Engineer Life Book Review(2)
自分のキャリアと仕事のやり方を考えたい6冊
2002/7/3
辻俊彦、西脇資哲、小林教至
いつも読む本が、技術書関連の本ばかりということはないだろうか? エンジニアにとっての技術書とは、確かに業務をこなすうえで必要不可欠な“道具”だ。その道具を使いこなすのは、職業人としては当たり前のことかもしれない。
しかし、たまには技術書から目を離し、自らのキャリアや人生を考える時間を持つのは悪くないだろう。時間つぶしに、あるいは忙しい時間の合間に、すこしだけ自分のことを考えてみよう。今回は、現在アットマーク・アイティ取締役の辻俊彦、@IT Job AgentとLearning Desk担当小林教至、日本オラクルの西脇資哲氏の3氏に、技術書ではなくキャリアを考えるための本を選んでもらった。あなたなら、どの本から読みたくなるだろうか?
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人生の目的を見失ったときにどうするか? |
夢をかなえる一番よい方法 リチャード・ブロディ著、大地舜訳 PHP研究所 2002年3月 ISBN4-569-61262-8 1500円 |
キャリアを人生ととらえると、いかに幸せに生きるかは、キャリアプランの最優先事項となる。類似タイトルの本がはやっているが、一番実践的な内容なのが本書だと思う。例えば、「人生へのアドバイスは、好きな生き方をしている人だけから受ける」という言葉は見落とされがちではあるが、そこには真実が含まれている。
悩みを解消してもらおうとアドバイスを求めるけれども、アドバイスをする側が悩んでいれば、いいアドバイスは得にくい。実は、キャリア・コンサルタント自身のキャリア構築は、あまりうまくいっていないことが多い。そうであれば、変な専門家にアドバイスをもらうよりは、確かに尊敬する人やあこがれている人からどうしたらそうなれるかの示唆をもらう方が有益である。
筆者は本書で、人生の目的が分からない人に、いままでで最高にうれしかった経験を思い出すことを勧めている。それによって、何が重要で、何に価値があり、だれを愛しているかが分かるようになり、人生の目的に気付くことができるようになるという。ほかにも「完璧主義者になると、一番大切なことができなくなる」とか、「人生において、被害者意識は役に立たない」「責任を引き受けたとき、あなたの人生のパワーは最大になる」「相手に何かをしてもらいたいなら、お手本を見せること」といった、有益で実践的なアドバイスがちりばめられている。この本の勧める考え方を素直に受け入れれば、素晴らしい人生となる可能性が増すことは間違いなさそうだ。
自分を正しく理解し、残された時間で何をするか |
ビジネス・リーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術 グロービス・マネジメント・インスティテュート著 東洋経済新報社 2001年5月 ISBN4-492-53113-0 1800円 |
民間のビジネススクールとして著名なグロービス・マネジメント・スクール。その受講生のキャリア相談に応じてきた経験と含蓄が、本書にあふれている。「真面目にやっていれば『みんながそこそこ』でいられた時代が終わり、自分の選択次第でキャリアがとてつもなく面白くも、かなりつらいものにもなる時代がやってきた」という時代認識のもとに、企業戦略のアナロジーで「現状分析」「キャリア戦略とその実行」が語られている。「現状分析」の章では、市場における自分の位置をつかむための実力チェックシートも付いている。
また、ビジネス・リーダーのキャリア・タイプを組織志向性と専門志向性の2軸で、ゼネラル・マネージャ、スペシャリスト、プロフェッショナル、アントレプレナーの4つに大別している部分は、自分のキャリア・ビジョンを見極めるうえで参考になる。また、「キャリア戦略とその実行」では、重要な戦略として「社内で狙った舞台を獲得する」ことも挙げられ、単純な「キャリア・アップ=転職」といった転職指南本とははっきりと一線を画している。
本書では、全体を通じて現時点の自分を正しく認識したうえで、自分にとって残された時間の中で、何を目指し、何を大切にし、どのようなポジションで、どのような仕事をしていくのかを考え、そのためにどのような行動を起こしていくのか、というキャリアをつくる技術が首尾一貫したメッセージとして語られている。
できる技術者は、「すぐに」を口癖に |
なぜか、「仕事がうまくいく人」の習慣 世界中のビジネスマンが学んだ成功の法則 ケリー・グリーソン著、楡井浩一訳 PHP研究所 2001年3月 ISBN4-569-61488-4 1350円 |
私は、本書を部下(現在はキャリア・アップしたいといって転職してしまったが)から薦められて読んだ。その部下は、この本を見せながら、「ここに書いてあることは、よく西脇さんがいっていることですね」といったことがある。それはどんな意味なのだろうかと思い、一気に読んだのだ。
「忙しい、忙しい」とこぼしながら仕事をしている人ほど、効率が悪い作業になっていることがある。また、そうした人ほど、仕事はたまり、デスクの上は書類などで埋もれてしまう。この本は、そんな人を対象に、仕事を確実にこなすうえでの基本を教えてくれるものだ。
本書は、「能率向上プログラム」(PEP)という手法に従って、仕事を効率良くこなす方法が取り上げられている。例えば、「メールはすぐに処理する」とか、「デスクの整理から始める」といった、ある意味当たり前のことばかりが書かれている。しかし、多くの人にとっては、当たり前のことを当然のようにこなしていくことは、意外と難しいと感じるはずだ。
しかし、本書ではそうしたことにめげず、それを習慣にすることが大切だと説く。つまり、「すぐに」が口癖になるほどの習慣にするのである。ちなみに、私の口癖は「すぐにやろう」だが、本書を推薦してくれた部下が、単にそのことをいったのか、それともほめてくれたのかは分からない。
いまさらながら、パソコンを使った計画立案や情報整理 |
だから、「仕事がうまくいく人」の習慣 その差は、整理力・デジタル力だったのか篇 ケリー・グリーソン著、楡井浩一訳 PHP研究所 2001年12月 ISBN4-569-61915-0 1300円 |
本書は、『なぜか、「仕事がうまくいく人」の習慣 世界中のビジネスマンが学んだ成功の法則』の続編に当たる。『なぜか〜』のキーワードは「すぐに」で、それを基にした理想としての情報整理術や迅速な処理方法が紹介されていた。それに対して本書は、計画立案や目標設定法、それに情報整理をパソコンという道具を使ってどのように行うかといった、とても具体的な方法に踏み込んで紹介してくれる。
ただ、本書を読んで「書いてあることは分かるが、こうしたことってなかなかできない」と思う個所はあるだろう。しかし、前作同様にそれを乗り越え、習慣にすることが大切だと説く。また、日常生活の多くの時間をパソコンと過ごしているであろうエンジニアには、あまりにおなじみのことも書かれてはいる。しかし、パソコン(ソフトウェアを含む)操作ではプロフェッショナルだと自負する私でも、本書を読んで新たな使い方を発見することが何度もあった。
「仕事がうまくいく人」になるために実践すべきことは、あまりにも多い、本シリーズに書かれていることをすべて実践することは難しいかもしれない。そこで私は、この2冊に書かれていることを口癖にするように習慣づけることから始めている。そこから一歩一歩、書かれていることを習慣化できるように頑張っている。
変化の激しい時代に必要なのはキャリア戦略 |
成功するキャリア・デザイン 「やりたい仕事」は自分でつくれ 堀義人編著 日本経済新聞社 1996年6月 ISBN4-532-14477-9 1456円 |
先日あるテレビ番組で、堺屋太一氏が次のような発言をした。「高度経済成長期には、大量生産のための定型的な業務を我慢強くできる人間が必要とされていた。いまはそうではなく、変化に柔軟に対応できる人材が求められている」
これは決して焦燥感をあおるわけではなく、時代が変わったことを認識しなければならないという趣旨だろう。本書の立脚点もそこにあり、変化の激しい現代、ビジネスパーソンに必要なのはキャリア戦略だと説く。さらに戦略を構築するために必要な目標をキャリア・ビジョンとする。本書では、キャリア・ビジョンを作るための方法(スキルの棚卸しや性格把握)、キャリア・ビジョンを実現するための戦略とアクション・プランの立て方、能力向上の技法について、ケーススタディを交えながら説明している。
編著者は、ビジネススクールとして著名なグロービス・マネジメント・スクール代表で、執筆者の多くも同社の講師だ。キャリアを「個人のビジョンに基づく競争戦略」と位置付け、ビジョン実現の戦略を「キャリア・マーケティング戦略」としてマーケティング理論を適用したりと、随所にグロービスらしい視点があり、キャリアについてロジカルに考えることができる。
心理面から幸せな人生を送る方法を知る |
入門 セルフ・コーチング 自分の強みを知り成長させる心理戦略ワークブック 小林惠智編著 PHP研究所 2002年6月 ISBN4-569-62223-2 1500円 |
『成功するキャリア・デザイン』で性格把握の方法として紹介されているのが、本書の編著者である小林博士(教育学、経済学)が開発した「FFS理論」だ。「成功するキャリア・デザイン」がマーケティング的な視点からのキャリア解説なのに対し、本書は心理的な視点から幸せな人生を送るための方法を解説している。
内容は大きく3つ(3ステップ)に分かれる。ステップ1では「自分史」と「FFS理論」を使って自分の可能性を発見し、ステップ2で自分のタイプに合った目的・目標を定め、ステップ3で「ストレス・マネジメント」「メンタル・トレーニング」「“I”メッセージ」(潜在意識へ働きかける自分自身へのメッセージ)を通じて、目標を達成させる方法を説く。多少学術的な解説が多いきらいもあるが、肯定的な心もちで生活することの大切さを理解できる。
冒頭に著者がいう成功者に共通する5つのポイントは、肝に銘じておきたい。「(1)自分を肯定し、社会を否定してきた、(2)成功するまであきらめなかった、(3)自分の強みと弱みを知って活かした、(4)自分を活かしてくれる人に出会い、相手を活かし、自分も活きた、(5)(1)〜(4)の結果としての『運』を味方にした」
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Engineer Life Book Review |
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