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ストレスと上手に付き合うために
ITエンジニアにも重要な心の健康

第26回 キャリアも健康もあきらめない

ピースマインド
カウンセラー 田中貴世
2006/5/10

エンジニアにとっても人ごとではないのが心の健康だ。ピースマインドのカウンセラーが、毎回関連した話題を分かりやすくお届けする。危険信号を見逃さず、常に心の健康を維持していこう。

「仕事か結婚か」で揺れるJさん

 Jさんはそろそろ中堅といえる年齢のITエンジニア。まじめで努力家です。上司はそんなJさんの働きぶりを評価し、責任のあるポストへの異動を提示しました。

 上司の期待にぜひとも応えたいと思ったJさんですが、ちょうど同じ時期に、長く遠距離交際をしていた女性と結婚することを考えていたのです。家庭を持つことも相当なチャレンジです。

 責任あるポストへの異動、結婚。2つのチャレンジが、Jさんにはとてもエネルギーを必要とすることに感じられ、「どちらか一方を手放さなければ他方は手に入らない」「でも、どちらも手放せない」と思い悩むことになりました。

キャリアと心身の健康のバランス

 Jさんのケースを基に、キャリアと心身の健康のバランスについて考えてみましょう。

 キャリアとは、簡単にいうと「長期的な仕事生活の在り方に対して見いだす意味付けやパターン」のことでしょう。キャリアの歩みを、移り変わる環境・時代の中で「自分らしさを追求する道」にしていくには、節目節目をしっかりとデザインしてゆくことが大事になります。節目と節目の間は、多少流れに身を任せるのもいいでしょう。人生全体が節目というわけではありません。いつも気を張っていては疲れてしまいます。

 心身が健康であるとは、どのような状態を指すのでしょう。「病気がないことが健康」という直線的な考え方ではありません。たとえ病気を持っていたとしても、その病気によって心身に無理のない生活を心掛けられるということもあります。

 病気を持っていても持っていなくても心身を大切にし、自分の体が発する声に耳を傾け、より良い状態を望むこと。加齢による機能低下を最小限にとどめようとすること。もしくはその機能低下を受け入れる気持ちになること。このように、自分の心身の状況にエネルギーを向けることができるということが、「心身の健康な状態」であると私は思います。

 この春に新社会人になり、キャリアをスタートさせた人。職場のメンバーから経験者としての働きを期待される年齢になっている人。異動によってこれまで以上の責任を負う立場になった人。昇任してプロジェクトリーダーになった人。現状維持が数年続き、そろそろ将来を見据えてキャリアアップをしようとする人。さまざまな立場の人がいると思います。

 忙しさのあまり、「いまは仕方がない」と自分にいい聞かせて心身の健康を手放そうとしていませんか。キャリアと心身の健康、どちらか一方を犠牲にして他方を手に入れるという選択であきらめるのではなく、両方を手に入れられるのだと考えてみましょう。そのためのプロセス、「6つのステップ」を見てゆきたいと思います。

キャリアも健康もあきらめないための6つのステップ

ステップ1 大切なものを見極める
ステップ2 大切なもののバランスを取る
ステップ3 選択して結果を受け入れる
ステップ4 バランスを支えるキャリアを選び取る
ステップ5 バランスを工夫する
ステップ6 バランス継続のために見直しを行う

ステップ1 大切なものを見極める

 「キャリアか心身の健康か」ではなく、「キャリアの中で大切なものは?」「心身の健康のために譲れないものは、譲りたくないものは?」と考え、思いつくままになるべくたくさん書き出してみます。そして、その中で優先順位を付けてみるのです。キャリアにおける最優先事項と、心身の健康における最優先事項とが人生の中で対立したら、両方ともあきらめたくはないと思いませんか。2つの最優先事項のバランスを取り、両方を実現するためのスタートに立ってみましょう。


ステップ2 大切なもののバランスを取る

 キャリアと心身の健康のバランスを取り、変化を乗り越えてバランスを維持するためには、継続的な警戒と努力が必要です。バランスは、向こうから訪れたり他者が授けてくれたりするものではなく、自らつくり出すものなのです。

バランスを生み出すキーワード:

  1. 仕事とプライベートをしっかり分ける
  2. 仕事と心身の健康環境について境界線を引く
  3. 2つの最優先事項を達成するために、あきらめてもよいもの、どうしても必要なものを整理する
  4. 自分の限界を知り、自分のエネルギーを集中する焦点を絞る

ステップ3 選択して結果を受け入れる

 自分の決定を堅持しましょう。決定の結果が出るまでにはしばらく時間がかかります。ひとたび選択を行ったならば、それに満足しなければなりません。自ら決定しその結果を受け入れる。そのうえで修正が必要と思ったら、ステップ1からやり直せばよいのです。


ステップ4 バランスを支えるキャリアを選び取る

 キャリアパスを賢く選ぶためには、職場探しや職場づくりにも能動的でなければなりません。

3つの基本的な選択肢:

  1. 現職にとどまる
  2. 会社内で部署を変わる
  3. 転職をする

 どの選択肢を選ぶにしても「自分は組織や転職市場のなすがままではない、とらわれの身にはなっていない」という感覚を保ち、自分のペースをつくり出しましょう。

自分のペースをつくり出す6つの方法:

  1. 上司とじっくり話し合って、自分としてバランスの良い働き方をしても、会社の要求に応え、実力を発揮できるということを実証する
  2. 自分の地位を交渉する材料になるほどの「かけがえのない人」になる
  3. 仕事に生活のあらゆる面を侵食させないため、「あることについては自分よりうまくできる人」「時間的な余裕のある人」を信頼して委任する
  4. 自分の状況を開示して、職場や家庭でコミュニケーションが必要な人に伝える
  5. 予想される困難について準備しておき、対処の計画を立てるなど、自分にかかるストレスを最小限にとどめる
  6. 自分のための時間を保護する

ステップ5 バランスを工夫する

 キャリアと心身の健康のバランスを取るとき、あなたにかかわる重要な人たちのことを考慮に入れずに望ましい状態にはできません。周りの人のバランスにも配慮する工夫を取り入れましょう。必要な情報が入ってくるように、アンテナを伸ばしておくのです。

 ただし配慮するあまり、必要以上に相手に合わせることのないように注意しておきましょう。


ステップ6 バランス継続のために見直しを行う

 キャリアは異動や組織変更など、あなたの力の及ばないところが原因で変化し、心身の健康も季節や加齢、ショックな出来事や心配事などによって変化します。それによってキャリアと心身の健康のバランスが崩れることがあるのです。定期的に見直すことをお勧めします。

 「決めたことだから絶対に曲げられない」とかたくなになるのではなく、中心に1本のポリシーという柱を持ち、柔軟に対応することも必要です。

Jさんの選択「仕事も結婚も」

 「仕事か結婚か」と思い悩んでいたJさん。カウンセリングを通し、上記のステップに従って自分の人生や健康のための優先順位を整理してゆきました。

 Jさんは、人生の最優先事項として「結婚」を選びました。仕事の最優先事項は、今回の異動を受け入れるかどうかは別にして、上司が自分にふさわしいと評価し自分も望んでいるポストを近い将来に手に入れることとしました。

 まず結婚したいと思っている女性に会って気持ちを伝えるとともに、仕事上の状況を話しました。彼女も結婚を望んでいることを知って安心したJさんは、2人の住居をどこにするかという話し合いの結果、自分の通勤時間が彼女の通勤時間より長くなるエリアへの引っ越しを決めました。

 その後上司と話し合い、状況を説明しました。上司の期待に応えたい気持ちがあること、提示されたポストは自分も望んでいるものであること、私生活と仕事の充実を図るためには勤務時間に制限が出てくる可能性があることを話しました。上司は了解し、異動ポストの調整をしてくれたとのことです。

 組織は、一方で「個の尊重」を標ぼうしつつ、他方で「キャリアの責任は個人の側にある」と啓発し始めています。同じように健康についても「セルフケア」(自己管理)の考え方のもと、自律・自立を求めています。

 あなたのキャリアと心身の健康のバランスについては、あなた自身の手の中にコントローラが握られているのです。

参考文献『働くひとのためのキャリア・デザイン』金井壽宏著、PHP研究所刊
      『キャリアアップとプライベートライフ――両立を目指す6つのステップ』
              D・クィン・ミルズ、S・K・マットゥ、K・R・ホーンビー著、田村勝省訳
              シュプリンガー・フェアラーク東京刊

筆者プロフィール●ピースマインド 田中貴世
シニア産業カウンセラー、 日本産業カウンセラー協会認定キャリア・コンサルタント、 日本オンラインカウンセリング協会認定オンラインカウンセラー、 家族カウンセラー協会認定家族相談士。 子育て相談、保育士人材育成の仕事在職中にカウンセリングを学び資格を取得。転職支援センターのキャリアコンサルタントを経て、現在ピースマインドでカウンセラーを務める。職場のメンタルヘルス、キャリア、家族関係、夫婦問題とカウンセリング分野は幅広い。「カウンセラーは相談者の伴走者」と考え、「出会い」「気付き」の中に生まれるエネルギーに心動かされる日々だという。なお、ピースマインドが提供する「ストレスCheck」を@IT自分戦略研究所で試してみることもできる。




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