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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”


第24回 人を育てるためには我慢して待ちましょう

野村隆(eLeader主催)
2007/3/7


将来に不安を感じないITエンジニアはいない。新しいハードウェアやソフトウェア、開発方法論、さらには管理職になるときなど――。さまざまな場面でエンジニアは悩む。それらに対して誰にも当てはまる絶対的な解はないかもしれない。本連載では、あるプロジェクトマネージャ個人の視点=“私点”からそれらの悩みの背後にあるものに迫り、ITエンジニアを続けるうえでのヒントや参考になればと願っている。

リーダーシップトライアングルにおける位置付け

 この連載ではシステム開発プロジェクトにおけるリーダーシップを中心に、「私の視点=私点」を皆さんにお届けしています。

 今回の内容は、リーダーシップトライアングルのLoveとManagementに関係します。Loveについては、第10回「正しいことをし、行動力を発揮するココロ」を、Managementについては、第9回「ソフトウェアは目に見えない」を、それぞれ参照いただければと思います。

図1 リーダーシップトライアングル。今回は「Love」(ココロ)、「Management」に関連する内容について解説する

我慢して待つことの重要性

 前回、旧日本海軍の連合艦隊司令長官であった山本五十六氏の言葉を引用しました。

「やってみせて いって聞かせて やらせてみて ほめてやらねば 人は動かず」

 この言葉のうち、「やらせてみて ほめてやらねば」の部分を実践するためには、「我慢して待つ」ことが重要ということを説明しました。今回では、「我慢して待つ」ことの重要性とその効果についてさらに解説します。

幼児教育における待つこと

 「我慢して待つ」ことの重要性を解説するに当たり、少々わき道にそれますが、幼児教育の話をさせてください。

 自分が子どもだったとき、親に「あれしろ、これするな」と指図され、良い気分がしなかったという人は多いのではないでしょうか。それを考えると子どもにあれこれ手出し口出しをすることは、あまり得策ではありません。

 一方で、お子さんをお持ちの人はご理解いただけると思いますが、自分の子どもには何かと手出し口出しをしてしまうものです。やはり、自分の子どもに対しては、客観的、冷静に対応できず、感情が先走ってしまいます。それはどの親も同じでしょう。私も自分の子どもにはなかなか冷静に対応できません。

 さて、幼児教育における「待つこと」の重要性について、久野信さんという方の著書から以下を引用します。

 例えば子供が「モヤシ嫌い」と言った時、親は「好き嫌いはダメ」「わがまま言うな」「悪い子」などなど、いろいろと言う。これは「モヤシを食べて欲しい」「好き嫌いのない子になって欲しい」「わがままにしてはいけない」などの思いがあるからでしょう。

しかし、この言い方では、どうしても「お前はダメな子」ということだけが伝わってしまう。子供の動き出し方には、二つある。一つは「ダメな子」と言われ、動き出すのと、「僕やれそうだ、やってみたい」と胸をふくらませて動き出す場合がある。前者は恐れと不安を動機として動き出す。後者は自信と希望で動き出す。

ここで子供の気持ちを汲むことで、子供が自ら動き出した実例を一つ。
子「お母さん、私モヤシいやなの」
母「そう、モヤシいやなの」
子「私あの匂いがいやなの」
母「そう、匂いがいやなの」
しばらく経って、
子「お母さん、一本でいい?」
母「そう、一本なら食べられると思ってるの?」
子「ウン」
しばらくして、結局、その子は三本食べた。

(『子供の自立をめざして―あなたの愛が伝わっていますか』久野信著 サンパウロ刊)

自分を作る時

 上記の例で、お母さんは、一度も子どもをしかったり責めたりしていません。でも、子どもはモヤシを食べました。それも1本ではなく、最終的に3本食べました。

 この事例を、久野氏は「これはすごいこと」としています。

 幼児教育の視点からは、子どもは自分のありのままの正直な気持ちを母親に受け入れてもらったことによる安心感を基にして、「自分は自分でいいのだ」と理解し、自我の確立につながる、と久野氏は説明しています。

その後、久野氏は以下のように続けます。

子供にいつ、何が起きたのでしょう。

そうです。お母さんは何も言わないで、ただ聞いてやったことと、その会話の間の、親が何もしなかった時間に、大切なことが起きていたのです。「どうしようかなー」と思い迷ったこの短い時間こそ、宝の時間。

待てない親は、子供を育てられないようですね。親が黙って待っている時こそ「子供の時」「自分を作る時」なのです。

(『子供の自立をめざして―あなたの愛が伝わっていますか』久野信著 サンパウロ刊)

 どうでしょう。子どもがいる人には、耳が痛い話なのではないでしょうか。私も親として、ここでいう「子供の時」「自分を作る時」を大切にしたいと思います。

社会人にもある「自分を作る時」

 この「自分を作る時」を社会人に当てはめて考えてみましょう。

 前回解説した「我慢して待つこと」の重要性とは、上記の幼児教育の例でいう「自分を作る時」という宝の時間を大事にすることといえます。

 社会人であるITエンジニアと幼児とを同列にして議論することに抵抗のある方もいらっしゃるかもしれませんが、自主性、自律性ということを議論するのであれば、程度問題で、同じことがいえると思っています。

 社会人であっても、上司が部下の仕事を我慢して待ってあげる、先回りして細かいところまで指導しないといった上司の姿勢から、部下は自分の仕事を自主的、自立的に成し遂げなくてはいけないという責任感に目覚めます。引用部分の「『僕やれそうだ、やってみたい』と胸を膨らませて動き出す」という状態です。

 自分で責任感を持って仕事にあたれば、おのずとやる気や創造力を発揮して、自分の仕事を自分で成し遂げるようになります。このような好循環に入ると、上司と部下は協調・共感を持つ関係となり、上司も部下の能力を信じてさらに仕事を任せるようになります。

 このような好循環に入るための第一歩は、「我慢して待つこと」であり「自分を作る時」を与えてあげることなのです。

ある経営者の部下指導の考え方

 ここで「我慢して待つこと」と「自分を作る時」に通じる考え方を紹介します。私はかつて、ある経営者の方から部下を指導する方法を教えてもらいました。

 その人がいうには、部下指導において「教える」というのはよいやり方ではないとのこと。むしろ、「教えない」方がよい。最も優れたやり方は、上司が部下に「教わる」ことというお話でした。

 この話を聞いたときは、私が若かったせいでしょうか、あまりピンときませんでしたが、いまになってようやく理解できたように思えてきました。

 「教える」という姿勢では、部下の自主性は育ちません。「やらされている」と感じてしまいます。それならば、むしろ「教えない」方がまだマシということでしょう。上司が部下に「教わる」姿勢を見せることにより、部下が上司に頼りにされていると感じてやる気を出す。そして自主的に仕事を推進するということなのではと理解しています。

システム開発プロジェクトの現場で実践しよう

 最後に、システム開発プロジェクトの現場にも、「我慢して待つこと」「自分を作る時」の話を当てはめてみましょう。人を育てるために「我慢して待つ」といっても、実際の現場で働くプロジェクトリーダー、チームリーダーの皆さんからはこんな声が聞こえそうです。

「スケジュールが厳しく、期限を守り、品質を維持し、なおかつ、コストも考えると、とても人など育てていられない。即戦力が欲しい!」

 確かに気持ちは分かります。プロジェクトリーダーは、プロジェクトを円滑に遂行する責務を負っています。ですから、部下の仕事について、すぐに効果・結果が欲しいという気持ちになることは理解できます。

 また、プロジェクトは期限・納期、さらにはコストが決まっているので、時間がなく、待てないという気持ちも理解できます。

 しかし、プロジェクトに必要な能力を持った人が、いつでもメンバーにいるわけではないという現実を無視することはできません。特に大規模プロジェクトともなると、参画人数も大規模になります。全員が即戦力というわけにはいきません。何らかの形で、人を育てなければならない場面に遭遇します。

 もう一度久野氏の言葉を引用します。

子供の動き出し方には、二つある。一つは「ダメな子」と言われ、動き出すのと、「僕やれそうだ、やってみたい」と胸をふくらませて動き出す場合がある。前者は恐れと不安を動機として動き出す。後者は自信と希望で動き出す。

 ここでいう「恐れと不安を動機」とする場合と、「自信と希望で動き出す」場合。どちらが、人を育てるのに効果的でしょうか。長い目で見てどちらが効率的でしょうか。ぜひ、プロジェクトリーダー、チームリーダーの皆さんは考えてみてください。

筆者プロフィール
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイト人材派遣情報サイトも運営。


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