自分戦略研究室 Book Review(7)
ITエンジニアにヒントを与えてくれる7冊
ゴールデンフォレスト
2005/7/6
梅雨時には、外出もおっくうになることがある。それならば、たまにはのんびりと読書にいそしむのはいかがだろうか。
今回取り上げたのは、歴史に関する本もあればプロジェクト管理に関する本もあり、家庭にまつわる本もある。いってしまえばジャンルに統一性はない。
しかし、いずれもITエンジニアの今後のキャリアの参考になる本ばかりだ。この中から気になる本だけを選んで読むもよし、すべての本に目を通してもいいだろう。
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タフなITエンジニアを目指すために |
新選組、敗れざる武士達 山川健一著 ダイヤモンド社 2004年8月 ISBN:4478920419 1470円(税込み) |
後述の『幕末武士道、若きサムライ達』と同時に刊行された本書を、著者は何かに取りつかれたように執筆したという。技術書ばかりを読んでいるITエンジニアは、本書の前半は読むのに苦労するかもしれない。しかし中盤以降は共感を持って読めるだろう。
ITエンジニアの世界は、負け戦の連続といっても過言ではない。思いどおりに進むプロジェクトはほとんどなく、納期に間に合わせるため、妥協の産物を納入せざるを得なくなることもしばしばある。ITエンジニアとしての理想を見失いそうになりながらも、どうにか踏みとどまっているのが実情だろう。
新選組という集団は、江戸幕府を守る側として戦い続け、土方歳三に至っては北海道で討ち死にしている、まさに負け戦をとことんやった集団であり、その意味では何のために戦っていたのかよく分からない連中である。彼らを時代に取り残された集団という人もいるだろうが、何の理由もなく、ここまで負け戦に殉じることができるものだろうか。
著者はその謎を大胆な仮説と小説家の視点でもって読み解いていく。そして、たった1人の人間の力の凄(すご)さを見せつけられ、驚嘆している。最終章にあるように、「新選組の面々ほどはやれないにしても、同じ人間としてもう少し気合いを入れてみようか」と思える本なのだ。
負け戦に心が折れてしまいそうになったとき、必ず役立つ本である。新選組隊士のようにタフなITエンジニアに育っていただきたい。
ITの世界と幕末の混とんとした世界の共通項とは? |
幕末武士道、若きサムライ達 山川健一著 ダイヤモンドセールス編集企画 2004年8月 ISBN:4478920400 1470円(税込み) |
ITエンジニアの世界は混とんの世界だ。移り変わりの早い技術トレンドに振り回され、ふと気が付くと何のために仕事をしているのか分からなくなってしまうと語るITエンジニアを数多く見てきた。
今回、幕末を題材とした作品を選んだのは、混とんとした幕末に立ち向かった若者たちの生きざまに、ITの世界に飛び込もうとする若者たちと似たものを感じたからだ。
黒船が到来し、いままでの価値観が通用しない新しい世界を目の前に突きつけられた幕末、急激な価値観の変化を迫られ、新しい日本をデザインしようとした若きサムライたちは、時に激しくぶつかり合い、時に手を取り合って難局を突破していった。あれほど個性豊かで立場もさまざまな人々が、1つの時代の輝きをつくり出せたのは、そこに共有する何らかの意識があったからだ。
その意識が「武士道」だと著者は指摘する。そして武士道こそが日本人の精神の形として現代においても共有される基盤になるという。情報の量とスピードにほんろうされ、皮相的な価値基準にからめ捕られてしまいそうな現代だからこそ、武士道の持つ精神性が社会に必要とされている。
折しもさまざまな事件や事故などが多発している。ITといえば社会の基盤を支える仕事として、ますますその重要度が増していく世界である。だからこそ、ITエンジニアには高い理想をもってこの世界で活躍していただきたい。
本書に登場するサムライたちの息吹を感じてほしい。何を大切にするべきか迷ったときに、坂本龍馬や高杉晋作らの生きざまが道を指し示してくれるときがあるだろう。
家庭から逃げ、仕事に逃げ出したくなる人に |
愛はめんどくさい まついなつき著 幻冬社 2005年2月 ISBN:4344406060 480円(税込み) |
仕事を理由に家庭を顧みない男たちというのは、実は単に家庭というものがよく分からなくて苦手意識を持っているだけだったりするのだが、社会進出が進み、家庭と仕事、両方の問題を片付けざるを得ない女性の方にしてみれば、理不尽な話だろう。
本書は家庭問題の中でも最も大きな問題である嫁姑関係を起点として、「結婚」「家庭」「家族」「親子」など、家を構成するさまざまな要素について、鋭い視点を投げ掛けている。著者自身は、仕事のない夫と子供を3人抱える嫁という当事者であり、また働く女性である。かなり過酷な条件の中、独身時代には感じることのなかったジレンマをいくつも経験した結果、家の中にはそれぞれの妄想を持った別人が同居しているのだと気付く。
驚くほど冷静かつ論理的に書かれており、男性読者にも読みやすい。また言語化するのが難しい、女性特有のフィーリングが見事に文章化されていることに、女性読者は共感を覚えるだろう。ありのままの視点とニュートラルな立場で、ちょっとブラックなユーモアを加えた表現も男女問わず楽しめる。
家庭という現実にプレッシャーを感じて、仕事に逃げ出したくなるITエンジニアがいたら、ぜひお勧めしたい。より健康的に家庭生活を楽しめるようになるためのヒントを与えてくれるだろう。
プロジェクト・マネジメントを学びたい人に |
先制型プロジェクト・マネジメント――なぜ、あなたのプロジェクトは失敗するのか 長尾清一著 ダイヤモンド社 ISBN:447837449X 2003年8月 1890円(税込み) |
「PMBOKを学習すれば有能なプロジェクト・マネージャになれる」
プロジェクト・マネジメントの重要性とその難しさを知っている人なら、知識偏重ではいけないと気付いているだろう。では、これはいかがか? 「プロジェクト・マネジメントの経験を積めばプロジェクト・マネジメントのスキルが向上する」
米国で15年の現場経験を持つ著者が、日本の現状を見つめながら「PMのスキル」として書いたこの本は、誰もが陥る誤解をはっきりと解いてくれる。ストレートな表現はどこか新鮮で、ズシズシと訴える。「プロジェクト現場が本当に必要とするのは、プロジェクト・マネジメント解説者ではなく実践力を持った問題解決者である」。ここまでならほかの本でも書かれている。しかしこの本では、具体的な「how」で、「PMのスキル」を身に付けられるように体系化しているという特徴がある。さらには、そのスキルを支える行動理念にまで踏み込んで解説している。
「プロジェクト=一発勝負の目的指向型事業」という考え方をのぞいてみて、いまあなたがかかわっているプロジェクトを見つめ直すと新たな自分の可能性に気付くかもしれない。
プロジェクト管理のノウハウを学ぶ |
実践! プロジェクト管理入門――プロジェクトを成功に導く52の鉄則 梅田弘之著 翔泳社 ISBN:4798104728 2003年6月 2079円(税込み) |
IT業界にいると、「あなたはどんなプロジェクトをいくつ経験しました?」と経験を尋ねられることがある。あなたは次のように、回答に困ったことはないだろうか。
・プロジェクトが終わっていないと思っていたのに、いつの間にか次のプロジェクトのメンバーになっていた。
・プロジェクトメンバーに外国人が加わったことで、プロジェクトがうまくいったのかどうか分からなくなった。
・プロジェクト・マネージャは、課長、部長職兼務で、課員である自分は常に複数のプロジェクトを並行しているのが当たり前になっていた。
もし、心当たりがあるならば、ぜひ自分が参加したプロジェクトの状況を客観的に見つめてほしい。この本には新入社員、若手社員向けのプロジェクト管理における入門書としてのノウハウがたくさん詰まっている。時間をかけずに知識としての「理論」を学び、現場での「実践」に即使える「手段」としてのテンプレートを見てみよう。すぐに理解し、現場で生かせるヒントに気付くはずだ。
もしかすると、忙しい上司や先輩の様子を見ながら、自分なりの何かをつかむのに役立つかもしれない。
できる人が持つ努力以上のものとは? |
「できる人」はどこがちがうのか 齋藤孝著 筑摩書房 ISBN:4480059040 2001年7月 735円(税込み) |
人は いろいろなことに一生懸命努力しようとするが、必ずしも成果が伴うわけではない。しかし考えてみれば、「どんなことでもこなす人」というのはいるもので、そのような人にはただがむしゃらな努力ではない、“何かの力”があるといわざるを得ない。
この本は、明確にその答えを出してくれる。それは、「上達の普遍的な論理」、即ち、上達の秘けつをつかむことであるとしている。そのための具体的な3つの技を、さまざまなジャンルの「名人」の例を織り交ぜて紹介するというスタイルで解説しているところが面白い。つまり、3つの技はあらゆる分野で使えるといっているわけである。
子どもに何を教えるべきか、本当に必要な生きる力とは何か、そんな根本的な疑問にまじめに向かうべき時がきているといわれる。「上達の普遍的な論理」は、そんなところから生まれた考えでもある。
仕事に追われる中でも自分を見失うことなく、技を生かしながら着実に力を付け、自分なりの「上達の秘けつ」スタイルを見つけるために、ぜひ読んでほしい1冊だ。
上司と部下の関係に悩んだときに |
上司は思いつきでものを言う |
「こいつ一体何をいい出すんだ。1週間前といってることが正反対だぞ」
忙しい最中に突然降ってくる上司の理不尽な言動に憤ったことが何度もある。「現状を見てものをいえ」と思ったことも数知れず。多くは呆気(あっけ)にとられている間に打ち合わせは素通りし、結局はその理不尽を被るハメになっておしまい。そんなことはよくあるパターンだ。橋本氏はそれに「そりゃアナタが○○○てみせればいいだけ」だと、1つの方法を示してくれている。そうか、「○○○てみりゃよかったのね」とハタと気が付いた。
とはいえ、そうあるためには、こちらも常に頭脳明せきな状態でいなければならず、それはそれで修業がいるかな、とは思えるが……。
○○○が何であるか知りたい方はご一読をどうぞ。意外といえば意外。
ご存じ、作家橋本治氏の「ビジネス本」である。氏のこういった本によく見られる特徴は「ちょっとクドイ」くらいの説明と文章だが、それも、この中で述べられている内容をかんがみてみれば理由は分かるようになっている。
要するに「相手に理解させたい」という気持ちの現れ。すべからく、部下もこの気持ちで資料なり文章なりを作成する努力は行わなければならない。いわれてみれば当たり前の事なのだが、相手が「上司」の場合、それを忘れがちなのもまた事実。上司は上司であるが故に、自分よりは当然仕事ができて頭が良いはず、と無条件に思い込んでいるのが常なわけで、実際私自身もそういう部分がなきにしもあらず。そして、そうでないから腹を立てていた。
「上司」「部下」とは何なのか、思い悩んだときにお勧めしたい1冊である。
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