第30回 ウノウラボを作った男の「揺るぎないゆるさ」
金武明日香(@IT自分戦略研究所)
岩井玲文(撮影)
2009/8/31
山田進太郎(やまだしんたろう) ウノウ 代表 早稲田大学在学中に、早稲田リンクスの代表、楽天株式会社にて楽天フリマオークションの立上げなどを経験。2000年3月卒業後、NPO Zaiya.comを立上げ後、フリーのウェブ・ディレクター、プログラマに。2001年8月有限会社ウノウとして法人化。2002年6月より雑誌定期購読エージェンシー「富士山マガジンサービス」に参画し、ウェブサイト設計全般を担当。2003年6月大手卸会社と提携し、DVD販売サイト「DVD生活」を開始し新作映画情報サイト「映画生活」を事業化。2004年2月よりシリコンバレーに拠点を移し、インターネットビジネスのリサーチなどをする。日本から世界的サービスを作るため、2005年2月に帰国し、ウノウ株式会社に組織変更。写真・動画共有サービス「フォト蔵」などの立ち上げでディレクションを行う。主に新規ネットサービスの立ち上げを担当。 |
株式会社としてのウノウを立ち上げたのは2005年です。皆に使ってもらえるインターネットサービスを作りたくて設立しました。それまでは、NPOの立ち上げ、フリーウェブディレクター、渡米などを経験しました。2000年に大学を卒業して以来、会社の従業員として働いたことはほとんどありません。
ウノウはまだ社員14人の小さな会社で、そのうち12人がエンジニアです。昔は自分でもプログラムを書きましたが、いまはあまり書いていません。うちのエンジニアは非常に優秀なので、ものづくりは彼らに任せて、わたしはリソース配分と企画に関わる仕事をするようにしています。
■みんなの「ハブ」になる
大学4年生のころ、インターンとして楽天で働いたことが、わたしの社会人としての原体験になっています。就職活動をして楽天から内定をもらったので、卒業までインターンで働くことになりました。当時の楽天は20人ほどしか社員がいなくて、いまCTOになっている安武さんを中心に3人で「楽天オークション」の立ち上げに関わりました。夏休みの間は、社員並みに働きましたよ。おかげで、このプロジェクトでは、本当にいろいろと勉強させてもらいました。立ち上げから関わったので、プロジェクトの全体像を眺めることができたし、「これが仕事か!」という実感を得るいい経験にもなりました。
でも結局、楽天には就職しませんでした。働いているうちに、自分でインターネットビジネスをやってみたくなったんです。大学卒業直前の2000年2月に、 内定を辞退しました。大学を卒業してすぐに大学の教授と「Zaiya.com」というNPO法人の立ち上げに関わりながら、2000年秋からはフリーのウェブ・ディレクターとして仕事をするようになりました。
フリー時代、わたしの役割は「ハブ」のようなものでした。インターネットサービスを導入したい人のところへ話を聞きにいって、コンサルティングをしながら、各プロジェクトに合う外部エンジニアやデザイナーをアサインしていました。「山田」という人間を通じて、いろいろな人がいろいろな仕事をする、という環境を作りたかったんですね。
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仕事のスタイルについては、特に「これだ!」というものがあるわけではありません。とりあえず片っ端からいろいろなやり方を試しました。「富士山マガジン サービス」の立ち上げ時は、社員のように仕事をしましたし、自分で企画を立ててエンジニアやデザイナーをアサインすることもありました。「仕事をしない」という選択肢もありましたよ。「この案件は、自分よりもあの人の方がうまくできるかもしれない」と思えば、友人の会社に仕事をまるごと紹介してしまうこともありま した。
マージンを取ることとかは、あまり考えませんでしたね。もっと長期的な目線でいこうと考えていました。「わたしに関わる人が、いい仕事ができればいいかな」と。もともと、皆でワイワイやるのが好きなんですよ。仕事を通じて、いろいろな人とつながっていくことが楽しかったですし。そんな感じで仕事をしていると、自分が仕事を紹介した友人から、後で仕事を紹介されるようにもなりました。カヤックやチームラボとはこの頃から付き合いがありますが、フリー時代に仲の良かった人とはいまでもよく話をするんですよ。
■「アメリカで日本料理店を開いてみようかなと思った」
やりたいと思うことは、とりあえず全部やってみました。楽天の内定を辞退してから、まずやりたかったのが映画に関するレビューサイトの制作でした。ところが、わたしは当時プログラミングがほとんどできませんでした。でも、それではサービスが作れないし、エンジニアの人と対等に渡り合うことができない。そのため、大学を卒業してから半年ぐらいかけて、知人のエンジニアに教えてもらいながら、独学でプログラミングを覚えました。そうして作ったサービスの1つが「映画生活」というWebサイトです。
もう1つ、やりたかったことがあります。「アメリカに行きたい」と、ずっと前から思っていたんですね。インターネットサービスは、やっぱりアメリカが強いですから。機会を見て渡米をするつもりでしたが、チャンスはすぐにやってきました。アメリカ政府が運営している「ダイバーシティビザプログラム」という移住プログラムに応募したところ、たまたま当選することができたんですね。向こうに移住するつもりで、2004年に渡米しました。
アメリカでも、自由にいろいろなことをやりました。学校に通ったり、カンファレンスに行ったり、向こうのコミュニティに参加してみたり。実は日本料理店を作ろうとしたこともあったんですよ。「自分の店を持ちたい」という夢も持っていたので、どうせならアメリカでやってみようかな、と。ちょうどアメリカで、昔に日本料理店をやっていた人と意気投合したので、一緒に店を出すためにあちこち物件を探し歩きました。
でも、店を出そうといろいろ動いているうちに考えたんです。「結局、自分はアメリカで何がしたかったんだろう」と。そもそも、アメリカに行きたいという思い自体が、ひどく漠然としたものでした。自分にとって大事なことは何か。突き詰めていったところ、一番やりたいのはやっぱり「インターネットサービスを作って、世界中の人に使ってもらうこと」だったんです。
アメリカで道を探ることもできなくはないけれど、自分でやりたいことをやるまでには数年かかりそうでした。それだったら、「日本に帰ってインターネットビジネスをやろう」と思ったのです。そんなときに副社長の石川から声をかけられ、サンフランシスコで元CTOの尾藤と出会い、一緒にやろうという話になりまし た。そこで2005年に帰国して、ウノウを立ち上げたのです。
結局日本料理店は開きませんでしたが、探すためにいろいろやったことを遠回りだとは思っていません。やりたいと思ったことを全部やってみたからこそ、自分のやりたいこと、大事にしたいことが分かったのですから。
■しばられるのが嫌いな「ゆるい」リーダー
わたしのように、しばられたくない性分の人間がリーダーをやっているので、ウノウは非常に「ゆるい」です。例えばオフィス。フリーアドレス制で、社員に固定の机はありません。あるのは「昨日とは違う席に座る」というルールだけ。社員が本を出したり、雑誌に寄稿したりするのも自由です。「業務時間外」という条件付きですが。
社員の自主性を重んじているので、社員に対して、細かいところまでは口を出しません。基本的に、チームの作業はチームリーダーに一任しています。そうすると、エンジニア同士が自分たちのことを考えるようになるんです。「自分はJavaScriptが得意だ」「わたしはネットワーク系」というように、各エンジニアが得意分野ごとに棲み分けるようになるんです。「全体を最適化」するためには、自由な風土で自浄作用に任せておくのがいいのではないでしょうか。
風通しを良くしたいということも、考えていますね。社員にはいつも「いいたいことがある人はいってね」と伝えています。反対意見、要望、なんでも良い。いってくれないと分からないと思うので、四半期の面談の際などはかなりしつこく聞くようにしています。一緒にランチにもよく行きます。いつもエンジニアと話すことを心がけていますね。
■皆が自由に集まる「場」を作る
わたしがやりたいのは「皆に使ってもらえるサービスを作ること」。たとえ作っても、使ってもらえないのなら意味はないのです。
ウノウラボでは、通常では社内ノウハウになるものでも公開してしまうことがあります。ノウハウを社外に出しても別に構わない。もともとオープンソースソフトウェアを使わせてもらって仕事をしているので、コミュニティに還元できることはしたいと思っています。ウノウラボ、エンジニアにとって最初は本当につらかったと思います。人数も少なかったので、毎週のように投稿する順番が回ってきて、極限までアウトプットを出し続けた感じでしょうか。初めはあまり反応がなかったけれど、こういう試みは誰もやっていなかったので、徐々に注目されるようになりました。いまではいろいろな人に見てもらえるようになったし、優秀なエンジニアのリクルーティングにも貢献しています。
こうして振り返ってみると、軸は基本的に変わっていないですね。わたしのリーダーとしての役割は、皆が集まって仕事ができる「場」を作ること。そうしてできる自由な風土の中で「世界に通じるサービス」を作りたいと思っています。
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