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外資系コンサルタントのつぶやき 第18回
外国人上司との付き合い方は難しい

三宅信光
2002/12/18

   同僚とのコミュニケーションは問題なし

 今回のテーマは、外国人の上司についてです。以前、外資系コンサルタントに英語は必要かどうかを書いたことがありましたが(「第12回 外資系コンサルタントに英語は必要か」)、今回は外国人が上司の場合、その独特の感覚、日本の状況を必ずしもきちんと理解してもらえないために苦労した話などを紹介したいと思います。

 本連載を読んでいただいている方はお分かりでしょうが、私は生粋の外資系コンサルタントではありません。少なからず元いた会社のカルチャーを引きずっているところがあります。そうした人間の目を通して会社を見ると、極端なことをいうと、外資系のコンサルタント会社は異世界のように思うことがあります。しかし、やはり同じ日本人、ということになるのでしょうか、日本人の同僚と話をしていると、考え方の違いや育ってきた環境の違いがあっても理解することはそれほど難しいものではありません。もっとも、だからといって日本人以外のスタッフとのコミュニケーションに苦労している、といいたいわけではありません。言葉で苦労することはあっても、バックボーンの違いが大きいだけで、分かり合えないとは思うことはありませんでした。

   上司との会話は難しい

 しかし、同等以上の立場の人間との会話では、いくら話しても分かってもらえないことがよくあります。相手のいうことは理解できるのですが、その考えの前提が、彼らのいうワールドワイド(その実態はアメリカだと思うのですが)に置かれていて、必ずしも日本の状況に合わないケースがあるのです。

 もちろん、こちらからは日本の状況を口を酸っぱくして説明するのですが、なかなか分かってもらえない。彼らは「日本人に教えてやるのだ」という意識が強いのか、「ワールドワイド(アメリカ?)のやり方が絶対だ」という意識が強いのか、時として鼻持ちならない、と感じることさえあります。

 もう何年か前になりますが、日本法人によるシステムの運用経験があまりなかったため、運用業務の経験が豊富な本社のマネージャS氏をアドバイザーとして呼んだことがあります(もちろん外国人)。私はそのとき、ほかの日本人スタッフと一緒にそのS氏への対応をしました。来日したのは、S氏が1名、そのほかのスタッフが1名でした。彼らからは、契約の形態から、サービスの内容、障害対応のやり方、クライアントへの報告資料など、実にいろいろなアドバイスを受けました。有益な話が多く、彼らが教えてくれたことをすべて否定するつもりはありませんが、マネージャが教えてくれたやり方を、そのまま日本では適用できないと気付きました。

 もちろん、その場で「そのやり方を、そのまま適用するのは難しい」と話をしたところ、彼は「なぜだ?」と理由を聞いてきます。そこからが難関なのです。

   納得できない

 私はそれほど英語が得意ではありません。通訳を交えながら相手に説明することになったのですが、まあそれでもなんとか意は通じたようでした。しかし、納得はしてくれないのです。

 一番の問題となったのは、詳細は省きますが、ある社内のパフォーマンスの低いメンバーの扱いでした。マネージャは「即刻やめさせるべきだ」と強調します。しかし、日本でそのような乱暴なやり方では通じないと考えている私は、日本の労働法規や労働慣習、果ては人事部門の意見まで引用しながらきちんと時間をかけて対応をしたい、と説明したのです。2、3度説明すると、S氏からの反論はなくなり、完全に納得しただろうかと安心すると、「やはり納得できない」といって、また最初から議論することになります。

 負けず嫌いな私の会社のメンバーも、普通は議論に負けると素直にその意見を受け入れてくれるものです。私の議論の仕方がまずいのかと思って、同行していたスタッフに聞くと、「あなたの方が正しいと思う。彼がなぜ納得しないのか、私にも分からない」といわれました。

 さらに議論が進むうちにパフォーマンスが低いメンバーを解雇した後のメンバーの補充も簡単にはいかないというと、「そんなはずはない、労働条件はよいのだから、募集をきちんとすれば人は集まるはずだ」というのです。S氏は、彼の国での知名度が頭にあるようで、「私の会社で働けるなら、人は集まってくる」くらいに思っているようなのです。しかし、私の会社の知名度は、日本ではそれほど高いものではありませんし、特に運用のための人材となると、よい人材が労働市場で極端に少ないように思います。そんな苦労を知っていたので、その話をすると、今度は「人材採用エージェントが悪いに違いない!」という話になってしまいました。

 こうなると、私も付き合いきれないと思ったので、矛先が採用担当者の方に向いた機会に、上司に「彼とは付き合うことができないので、担当を変えてくれ」と申し入れ、取りあえず彼とつき合う必要がなくなったときにはほっとしたものです。

   自国がワールドワイド

 S氏が主張していたことは、労働市場がきちんと成立し、スタッフの考え方も異なる彼の本国では正しいものです。しかし、全く状況が違うといっていい日本で、いきなりそのまま適用しろというのは無理です。いま考えてみるとそのS氏は、「ワールドワイドから教えに来た」という気持ちが強かったために、より進んだやり方である彼の本国の方法を日本に適用することを、それほど大きなことだとは思っていなかったのでしょう(強行突破すれば、周りの環境が変わると思っていたのでしょうか)。ただ、会社の規模も社会的なポジションも本国と日本とでは大きく異なること、そしてS氏自身が、そもそも日本の状況を理解しようとしない姿勢が、私たちとは相いれない結果になったのだと思います。

 S氏のケースは典型的な話ですが、日本と諸外国との状況の違い、特に労働市場の状況を理解してくれない役員クラスの外国人にも、何度か会ったことがあります。また、どうしても本国での自社の地位が強く、同じような強さの姿勢をクライアントに向けてしまうのも困りものです。これは、アメリカなどでは私の会社はクライアントのビジネスパートナーであり、場合によってはクライアントを導く立場にあるという考えがあるためのようです。もちろん、私は本国のクライアントとの関係がどういったものかを正確に知る立場にいないため、これらは聞いた話でしかありませんが。

   本社とは異なるクライアントとの関係

 しかし、日本ではまだクライアントを導くほどの立場に立てる力を外資系コンサルタント会社は持っていません。それが外国人役員にはなかなか理解できないようです。例えば、あるクライアントが自社内のネットワークをインターネットなどの外部ネットワークと接続していないため、リモートによるメンテナンスができない話をその役員にしたところ、「それはおかしい。セキュリティをきちんとすれば問題ない」と、私たちも分かっていることをいったうえで、「これからクライアントの上層部とその件で話をする。ミーティングをセットアップしてほしい」といい出す始末です。

 そのクライアントは別に、将来もずっと外部ネットワークに接続しないというのではなく、セキュリティを重視していたため、当初は外部へ接続せず、社内の体制整備をきちんとしてから接続する、というその会社としての方針をきちんと持っていたのです。実際、同社は社内の体制整備を進め、そのころ会社内の合意を形成している最中だったのです。そのため、役員にはその事情を説明したのですが、「いや、そんな話は検討するほどのものではない。すぐに実現できることなのだから、私たちがそう指導しなくては駄目だ」と、強引にミーティングをセッティングしたのです。

 外国人役員がいっていることも間違いではないのです。しかし、クライアントにはきちんとしたポリシーがあり、私の会社からそんなことをいわれる筋ではないと考えていたので、けんもほろろに扱われ、私はそのクライアントの担当の方に、「彼は何しに来たのだ?」と皮肉をいわれました。クライアントの上層部の方はだいぶ不快に思われたようで、その外国人役員は出入り禁止になりました。もっとも会社としてのお付き合いを断られなかっただけでも幸いでしたが……。

 外国人役員は、確かに優秀な方が多いようです。日本人の役員に比べて変わった人は少なく、尊敬できる人が少なからずいます。しかし、その意見が必ずしも日本の状況に合っているとは限りません。彼らが育った環境、文化というものは、彼らの中にぬぐいがたく染み込んでいることがままあるのです。モノを考える根幹が違う彼らと付き合うことは、英語でコミュニケーションすること以上に、意外と難しいことが多いのです。

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