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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”

第11回 信頼は河原の石のように

野村隆(eLeader主催)
2006/1/26


将来に不安を感じないITエンジニアはいない。新しいハードウェアやソフトウェア、開発方法論、さらには管理職になるときなど――。さまざまな場面でエンジニアは悩む。それらに対して誰にも当てはまる絶対的な解はないかもしれない。本連載では、あるプロジェクトマネージャ個人の視点=“私点”からそれらの悩みの背後にあるものに迫り、ITエンジニアを続けるうえでのヒントや参考になればと願っている。

リーダーシップトライアングルの周辺3要素

 本連載第7回「中心は『ココロ』、リーダーシップトライアングル」、第8回「コミュニケーションはリーダーシップの基礎」、第9回「ソフトウェアは目に見えない」、第10回「正しいことをし、行動力を発揮するココロ」の4回にわたって、私の考えるリーダーシップのフレームワーク、リーダーシップトライアングルについて解説してきました。

 前回までで、リーダーシップトライアングルの構成要素をすべて説明したと考えております。

 今回はリーダーシップトライアングルを解説する最後として、リーダーシップトライアングルの周辺3要素について説明をしたいと思います。

 周辺3要素とは、Capability/Commitment/Credibilityです。順を追って個別に解説します。

図1 リーダーシップトライアングル。今回は周辺3要素、Capability/Commitment/Credibilityを解説する

Capabilityは能力

 Capabilityは日本語でいう能力です。まあ、スキルといい換えてもいいでしょう。

 この連載では、スキル・能力はシステム開発プロジェクトを遂行するうえで非常に重要ですが、能力のみならずココロが大事ということを一貫して主張してきました。ですのでリーダーシップトライアングルでは、Capabilityは、主要な要素ではなく周辺要素として整理しています。

 しかし、いかにココロが重要といえども、何もスキル・能力がないのではリーダーにはなれません。気合と根性だけで何もスキル・能力のないリーダーというのは、やはり困ります。

 システム開発プロジェクトで特に必要となるスキル・能力は、進ちょく工程管理・品質管理といったマネジメント関連のスキルでしょう。具体的にはCMM、PMBOKといったマネジメント手法に関連するスキル・能力を指します。

 従ってCapabilityは、リーダーシップトライアングルの構成要素のうち、マネジメントに近いことになります。図でもマネジメントの隣、三角形の右側に位置します。

Commitmentは決意

 Commitmentという言葉は、日産のカルロス・ゴーン氏の発言で広く世間に知られるようになりました。確約というか、責任・決意を伴った約束事項でしょうか。私は気持ちの問題が重要だと思っています。必ずやるんだという気持ちですね。

 この気持ちの問題、必ず実行するという気持ちは、前回「正しいことをし、行動力を発揮するココロ」で紹介した「胆識」の考え方に近いです。ここでいうCommitmentとは、やると決めた事項のためにいつまでに何をするかをクリアにし、それを成し遂げる決意のことです。

 いつまでに何をするかをクリアにする具体的なやり方の1つとして、リーダーシップトライアングルのビジョンの個所(第9回「ソフトウェアは目に見えない」)で紹介した、マイルストーンを使う方式があります。リーダーシップトライアングルの周辺要素としてのCommitmentとは、マイルストーンを使うかどうかという手続きの問題はさておき、ビジョンを実現するための決意です。

 従ってCommitmentは、リーダーシップトライアングルでも、ビジョンに近い三角形の左側に位置します。

Credibilityは信頼

 Credibilityは日本語でいう信頼です。リーダーシップトライアングルの一番下、コミュニケーションの近くに位置します。

 なぜでしょうか。結論を先にいってしまうと、リーダーシップの基礎は信頼にあると考えるからです。その理由を見ていきましょう。

 まずは、皆さんご存じと思いますが、「信無くば立たず」という言葉の意味について考えたいと思います。

 「信無くば立たず」を漢字だけで書くと、「無信不立」となります。出典は『論語』です。

 まず、『論語』の該当個所に当たってみましょう。

子貢問政。子曰、足食、足兵、民信之矣。
子貢曰、必不得已而去、於斯三者何先。
曰、去兵。子貢曰、必不得已而去、於斯二者何先。
曰、去食。自古皆有死。民無信不立。

 書き下し文はこうなります。

子貢、政を問う。子曰く、食を足らわし、兵を足らわし、民にこれを信ぜしむ。
子貢曰く、必ず已むを得ずして去らば、この三者において何れを先にせん。
曰く、兵を去る。子貢曰く、必ず已むを得ずして去らば、この二者において何れを先にせん。
曰く、食を去る。古より皆死あり、民、信なければ立たず。

 簡単に口語訳すると、以下のようになるでしょう。

孔子の弟子、子貢が政治とは何かと聞いたところ、孔子は、食料を整え、軍備を整え、民衆の信頼を得ることであるといった。子貢がこの3つの中で1つなくさなければならないとしたら何をなくすかと聞いたところ、軍備だと答えた。残った2つのどちらかをなくさなければならないとしたら何をなくすかと聞いたところ、食料だと答えた。死は昔からあるものであり、ある意味避けられない。しかし民衆の信頼なくしては、政治は何もなし得ない。

 分かりやすくいえば、少々くだけすぎですが「三度の飯より信頼が大事」ということですね。

   

今回のインデックス
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 ITエンジニアを続けるうえでのヒント(11) (2ページ)

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