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特集:SIerの未来、エンジニアの未来

第1回 2009年、SIerの現状を俯瞰する


岑康貴(@IT自分戦略研究所)
2009/12/16


2009年はSIerにとって苦しい1年だった。不況がユーザー企業のIT投資抑制につながったためだ。だが、実際にどの程度不況だったのか。景気が回復すれば「すべて元通り」となるのか。SIerとエンジニアの未来を考える。

 不況に苦しんだ2009年が終わりを迎えようとしている。

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 米国のサブプライムローン問題やリーマン・ショックに端を発した金融危機は、世界的な不況をもたらした。IT業界も例外ではなく、多くのITエンジニアが不況の影響を痛感した1年だった。

 今年後半は特にシステムインテグレータ(SIer)のエンジニアを中心に、「案件が減った」「待機が増えた」という声を多く聞いた。こうした傾向がいつまで続くのか、不安に思っている読者は少なくないだろう。

 「景気が回復すれば元通り」――そう楽観視するのもいいだろう。だが、本当にそうだろうか。今年から来年にかけて、SIerの事業は大きな転換期に差し掛かっているのではないだろうか。

 本特集では、日本の情報サービス産業を支えてきたSIというビジネスモデルの行方を占ううえで参考となるであろう情報を提示し、ITエンジニアが今後どう振る舞っていくべきか、考えるための指針を提供したい。まずは現状を把握することにしよう。不況、不況というが、2009年はどのくらい「不況」だったのか。



2009年9月の売り上げ、前年同月比14.5%減

 以下のデータは、経済産業省が発表している「特定サービス産業動態統計調査」から、情報サービス業のデータを抜き出したものである。図1は1994年から2009年までの情報サービス業全体の売り上げのうち、SIを含む「受注ソフトウェア」の売り上げ推移を示している。左が1月から12月までの合算、右が1月から9月までの合算である。2009年は1月から9月までの合算データのみとなっている。

図1 「受注ソフトウェア」売り上げ推移(クリックで拡大)
左が1〜12月、右が1〜9月。2009年は1〜9月のみ

出展:経済産業省 特定サービス産業動態統計調査(以下同様)

 受注ソフトウェアの売り上げは年々伸びており、特に2002年に大きく伸ばした。その後数年は横ばいが続いたが、2006年、再び上昇に転じている。そして2009年、1月から9月の合算を見ると、減少に転じている。2008年の受注ソフトウェア年間総売り上げは約6兆7800億円。2009年は9月までの段階で5兆円を下回っており、年間では6兆円を超える程度となりそうだ。2005年の数値は超えるかもしれないが、2006年の水準まで戻るかは危うい。

 続いて伸び率を見てみよう。図2は同じく受注ソフトウェアについて、2001年以降の各月における「売り上げ前年同月比」を示したものである。

図2 「受注ソフトウェア」売り上げ前年同月比(クリックで拡大)

 ITバブル崩壊の影響か、2002年後半から2003年前半にかけて減少が見られるが、その後は比較的安定して売り上げを伸ばしている。だが、2009年3月から一気に前年同月比で減少に転じている。2009年9月は前年同月比14.5%の減少であり、これは2003年5月の20.3%減に次ぐ。

 「やはり大幅に売り上げが減っている」と見ることができるが、「ITバブル崩壊のときほどひどくはない」ともいえる。確実にいえることは、2009年に入って売り上げは前年割れになっているということだ。

「景気回復で元通り」か?

 さて、それでは2010年はどうなるのだろうか。調査会社のガートナーは「2010年の世界IT支出は前年比3.3%増」との予測を打ち立てている。また、同社リサーチ部門の最高責任者であるピーター・ソンダーガード氏は次のようにコメントしている。

 「2010年に成長局面に入るが、2012年までは2008年の売り上げ水準に戻らない。50%以上の企業は依然としてIT予算が前年比以下で、2011年になって初めて回復に転じる」

2010年の世界IT支出、前年比3.3%増の見通し Gartner
- ITmedia エンタープライズ

 つまり、「一気に回復するわけじゃないし、楽観はできないけれど、少なくとも回復基調には入るよ」ということらしい。

 では、ITエンジニアは景気が回復するのを待てばよいのだろうか。ただひたすら日が差すのを待ち続ければよいのか?

 答えは否、である。確かに2009年のIT業界における売り上げ減少は景気の影響を受けたものだったかもしれない。だが、同時に大きな転換期となる可能性がある。ポイントは2つ。

 1つは「クラウドコンピューティング」の台頭である。少し前までは新たなバズワード程度にしか見られていなかったこの言葉は、いよいよ現実のビジネスを動かすものとして存在感を増し始めている。ITエンジニアは「自分には関係のないこと」と無視すべきではない。クラウドがSIerのビジネスモデルに、そしてITエンジニアに求められるスキルにどのような影響を与えるのか、見極める必要がある。

 もう1つは「内製化」の流れだ。2009年はユーザー企業がコストカットのためにIT投資を削減、その分システムを内製する傾向にあった。SIerは新規開発が頼りなので、ユーザー企業の「内製化」の流れには大いに苦しめられた。では、景気が回復すれば、再びユーザー企業は外注に走ってくれるだろうか。「内製化」の重要性に気付いたユーザー企業が多かったとすれば、SIerのビジネスモデルやITエンジニアに求められるスキルは、やはり変わっていくことになるだろう。

2つのポイント――クラウドと内製化

 本特集の目的は、いたずらに不安を煽(あお)ることではない。読者がIT業界に起こり得る「変化」を見極め、自分自身の「戦略」を立案するための指針を提供したいのである。

 変化はピンチであると同時にチャンスでもある。これまでと同じようにこれからも生きていこうとする者にとってはピンチだが、変化を利用して次の時代の主役に躍り出ようとするものにとってはチャンスなのだ。これまで有利だった者は、これからもそのままで有利かどうかの判断が必要だ。これまで不利だった者は、変化によって有利になり得るポイントを見つけ出そう。

 まずは「クラウドコンピューティングがSIerにもたらす影響」と「内製化という潮流」について、2人のブロガーの言葉に耳を傾けよう。クラウドについて綿密な取材を重ねてきたジャーナリスト、「Publickey」の新野淳一氏による論考を12月17日(木)に、内製化に活路を見いだし、SIerからユーザー企業へと転身、「ひとり情報システム部」として奮闘するエンジニア、「GoTheDistance」の湯本堅隆(みちたか)氏による寄稿を12月18日(金)に公開する。

 さらに、「明るい未来」をつかむために奮闘する「ITエンジニアたちの現在」を紹介するべく、ソフトウェア開発を愛するエンジニアのコミュニティ「DevLOVE」(デブラブ)が開催したイベント「DevLOVE2009 FUSION」のレポートを12月21日(月)に、Seaserフレームワークの開発者、ひがやすを氏へのインタビューを12月22日(火)に公開する。

 もうすぐ2009年が終わる。2010年の「自分戦略」を立案するための手掛かりとして、本特集を活用いただければ幸いだ。

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