第11回 サイボウズの開発部長は、部内で5番目にエラい
長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
大星直輝(撮影)
2009/4/13
佐藤学(さとうまなぶ) サイボウズ 開発本部 開発部長 1970年7月22日、山形県出身。1994年、都銀関連のノンバンクに入社し、法人営業を経て情報システム部に。システム担当としてサイボウズ製品を使用するうち、サイボウズの社風に引かれるようになり、2006年、プロダクトマネージャとしてサイボウズに入社。 |
■プロダクトマネージャのはずが開発部長に
前職のノンバンクでは、先輩についてホスト系の開発を一から教わりました。COBOLですね。2000年問題も経験しました。
サイボウズにはプロダクトマネージャとして入社しましたが、そのころSFAツールであるサイボウズ ドットセールスのプロジェクトがうまくいっていなくて、立て直すために開発部に出向しました。プロダクトマネージャと開発責任者を兼務したのです。
その後の2007年2月、プロダクト本部と開発本部が合併しまして、そのまま部長になってしまいました。プロダクトマネージャに戻れなくなってしまったんです。
■開発部長なのに、自分より偉い人が部内に4人
前職では、リーダーとは後輩に仕事のやり方を全部教える人のことでした。当然、職位もスキルも上位の人がリーダーになります。
サイボウズはまったく違います。わたしが開発部の部長になったとき、職位としては上から5番目でした。わたしより偉い人が、部内に4人いるわけです。でも開発部長。
サイボウズでは、マネジメントをするキャリアパスか、技術を極めるキャリアパスかを選べるようになっています。残りの4人はマネジメントをしない人たち。エンジニアで食べていく人、ずーっとエンジニアを極めたい人たちです。会社的には彼らの方が偉いんですけど、わたしが部長なんですよね。
開発部にはいくつかチームがあり、チームごとにチームリーダーがいます。チームリーダーをまとめるのが部長の役割ですが、そのチームリーダーが部長より偉い場合があるわけです。ややこしいです。
中にはポスドク(ポストドクター)もいます。そういう人たちを技術的に引っ張っていくっていうのは、そもそも不可能なんですね。ですのでわたしのいまの仕事は、彼らの議論が、個別最適ではなく全体最適を考えたものになるように導くこと。1つの製品に特化しないように、全体を見て考えられるようにすること。人が足りないとか、環境が整っていないとか、何かに行き詰まっているとき、問題を解決することです。そのためならベトナムに会社も作りますし、上海に開発チームも作ります。
■悶々とした初心者リーダー時代
いきなり30人のリーダーになったときは、自分が一番偉いわけでもないし、何をするのが部長なのか、どうしたらいいのかが本当に分かりませんでした。
メンバーはみんな優れたエンジニアばかりなので、彼らに勝てることって何もないんですよ。わたしの持っている技術といえばホストの古い技術だけで、Webの知識もありませんし。
悶々としてて、で、あるとき思ったんですね。「自分についてこい」みたいのじゃなくて、みんながいい方向に向かうように、サポートしていけばいいんだと。
■「オレについて来い」は無理
製品を開発する際、まったく違う言語、まったく違うアーキテクチャを採用してしまうと、リリースした後にメンテナンスが大変になってしまいます。それを避けるためには、できれば途中まで一緒に作るとか、フレームワークを一緒に作るとか、ほかの開発チームとの連携が必要になってきます。そのために犠牲にしなくてはならないものもあります。
もちろん反発はありますよ。みんな自分の製品に全力投球してますので。その辺は話し合いで分かってもらうしかないかな。
すべての開発中の製品がリリースできるわけではありません。途中でプロジェクトが停止することも当然あります。個別最適を求め過ぎて費用がかさみ、停止になることもあります。
押し付けはしませんね。「製品を早く、確実に世に出すためには、この方がいいんじゃないの」っていう議論を持ちかけるわけです。そして自分たちで答えを出してもらう。
「オレについて来い」では無理なんです。本当にすご腕のエンジニアがそろっていますので、押し付けではかなわないんですね。
彼らは納得しないと、開発スピードが格段に落ちてしまいます。それを防ぐには自分たちで答えを出してもらうしかない。
いやいや作るのと、納得して作るのでは、開発スピードがまったく違うんです。チームの雰囲気も全然違います。
■「所感」「雑談」+飲みでコミュニケーション
部内のコミュニケーションには掲示板の日報を利用しています。つまらないことでもいいから書いてもらう、「所感」という欄があるんです。そこに不満が書かれていたら、話を聞いてみます。
共有スケジュールには「雑談」という項目があります。社長にも部長にもみんなにあって、メンバーは自由に予定を入れて、そこで思いのたけを何でも伝えていいんです。わたしは今日、社長とランチミーティングでした。
コミュニケーションは本当に大事だと思っています。わたしが若いときにいた金融の世界は、「開発はやるしかない」というような、軍隊みたいなものでしたけど、いまは違いますよね。嫌だったら辞めてしまいますし、もしかしたらうつになってしまうかもしれない。そういうことを防ぐために、「雑談」を使ってコミュニケーションを取ることを心掛けています。
わたしがメンバーと雑談する頻度は、週に1度くらいでしょうか。「2カ月に一度は雑談しようよ」といっています。
自分から雑談を入れる場合もあります。日報を見て、「危ないなー」と思ったときですね。サインがあるんですよね。「最近モチベーションが上がりません」とか「どうもやる気が……」とか。雑談して、飲みに行くこともあります。
そういう場合は、なるべく聞き手に回ることが大事だと思っています。自分の考えを押し付けないで、聞いてあげて、心にあるものを吐き出してもらって。
■楽しくていいものを作ってもらいたい
リーダーになったいまと昔とでは、考え方、視点が全然違っていますね。
以前はどちらかというと「個人で最高のプレイヤーを目指す」ということを考えていたと思うんですけど、いまはチームワークをどうやって高めて組織力を上げていくかということを考えています。
視点がやっぱり「高く」なりますよね、視点を「上げる」必要がある。考えを上に上にもっていく、それが個別から全体最適にということなんでしょうね。
会社から開発予算をもらうときの折衝、そこからいくつ新製品を作れるかということも考えなくてはいけません。できればそういうわずらわしさは、チームリーダーには味わわせたくないです。お金のことでチームリーダーが悩むことのないようにしたい。
メンバーが納得して作れば、さっきもいったようにスピードが違いますし、質も違いますよね。機能についてもよーく考えて作ってきますし、使って楽しい製品が出来てきます。
サイボウズは楽しくないと。つまらないものを出してもしょうがないですから。みんなに使ってもらいたいから、カローラであり続けないといけないんです。変わっちゃいけないんです。レクサス作ってもしょうがないんです。
メンバーの納得感を上げて、楽しい、いいものを作ってもらう。そのための、リーダーなんです。
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