第5回 リーダーは、メンバーの目指すゴールを理解すべし
岑康貴(@IT自分戦略研究所)
赤司聡(撮影)
2009/3/2
小林啓倫(こばやしあきひと) 日立コンサルティング シニアコンサルタント 1973年2月26日、東京都出身。筑波大学大学院(地域研究研究科)修了。国内SI企業でERPコンサルタントとしてキャリアを積んだ後、米マサチューセッツ州のBabson Collegeでアントレプレナーシップを学び、MBAを取得。外資系コンサルティング会社、ベンチャー企業を経て、2005年に日立コンサルティングに入社。「シロクマ日報」「POLAR BEAR BLOG」など、複数のブログを執筆するブロガーでもある。 |
■MBA留学と新規事業の立ち上げ
最初に就職するときは、明確に「これがやりたい!」というものはなかったんです。ただ、漠然と「IT」や「コンサルティング」は面白そうだなあ、と考えていました。僕は「新しいもの」と「問題を解決すること」が好きなので、そう思ったのでしょう。
ERPコンサルタントとしてキャリアをスタートしまして、4年ほど働いた後、MBA取得のために留学しました。ERP導入の上流工程を担当するため、業務プロセスや経営の勉強をする必要がありました。最初は「かったるいな」と思っていたのですが、だんだんとそちらの勉強の方が面白くなってしまいました。
その中で、次第に「自分でもアイデアを出して、それを具現化して、ビジネスとして成功させたい」という欲が出てきました。MBA留学にはそのような思いが背後にあります。
帰国後、あるベンチャー企業で新規事業の立ち上げメンバーを募集していると聞いて、そちらに転じました。ここではサブリーダーとして働きました。本当に「立ち上げのためのメンバー」が集められていたので、コンサルティングファーム出身の面白い人が多かったんですよ。その後、プロジェクト完了と同時に退職し、いまの会社に転職しました。現在は経営コンサルティングがメインです。
■個々人のゴールを踏まえて仕事を割り振る
いまは開発には直接携わりませんが、5人から10人くらいのチームリーダーを務めることが多いですね。もともと自分でもプログラミングをずっとやっていたので、プログラマのチームを編成するときは、その経験が生きています。プログラマが陥りがちな悩みは、経験していない人より分かっているつもりです。
チームとして集まった個々の人々は、みんな最終的なゴールを持っています。ゆくゆくは起業したい人もいるだろうし、技術を極めたい人もいる。そういういろいろな人たちが、プロジェクトメンバーとして集まっている。彼らがこのプロジェクトを通じて何を得ようとしているのか、最終的にどうなろうとしているのかをよく理解しないといけない。
そのうえで、1人1人の目指すゴールに沿ったタスクを割り振ることが重要だと思っています。そうしないと、チームのモチベーションを維持するのは難しい。必ず、個々の人たちが「何を考えているのか」「どうなりたいのか」を理解してから、仕事を割り振っていきます。
個々人の能力に合わせて仕事を割り振るだけでは、まだ足りない。スキル以上に、考えていること、その人の目指すゴールまで見据えたうえでなければ、人は動きません。
■相手にとってプラスになるように
以前、「いまの仕事が嫌なんです」といいながらプロジェクトに入ってきた人がいました。そうならそうといってくれる方がいいですね。仕事の方向性が自分のやりたいことと合っていないのに、ずっと我慢していると、最終的に心が折れてしまう場合もありますから。
彼にそういってもらった時、最初は「僕にそんなこといわれても……」と途方に暮れてしまったんです。でも、そうじゃない。「仕事なんだから、いいからやれ」じゃあ駄目なんですね。
その人のことを理解してあげたうえで、「じゃあ、自分がいま与えようとしている仕事が、その人にとって少しでもプラスになることはないだろうか」と考える。あるいは、プラスになるように加工してあげることが必要なんだと思います。「これ、僕が調べようと思っていたんだけど、プログラミングの知識をためたいんだったら、君がやってみなよ」という具合ですね。
相手を理解してあげると、そういう加工ができるかもしれない。詭弁かもしれないけれど、「この仕事は実は君にとって、これこれこういう理由で役立つんだ」というふうに説明する。そうすると相手は納得します。「そのとおりでした。やってみます」となるわけです。
■メンバーが何かを得られるチーム作り
いま、プロジェクトベースの仕事って、人がアドホックに入ってくる形ですよね。そういう中では、「仕事なんだから、いいからやれ」という軍隊的なものだけではいけないと思います。
あるプロジェクトのために集められた、いろいろな人がいるチーム。それをチームとして機能させるには、旧来の組織的な命令だけでは駄目。「このタスクを、みんなで実のあるものにしよう。個人が参加することで、何か利益を得られるようにしよう」という考え方が今後、重要になってくるのではないでしょうか。
Aさんはこういうゴールを持っているから、この仕事をやってください。Bさんは別のゴールを持っているから、違った角度のこの仕事を――と。全員がモチベーションを保ったままで成果物を出すには、そのような視点がないと厳しいのかな、と思っています。
……とまあ、ここまでの話、僕がリーダーとしてチームをマネジメントする際に気を付けていることなのですが、実は以前の上司の受け売りなんです。いま、隣にその人がいたら、頭を引っぱたかれるんじゃないかなあ。お前がそんなこといえる立場かと。
■インターネット世代から学ぶ
いまの会社では新卒採用をしていないので、まだ20代半ばの人をチームに迎え入れて、一緒に仕事をするという経験はありません。チームは同年代が多いですね。逆にいうと、そういう若い人たちと仕事をするようになったら、彼らを理解するのは大変だろうなあと思っています。
ただ、若い人たちが何を考えているか、なるべくよく見て、学んでいこうと思っています。ブログを書いていると、インターネットの世界にいる若い人たちと出会えるのでいいですね。
『ウィキノミクス』の著者の1人、ドン・タプスコット氏が最新の著書『Grown Up Digital』で、「人間は新しいものを、古いものの枠組みでとらえようとする」という話をしています。馬車で生活してきた人に自動車を見せても、彼は馬車のフレームワークでしか自動車を見ることができない。自動車を自動車そのものとしてとらえて活用していくには、思考回路のつなぎ替えが必要なんです。ところが、自動車ができた後に生まれた人たちは、自動車を自動車としてすんなりととらえることができる。
いまのインターネット技術も同じ。電話やテレビの延長線上でしか考えられない人より、インターネットがすでにある時代に生まれた若い人たちの方が、うまく活用できる。そういう人たちに学んでいかないといけない。そういうことが書かれていて、そのとおりだなあと感じました。
ブログを書いていることもあって、インターネットを通じていろいろな人と交流する機会に恵まれています。YouTubeやTwitterを使いこなす若い人たちと接することが多くて、すごいなあと感じています。一方で、会社に帰ってきてみると、日々の業務の中で出会う人たちはまったく違う世界の住人なわけです。僕はちょうどその中間、接点に立っているイメージです。いま36歳なので、年齢的にもちょうど中間だと思います。インターネットを活用する若い人たちに学ぶことは、続けていきたいですね。
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