第19回 個性派エンジニア集団の信頼を得た「話の分かる男」
唐沢正和
岩井玲文(撮影)
2009/6/15
河野智彦 (こうの ともひこ) ライブドア ネットサービス事業部 ネットサービスビジネスユニット 検索ビジネスユニット マネージャー 1974年生まれ、神奈川県出身 東京大学大学院卒業。1999年新卒で富士フイルムに入社。ハードウェア開発チームに配属されるが、ソフトウェアへの思いが断ち切れず、1年半で退社。2000年6月モバイルサイト構築のSI企業であるフラクタリスト創業に参画。フラクタリスト上場後、ネットメディア企業への憧れから2008年1月、ライブドアに転職。新規事業、「Blogger Alliance」(ブロガーアライアンス)のマネージメントに携わり、現在に至る。 |
■転職早々全社横断プロジェクトでリーダー、という大役!
ライブドアでは4月に新規事業として、複数のブログ事業者とマスメディアとの連携を実現するブログシステムネットワーク「Blogger Alliance」(ブロガーアライアンス)をスタートしました。この事業は、共通ブログシステムプラットフォーム「livedoor Blog ASP」と異業種クロスメディア提携事業「BR Media Partner」を融合したもので、現在わたしはlivedoor Blog ASPのプロジェクトリーダーを担当しています。
Blogger Allianceは、ライブドアが初めて、メディア事業部、ネットサービス事業部、ネットワーク事業部の3事業部を横断して展開するプロジェクトです。ライブドアに転職する前の開発会社でプロジェクトマネージャは経験していましたが、これほど大規模なプロジェクトのリーダーを務めるのは初めてのことでした。
しかも、わたしが担当するlivedoor Blog ASPは、いままで一般のユーザーに提供してきたブログサービスを、新たに事業者向けにASPで提供するという重要なプロジェクトです。2008年1月にライブドアに転職して、このプロジェクトが本格始動したのが同年の秋ですから、転職後1年もたたないうちに責任重大なポストを任されたことになります。いきなりの大役にプレッシャーはありましたが、主力事業であるブログサービスの新規プロジェクトに携われることは、とてもうれしく、非常にやりがいを感じました。
■新規プロジェクトでは、粒ぞろいなエンジニアを前に四苦八苦
一番大変だったのは、プロジェクトが始まったころです。livedoor Blog ASPの開発プロジェクト全体をスムーズに進め、スケジュールどおりにサービスインすることがわたしの役割の1つでしたが、そもそもブログ事業への参画すら初めてだったため、既存のブログシステムをはじめとして、分からないことだらけの状態でした。一方で実際に開発に携わるのは、いままでずっとブログ事業を手掛けてきたディレクターやエンジニアたちです。スタッフ同士お互いをよく知っている中に、わたしがリーダーとしてポンと入って、ASPというまったく新しいサービスを立ち上げるわけですから、何も知らない自分に何ができるのか、また一体何をすればいいのかを模索するところからのスタートでした。
最初はエンジニアにどう接していくかで苦労しました。ライブドアのエンジニアは優れた技術力を持っている分、意思や個性も強いんです。システムについていろいろ聞きたくても、これはエンジニアにとって非生産的な話です。ですので、極力無駄な時間を取らせないように心掛けました。とはいえ、あまり気を遣い過ぎても前に進みません。時には、嫌だなと思われても、あえて飛び込んでいく勇気が必要ですね。
このように最初は手探り状態でしたが、各ディレクターやエンジニアとしっかり会話をしてコミュニケーションを取りました。ここで生きてきたのが、わたし自身のエンジニアとしての経験です。
■自らのエンジニア経験に助けられる
わたしは学生時代からエンジニアを目指していました。大学ではソフトウェアを使って設計を支援するという研究をし、プログラミングもしていました。また、前職ではモバイルサイト開発のベンチャーで働いていましたが、創業からしばらくは、モバイルサイトの受託開発を担当していましたので、そこでエンジニアの楽しみや苦しみを十分に経験しました。
いまは自身で開発をすることはありませんが、今回のように新しいシステムを前にして、短期間に何とかキャッチアップできたり、エンジニアとすぐにコミュニケーションが取れたりしたのは、過去の経験が助けになっていたからだと思います。例えば、エンジニアに極力手間を取らせないため、自身でデータベースのスキーマを見て、どうしても分からない部分だけをピンポイントでエンジニアに聞くなどしました。また、プロジェクトを進めるうえでちょっとした問題やリスクに気付いて、未然にケアしていくこともできたので、エンジニア経験は役に立ったと思います。
■“リーダー”らしくないところがむしろ良かった
実をいえば、わたしはリーダーという役割には向いていないのではないかと思っていたんです。それは、“先頭に立ってみんなをぐいぐい引っぱっていく”のがリーダーの役割というイメージが強くて、そんなタイプではないことは自分が一番よく分かっていましたから。ただ、実際にリーダーという立場になって、引っぱっていくことだけがリーダーの役割ではないと思うようになりました。これが分かってから、気持ちがずいぶん楽になりましたね。
先ほどライブドアのエンジニアは意思や個性が強いといいました。彼らは納得しない限り動き出しません。逆に意義を感じれば、自律的に素早くクオリティーの高いものを作り出します。ですので、なぜそれが必要か、なぜそれを開発したいかをきちんと話して納得してもらうことが大切だと思います。
■全体進行と情報共有には気を遣った
リーダーの役割として、わたしが気を遣ったのは全体進行と情報共有です。今回のプロジェクトでは営業・広報・法務・開発・サポートと関係者が多岐に渡りますので、全体としての進行が滞らないよう気を付けました。情報共有では、口頭、電話、メール、メーリングリスト、社内掲示板、インスタントメッセンジャー、チャットシステムというあらゆるコミュニケーション手段を駆使し、緊急性・重要性・ロケーション・同期/非同期・情報のライフタイム・性質(ニュアンス含め誤解なく伝えられるか)といった状況から、最適な手段をうまく活用しました。「リーダーを中心にみんなが最終的なゴールを共有して、それに向けて一緒になって取り組んでいく」。それがわたしの描いたリーダーシップの形です。
プロジェクトが始動してから約6カ月後、livedoor Blog ASPは、当初のスケジュールどおり、無事にサービスインすることができました。これは、開発に携わったエンジニアはもちろん関連部門も含め、プロジェクト全体で1つの目的に向かって力を合わせた結果だと思っています。
これからリーダーを目指そうとしているエンジニアの方は、“リーダーシップ”という既存のイメージにとらわれ過ぎないでください。また、引っ張るのが苦手なタイプの方でも、リーダーになることに躊躇(ちゅうちょ)したり、諦めたりしないでほしいですね。リーダーのタイプは人それぞれで、引っぱっていくタイプもいれば、まとめ役になるタイプもいます。最終目標が達成されれば、プロジェクトの進め方自体はさまざまであり、その手段は決して1つではありません。自分の強み、弱みを知ったうえで、自分なりのリーダー像をつくり上げてください。誰でもリーダーになれると思いますから。
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