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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”

第2回 なぜ「決めただけではダメ」なのか?

野村隆(eLeader主催)
2005/4/15


将来に不安を感じないITエンジニアはいない。新しいハードウェアやソフトウェア、開発方法論、さらには管理職になるときなど――。さまざまな場面でエンジニアは悩む。それらに対して誰にも当てはまる絶対的な解はないかもしれない。本連載では、あるプロジェクトマネージャ個人の視点=“私点”からそれらの悩みの背後にあるものに迫り、ITエンジニアを続けるうえでのヒントや参考になればと願っている。

スキルがある=カセットテープの再生

 前回(「第1回 WhyとHow、どちらで悩みますか?」)は、スキルの横軸(Howの軸)と、ITビジネスの成功の縦軸(Whyの軸)について紹介しました。今回からは、ITビジネスの成功の縦軸(Whyの軸)において必要な考え方を整理して解説したいと思います(今回の記事は、筆者個人のWebサイトで発表した文章にさらに加筆したものです)。

 最初に、「スキルがある」とはどういうことかを整理しておきましょう。

 ITビジネスにおいては当たり前ですが、作業遂行上ITスキルは必須です。よって、スキルがあるのはいいことですし、ITビジネスの推進メンバーであるための必要条件といえるでしょう。

 スキルがある人が、それを生かしてITビジネスに貢献する。当たり前のことですし、素晴らしいことです。これがなければITビジネスは前に進みません。ITスキルがないメンバーが何人集まっても、ITビジネスは何ら前に進まないわけです。

 一方、スキルがある人がそれを生かして作業するということだけでITビジネスは成功するのでしょうか。私の中では、答えは「No」です。

 なぜでしょうか。理由はいくつかありますが、その1つを挙げるなら、成功には「考える力」と「行動力」が必要だからです。

 考える力と行動力については後で触れるとして、まず、ITビジネスにおいてスキルがある、ということについて考えてみましょう。

 私にいわせれば、ITビジネスにおいてスキルがあるということは、例えるなら音楽のカセットテープを巻き戻して再生するようなものです。スキルがあるということは、過去に経験なりトレーニングなりを積んでいるわけです。その経験・トレーニングをITビジネスの現場で再現(カセットテープでいえば再生)しているにすぎません。

 むろん冒頭にも書きましたが、スキルがあることはITビジネスでは重要です。再現・再生することは悪いことではありません。むしろ、いいことです。

 さらにいえば、再生するカセットテープをどれだけ自分で持っているか、つまり、ITビジネスにおいて発揮できるスキルがどれだけあるかでプロジェクトへの貢献の度合いが変わるのです。よって、再現・再生するネタとしての「スキルがある」ということは素晴らしいことです。たくさんカセットテープを持ちましょう。

 ただし重要なことは、過去の経験で知っていることを再現・再生するだけでは、あまり頭を使って考えていないということです。そうです、スキルがあることと、頭を使って考えることとはまったく異なるのです。相関関係はありません。

 次に、「考えること」とは何かについて説明しましょう。

縦軸のアプローチ〜ステップ1:考える力

 考えることとは何でしょうか。大抵の場合ITビジネスはプロジェクトの形を取りますので、プロジェクト遂行上の問題を考えること、例えば以下のような局面をいかに打破するか、ということに、脳みそから血が出るほど頭を使うことです。

(1) プロジェクトの作業範囲外ではあるが、システム接続先の外部システムの作業スケジュールが遅延し、自分のプロジェクトの作業スケジュールに影響が出た。どうやって外部システムの責任者・担当者を説得して自分のプロジェクトのスケジュールに合わせてもらうか。

(2) システムのユーザー部署の説得に失敗して、システム要求仕様定義が停滞してしまった。いかにしてユーザー部署の合意を取りつけて要求仕様定義を完了させ、システム設計作業に着手し、プロジェクトを推進するか。

(3) システムのデータ移行における詳細設計段階で、現行システムから新システムに移行することが基本的に不可能なデータ項目が発覚した。無理にデータ移行をするためには複雑なプログラムの設計・開発が必要で、100人月掛かるということが分かった。コストを抑えるため、ユーザー部署にこのデータ項目を移行しないことにした。そして、移行しないことによって一部、現行業務に影響が出るが我慢してもらいたい、と説得した。しかしユーザー部署は説得に応じない。コストを掛けて開発するか、ユーザー部署を継続して説得するか。

 このような問題が発生したときに、「スキルがある」が、考えることをしない人は大抵以下のような反応を示します。結果として、考えることをしない、頭を使って問題を解決しようとしない、プロジェクトは停滞したまま、となります。

ありがちなプロジェクトの対処は

(1)の場合
外部システムの責任者を説得するのは私の仕事ではないし、協力しないやつが悪いんだ。 このままずるずるスケジュールが遅延しても私の責任ではないからどうでもいい。 言い訳が成立するから、私の評価にも影響しないので、放っておこう。外部システム側での準備ができたら、私の出番だ。


(2)の場合
ユーザー部署の人間はシステムがどう設計構築されるかなんて一生かかっても理解できない。 彼らはいつも「あれが欲しい、これがないと駄目だ」といっているだけのばかな連中だ。 彼らが頭を冷やして私たちに頭を下げて「システムを作ってください、お願いします」というまでは私の出番ではない。

(3)の場合
データ移行において、完ぺきを求めても仕方がない。現行システムがそんなに優れているのであれば、現行システムを使い続ければいいだろう。 どうせ100人月の費用を掛けるならば、新しいシステム機能を実現するために使った方が良いに決まっている。 このままでは話は平行線。ユーザー部署が折れるまでプロジェクト停滞もやむを得ないな。 データ移行仕様が決定したら、私の出番だ。それまで待とう。

 どうでしょうか。ITビジネス・プロジェクトの日常風景だと思いませんか。上記のいずれの場合も、「スキルがある」人は、問題を解決しようとせず、自分の出番であるところのシステムインテグレーション(SI)スキルの発揮(カセットテープでいう再生)を待っているだけです。これではITビジネス・プロジェクトは停滞してしまい、いたずらに時間が過ぎ、納期遅延・予算オーバーへと一直線です。

 ITビジネスの成功のためには、「スキルがある」ことと「考えること」の違いを理解しなくてはいけません。そして、自ら「考えること」を心掛けなくてはいけません。別の例えをするならば、「スキルがある」ことは、高速でサーキットを走るようなものです。スキルが高ければ、速く走ることが可能です。速いに越したことはありません。スピードを求めましょう。どんどんスキルを付けましょう。

 ただし、ITビジネスは常に舗装道路を走るというわけにはいきません。場合によっては、山道や、最悪の場合、誰も通ったことのないような荒野を走行しなくてはならなくなります。換言すれば、ここでいうスピードは横軸(How)の考え方であり、荒野の走行は縦軸(Why)の考え方なのです。

 「考えること」とは、どうやって山道や荒野を走りきるか、ということに、脳みそから血が出るほど頭を使うことです。ITビジネス成功のためには、「スキルがある」人たちがいかにして舗装道路を走るかを「考えること」が大事なのです。

縦軸のアプローチ〜ステップ2:行動力

 「考えること」が、ITビジネスにおいて重要であることがご理解いただけたかと思います。では、ずっと考えていればいいか、というとそうではないです。行動するチカラ、行動力が必要なのです。

 行動力について、まず、以下の問いから説明に入りましょう。

問: 5羽の鳥が木に止まっています。その5羽のうちの3羽が飛び立つことに決めました。さて、木に残ったのは何羽?

 小学生でも分かる問題です。さて、何羽でしょうか。

 答えは5羽です。理由は飛び立とうと「決めた」だけで、まだ実際に飛び立っていない、「行動に移していない」から、すべての鳥は木に残っています。一休さんのとんちみたいですが、行動力を説明するときに、よく使われる話です。

決めただけではダメ

 つまり、何らかのアクションを起こす、ということは、必ず実際に行動が伴わなければならないということです。頭でよく考えて、「これをやろう」と決めても、必ずしも行動が伴わないということはよくある話です。

 そのほかにも例はいくらでもあります。

好きな女の子(女性の場合は男の子)に告白しよう、と「決めた」のだが、今日は天気が悪いから、と勝手に理由をつけて告白しない。そうやってためらっている間に、好きな女の子に彼氏ができてしまう。

ダイエットしよう、スポーツクラブに通う、と「決めた」のだけれども、忙しい仕事の合間に入会手続なんて面倒、と勝手に理由をつけて入会すらしない。

 「決めた」ときに、勇気ある行動力をもってアクションを起こしていればよかったはずが、残念な結果となってしまうことはよくあります。

今日こそ、業務部署のユーザーとシステムの画面仕様を決める打ち合わせをするぞ、と「決めた」SE(システム・エンジニア)さん。しかし、急ぎの仕事が入ってしまい、打ち合わせをキャンセル。そうこうしている間に、ユーザーとの関係が悪化してしまい、システムの画面仕様が決まらず、ITビジネスのスケジュールが遅延してしまう。

 行動力欠如について、こんな日常風景の例もさることながら、日々のITビジネスの中でも、いくらでも例を挙げることができます。

今日こそ、部下の期日を守らない勤務態度を注意するぞ、と「決めた」チームリーダーさん。しかし、今日はサッカーワールドカップの日本代表試合。周りの皆が家に早く帰るので、明日でいいや、と注意せず。翌日、ほかのチームメンバーが勤務態度を注意したため、チーム内でけんかのようになってしまい、チームのモチベーション(やる気)が一気に下がって、ばん回に大変苦労している。

今日こそ、非協力的な技術基盤チーム(大抵ハードウェアやネットワーク管理をしている)に直談判して協力要請をするぞ、と「決めた」アプリケーション開発チームリーダーさん。しかし、今日はちょっと風邪気味なので、とメールで済ませてしまう。翌日、メールではやはり真意が伝わらず、かえって断片的・一方的な通知になってしまい、さらに技術基盤チームとアプリケーション開発チームとの関係も悪化し、改善に大変な思いをしている。

 どうですか。もっともらしい理由を付けて、行動に移さないことはよくある話です。「決めた」だけでは何も前に進みません。実際にアクションを起こすこと、「行動に移す」こと、つまり、行動力が極めて重要なわけです。

 話を元に戻しましょう。先ほど、ITビジネスにおいて「考えること」の重要性を説明しました。考えることを抜きにして行動を起こしても、あてずっぽうの行動となってしまうので、まずはよく「考え」ましょう。

 ただし、考えただけ、思いついただけ、やると決めただけでは、何も起こりません。

 実際に行動を起こす、勇気を持って、今日、いま、行動力をもって実際にアクションを起こすことが、ITビジネスの成功の軸でキャリアを伸ばすために求められます。つまり、縦軸(Why)のキャリアアップにおいては、考える力と同時に行動力が求められるのです。

縦軸のアプローチ〜ステップ3:失敗を恐れない

 最後に、どうしても行動力を、勇気を持って発揮できないあなたへ。あなたへの質問は、「あなたは失敗を恐れていませんか」です。

 上の例でいうなら、ユーザー部署に怒られる恐怖、勤務態度の悪い部下が逆切れする恐怖、技術基盤チームメンバーにののしられる恐怖にとらわれていませんか。恐怖に震えている自分をまず認めましょう。人間、皆、弱いものです。

 ただ、恐怖に負けて何もアクションを起こさなかったときに、どうなるかを考えましょう。何もアクションを起こさなければ、あなたの恐怖は取り除かれます。しかし、あなたの理想とする状況、つまりユーザー部署との関係、勤務態度の悪い部下、技術基盤チームとの関係の改善は実現されません。むしろ遠のきます。

 自分の中の恐怖に打ち勝って、勇気を持って行動力を発揮する人が、結果として、大規模ITビジネスの成功を目指す者として認められます。

 別のいい方をすれば、何も行動を起こさなければ失敗はないが、それでは何も変わらないわけです。失敗を恐れず、行動あるのみ、です。

 今日、いま、自分がよく考えて正しいと信じた道を突き進む行動力を発揮する勇気を持ってください。

 この「失敗を恐れない」精神はとても重要です。私も多くの人材をITビジネスにおいて見てきましたが、「失敗を恐れない」精神を持たない人は、結果として最後の最後で、行動力欠如により、ITビジネスを成功させることができません。

 私自身も昔はそうでしたので、その気持ちは大変よく分かります。そして、恐らく、多くの、それも優秀な技術者が「失敗を恐れない」精神を持たない理由は、学校教育にあると認識しています。

 次回は、「失敗を恐れない」精神と学校教育との関連について解説します。ご期待ください。

筆者プロフィール

野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイトも運営。

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