値はすでにソフトウェアの品質に組み込まれているといえます。
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