第8回 参加者の成長を見守る、Shibuya.pm 2代目リーダー
長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
大星直輝(撮影)
2009/3/23
竹迫良範(たけさこよしのり) Shibuya.pm リーダー 1977年3月2日、広島県出身。サイボウズ・ラボ所属。2002年、広島市立大学 情報科学部 知能ロボット講座卒業。在学中の1998年より、コンピュータメーカー子会社にてECサイトの開発に携わる。2001年にはNamazu Projectに参加。Shibuya Perl Mongers(Shibuya.pm)には2003年のスタートアップセミナーから参加し、2006年に2代目リーダーに就任。 |
■「バソキヤ2006」でShibuya.pmの新リーダー誕生
Shibuya.pmのリーダーになったのは2006年です。宮川さん(シックス・アパート 宮川達彦氏、Shibuya.pm 初代リーダー)が渡米されるということで、「代わりにテクニカルトークを仕切る人」としてお声掛けをいただきました。
「はい、恐縮です」という感じで(引き受けました)。せっかく世界の宮川さんが声を掛けてくださったので、断るわけにもいかず。自分でいいのかなとは思いましたが。
Shibuya.pmには、一番最初から参加しています。宮川さんがスタートアップセミナー(2003年)を立ち上げたとき、わたしは広島にいましたが、東京に来て参加しました。その後もテクニカルトークを中心とするShibuya.pmのイベントには毎回参加していました。ちょうど東京に出張があったり、プライベートで用事があったりする時期と合っていたんです。
Shibuya.pmに集まっている人はすごく面白いし、会っていて楽しい。「これは宮川さんがいなくなっても続けないといけない」というのは感じていました。宮川さんの代わりに、身を削ってでもやりますという気持ちでした。
「バソキヤ2006」という非常にからいわさび味の焼きそばがあるんですけれど、それを食べて、むせて、決意を新たにするというのがリーダー交代の儀式でした。バソキヤのカップを渡すシーンの記念撮影をして、引き継ぎ終わりという形でした。
■人を引っ張るための要素とは
リーダーとは何なんでしょう。辞書的にいうと「引っ張っていくもの」ですね。音楽でいうとリードボーカルとかリードギターとかいう言葉があります。
人を引っ張るための要素はいろいろあります。ソフトウェアのプログラマという立場で考えると、「尊敬を集めている」という要素が必要かもしれないですね。
「このリーダーは面白いコードを書いている、Perlを生かして仕事で活躍している。自分もこういうPerlの技術を身に付けたい、会社の中でこういうふうにPerlを活用したい」と思わせられればいいのかなと。
プログラマの人たちを引っ張るには、技術力はあった方がいい。リードギターでいえば、ギターが弾けないとリードできないですよね。
■「むちゃ振り」で、その人が活躍できる場を増やす
ぼくの場合はいきなりリーダーではなくて、ボトムアップでなりました。ファウンダーではなく一参加者から発表者に、そしてリーダーになった立場なので、参加者が何を求めて参加しているか、ということをよく考えます。
参加者は何かを期待して来てくれるので、その期待に応えるための何かを提供しないといけない。そのために、テクニカルトークのようなイベントをプロデュースするんです。具体的には、テーマを決めて、発表者の人を公募して、発表時間や順序を調整して、アナウンスします。
そのとき、普段は人前で話さないような人に対して、「ぜひ、話してください」と「むちゃ振り」したり。「えっ、ぼくがですか、ぼくには無理です」といわれることもありますが、そこはリーダーの立場としてお願いしてしまいます。
「その人の活躍できる場所をどんどん増やしてあげる」という感じです。声を掛けて断られたことはないですね。こちらも、「この人ならできる」という確信があってしているので。できると思う人にしか声を掛けないともいえるんですけれど。
「どきどきしながら、初めてプレゼンテーションをした」という人もいます。それをきっかけに、みんないい方に変わっていますよ。露出が増えて、所属する会社でも社外でも「あ、こういう面白いことをしているエンジニアがいるんだ」と認知されます。その人の行動自体も変わってきますね。
■参加者の期待に応えるために
(Shibuya.pmのリーダーは)むちゃくちゃ面白いですね。自分がリーダーになればテーマの決定からできるので、参加者だけでなく自分が楽しめるものにできるんです。
趣味に走ってしまうこともあります。前々回のテクニカルトーク「XS Nite」がまさにそうでした。XSという、PerlからC言語によってモジュールを拡張するための仕組みがあるんですけれど、それだけを語るというテクニカルトークでした。これは完全に趣味の世界でしたね。
そうするとXSに関心のある人しか来ません。ネタが狭まるので、非常に満足度は高い。参加することで、ネット上でも体系化されていないような情報が得られるわけです。
とはいえ参加者の期待に応えるには、バランスが必要です。「XS Nite」のように趣味に走ったものもあれば、YAPC(Yet Another Perl Conference)のようなものもあります。YAPCは、平日の昼間に開催する有料のカンファレンスです。業務でPerlを使っている人とか、これからPerlを勉強しようと思っている学生さんとか、ホビープログラマの人とか、幅広い層を対象にしています。年に1回、2日間のイベントを、ここ3年くらい行っています。
あまり内輪ネタに走りすぎると、難しい、誰も理解してくれない、となってしまいます。終わった後で「今回は難しすぎたな」と思うこともあります。でも、「分からないけれどすごい」と感じられる内容は必要です。次回につなげられるからです。分かるとそこで終わってしまいますが、分からないことがあると、「ああ、自分もちょっと新しいところ勉強しないと」と思える。そういう人が出てきてくれるならうれしいですね。
Shibuya.pmはリクルーティングの場でもあります。東京のIT企業でPerlをやっている人というのは、非常にニッチです。そこで、うちの会社に興味ありませんか? という形で転職が決まる、就職が決まる、会社選びの参考になるということはよく聞いています。
id:naoyaさん(伊藤直也氏)も、Shibuya.pmがきっかけで、京都のはてなの近藤さん(近藤淳也氏)と初めて会って意気投合したと聞いています。にぽたんさん(谷口公一氏)がライブドアに転職したのも、Shibuya.pmの影響がかなりあったと思うんですね。
■「Shibuya.pm」というトレンドを守る
Shibuya.pm自体がトレンドでありブランドなので、リーダーとして、「イメージが変にならないように」ということには気を付けています。保守的な考えかもしれませんが。
Perlは、マーケティングにあまり左右されない言語です。例えばJavaだと、いろいろなテクノロジのキーワードがサン(サン・マイクロシステムズ)から出てきて、追いかけてということをやりますけれど、Perlは完全にそういうものから切り離されています。
すると、「自分たちでブランドをつくるんだ」という心構えができますよね。単に技術を追いかけるだけではなく、「自分たちで何かを作って、引っ張っていくんだ」という志を持っている人が多いですね。自分たちで技術のトレンドをつくる。Perlという言語を基に、技術者が互いに幸せになれるように。
コミュニティの中で活躍している人が、それぞれキャラ立ちしているんです。ロールモデルを提示できていると思っています。
■「不況」をきっかけに、新しいことをしたい
これからも、もっと面白いことをやっていきたいと思います。いまは「不況」がキーワードになっていて、3月は特に厳しいところですけれど、それをきっかけに新しいこともできるのかなと。社会構造が変わるときに、いいタイミングで何か面白いものをリリースできれば、社会そのものに変化を起こせるかもしれないと考えています。
リーダーを務めていて、つらいことはまったくないですね。好きでやっていることですし、参加してくださる皆さんの成長を全部体験できるので。
発表をきっかけに、自分好みのニッチな技術について語れる人と出会い、急成長した人もいます。
Webの会社は、できたばかりというところが非常に多いので、エンジニアが成長すれば、会社も一緒に成長できます。
会社の成長、事業の成長と、技術者としての成長が重なり合えば、みんな幸せですよね。
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