
第58回 Visual Basicの父
脇英世
2009/8/14
| 本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、IT業界を切り開いた117人の先駆者たちの姿を紹介します。普段は触れる機会の少ないIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部) |
| 本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の冒険者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。 |
アラン・クーパー(Alan Cooper)――
Visual Basic開発者
アラン・クーパーは、一般的に「Visual Basicの父」と呼ばれている。しかし、アラン・クーパー自身は、自らのことを「エレクトロニック製品開発の過程で忘れ去られた人々の中でのチャンピオン」といっている。
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忘れ去られた人々のチャンピオンを自称しているだけあって、アラン・クーパーの名前は、ほとんど何の文献にも登場してこない。実際、ポール・フライバーガー、マイケル・スワインという人物が書いた『ファイヤ・イン・ザ・バレー』という書籍に少し登場する程度だ。つまり、通常のパーソナルコンピュータの歴史にはほとんど記録されていないといってしまってもいい。インターネットの世界においても、アラン・クーパー自身のホームページとマイクロソフトのWebサイトに登場するくらいのものである。アラン・クーパーは極めて饒舌(じょうぜつ)だが、自分の生年月日や出生地、学歴などに関しては一切語っていない。
1970年代、若かりしころのアラン・クーパーの写真が『ファイヤ・イン・ザ・バレー』に掲載されている。やせて長髪でひげを伸ばし、ジーンズに身を固めている。申し分のないヒッピーだ。このやせた男がここまで太れるだろうかと疑問に感じるほど、ホームページに載っている最近のアラン・クーパーは太っているから人生とはおかしい。
「デザインの参考文献」というエッセイ風の文章の中で、アラン・クーパーは以下のように書いている。
「1974年に、初めて本当の仕事でコンピュータプログラマとして、サンフランシスコのダウンタウンで働いていたころ、わたしはしばしば昼休みの時間を、ステイシーの本屋で過ごしたものである」
これが一体何歳のことなのかは、つかみにくい。しかし、アラン・クーパーはキース・パーソンという高校時代の友人と組んで仕事をしていたことは分かっている。コンピュータの仕事をやりたがっていたアラン・クーパーに対して、大学を中退して、コンピュータの仕事をするように勧めた人物である。そしてアラン・クーパーは大学を中退して、キース・パーソンとともにニルバナという会社を創設した。ニルバナとは仏教の涅槃(ねはん)という意味である。やはり西海岸のヒッピーだったのだろう。結局、コンピュータをどこで勉強したかは謎に包まれている。
1976年、世界最初のマイクロコンピュータキットであるオルテアーが出現すると、2人はマイクロコンピュータ用のソフトウェアを開発することを決定した。彼らはプログラマを雇って、ターンキーシステムという製品の開発に乗り出した。そのためにはOSが不可欠で、2人がこれを探していると、ゲアリー・キルドールのCP/Mやゴードン・ユーバンクスのことが耳に入ってきたわけである。
1977年、ゴードン・ユーバンクスがWCCF(ウエスト・コースト・コンピュータ・フェア)でEBASIC-Eを展示していると、アラン・クーパーがキース・パーソンとやってきて自己紹介を行った。彼らは、ゴードン・ユーバンクスのEBASICを少し改造してビジネス・アプリケーションを書こうとしていると告げた。3人は意気投合し、一緒に仕事をすることになった。ゴードン・ユーバンクスはCBASICの開発を開始した。アラン・クーパーは「どうしてWHILEループを使わないのか」と聞いたという。
アラン・クーパーとキース・パーソンは、ストラクチャード・システム・グループという会社をつくり、ジェネラル・レッジャーというビジネス・アプリケーションを開発することになった。CBASICが完成すると、ストラクチャード・システム・グループが最初のディストリビュータとなった。彼らはコンピュータ雑誌にCBASICの広告を出したが、恥ずかしくて「ジェネラル・レッジャー995ドル」と広告の下の方に小さく印刷しただけだったという。しかし、ジェネラル・レッジャーは次第に売り上げを伸ばし、ビジネスは軌道に乗っていった。
ゲアリー・キルドールはCBASICを高く評価し、ゴードン・ユーバンクスのコンパイラ・システムズ社を1981年夏に買収した。そして、デジタル・リサーチのコマーシャルシステム部門担当副社長に就任したゴードン・ユーバンクスは、同社のシステムソフトウェア製品の開発とマーケティングを担当した。1982年5月になると、アラン・クーパーもデジタル・リサーチへ入社している。
しかし、デジタル・リサーチの生ぬるい経営方針に飽き足らなくなったゴードン・ユーバンクスは、1983年にデジタル・リサーチを辞め、C&Eソフトウェアを創業した。そして、アラン・クーパーもデジタル・リサーチから独立して、クーパー・インタラクション・デザインという会社を設立している。
1986年、アラン・クーパーはMSウィンドウズを採用した。GUIをサポートしていたからではなく、ダイナミック・リンク・ライブラリ(DLL)機能が採用されていたことに注目したためだという。アラン・クーパーにとって、マイクロソフトの採用したMSDOS・EXEというオリジナルのシェルは恐るべき代物であった。そこで、自分でもっと優れたシェルを書こうとしてトライポッドというシェルを書いた。いろいろなIT部門のクライアントにトライポッドを見てもらった結果、ユーザーが個人的なニーズと、スキルのレベルに合った専用のシェルを必要としていることに気付いた。そこで、アラン・クーパーは、逆説的にシェル設計の答えとはシェルの構築用のツールだと思い当たる。それは、個人が必要としているシェルを構築できるようなツールである。
こうしたビジョンが構築されれば、後に残された仕事は比較的簡単であった。ツールのパレット、フォーム、リストボタンやプッシュボタンのような標準的なコントロールであった。Visual Basicの画面を思い浮かべるとどんなものかイメージできるだろう。
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