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今週のリーダー

第31回 インターバースの夜明けを信じ、突き進む


荒井亜子(@IT自分戦略研究所)
大星直輝(撮影)
2009/9/7

鎌田卓 (かまた たく) 3Di株式会社 取締役/CTO 東京理科大学卒業。バンダイ、セガなどのゲームソフト企画開発に従事。1995年、映画的手法をゲームという世界にとり入れたことで有名な作品「Dの食卓」を生んだWARP代表・飯野賢治とともにネットワークエンターテイメント事業に取り組む。1999年、米Deneb Robotics社(現在、仏Dassault Systemes社)にて、自動車会社の各部門の担当者が3DCGによるシミュレータ内で共同検討作業を行うプロジェクトに従事。2000年、ビットバレー提唱者・小池聡(現在ngi group CEO)が率いるNetyear Groupの技術部門総責任者として参画、ユニクロ・ドットコムの立ち上げを行う。2001年、技術戦略コンサルティング会社ADN GROUPを設立。同時に、マッキンゼー・アンド・カンパニーのアフィリエイト・コンサルタントとしても活動。現在、ngi groupの3Di社Vice President/CTOとしてインターバース構想を提唱、さまざまな取り組みを推進している。

 メタバース(仮想空間)同士が連結した新たな世界、インターバースの可能性を信じ続ける男がいる。3Di 取締役/CTOの鎌田卓氏だ。

■先端企業におけるリーダーは戦略家でなければならない

――3Diは今年、仮想空間のサーバソフトウェア「OpenSim」の商用版「3Di OpenSim」、そしてWebブラウザ(Internet Explorer、Firefox)上で3D空間を表示・操作できる「3Di OpenViewer」を発表しました。3Dインターバース構想の実現に向け、3Dインターネットにおいて着々と成果を出していますね。

 一番大きなポイントはWebと融合したことです。従来は、独自のソフトウェア/クライアントでしか仮想空間をのぞけなかったのが、WebページにOpenViewerを埋め込み、IEやFfで閲覧できるようになりました。するとWebページを開くだけで仮想空間に入れます。訪れた人は即、Webページの持ち主と対話や商談が可能です。ネット広告に比べ、高いCVRが期待できます。

――インターバース構想はセカンドライフが1つのきっかけになっているとのことですが、セカンドライフは一時期の勢いをなくしました。その点についてどう思いますか。また、これまでのメタバースとの違いはどこにあるのでしょうか。

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 3Dでコミュニティを作る似たような技術は、セカンドライフ以前からオンラインゲームなどでありました。ただ、あくまでも1つのサービスでしかなく、ゲームをやらない人たちが馴染むものではありませんでした。

 それがビジネスとしての可能性を見せ、一般の人にも認知されたのはセカンドライフが最初です。しかし、インターバース構想の中でセカンドライフは1つのメタバースでしかありません。当時のわたしはセカンドライフに感銘を受けつつも疑問を感じていました。「着眼点は悪くはないが、これでは広がらない」と。セカンドライフに参入した企業が軒並み失敗したのは、セカンドライフというメタバースしか見ていなかったからなんです。

 パソコン通信がインターネットになったように、メタバースがもっとオープンにならないと、本当の生活のインフラにはなり得ません。1つの企業、つまりLinden Labが儲けるだけでなく、仮想空間で多くの人が儲かる仕組みが必要です。

 3Di OpenSimのセカンドライフとの最大の違いは、第三者が運営する仮想空間サービスの中に自分の仮想空間を作るものではなく、ユーザーが自身が任意のサーバ上に仮想空間を構築できる点です。自身が仮想空間サーバーそのものを所有できます。 

――3Dインターネットは世の中にどう使われ、どう役立つのでしょうか。

 OpenSimは、大学の遠隔教育や企業のセミナーなどで利用され始めており、3Dインターネットの用途はさまざまであるといえます。

 例えば仮想空間では、手や目の不自由な方が、(体に神経伝達装置を付けてアバターを操作すれば、)身体障害に関係なく、人とコミュニケーションを取ることができます。

 さらに、セカンドライフでもありましたが、3Dインターネットは精神医療への使い道が考えられます。政治家など人目をはばかる人が病院でカウンセリングを受けやすくなるといったことです。

 3Dインターネットを使った実験・研究は現在、東京情報大学や慶應義塾大学、IBMなどの企業で進められています。

――3Dインターネットは大学や一部の企業から広がりつつあるとのことですが、3D OpenSimを含めたOpenSimの活用はどれくらい進んでいますか。

 商用サイトではなくとも、コミュニティ版のOpenSimを使ったサイトは大学を中心にいろいろ立ち上がっており、現在世界中で約3000のサイトがあります。日本では東京情報大学が仮想空間を持ち、他大学関係者にも実験への参加を呼び掛けています。パートナー企業は現在20社ほどいます。

――3Diは先端企業と呼ばれています。ここでのリーダーの役割は、受託開発をしているシステムインテグレータやWebサービスを作るWeb系企業のリーダーとは違うと思いますが、先端企業におけるリーダーとしての役割とは何でしょうか。

 確かに違いはあります。当然、お客さまが満足する製品を作ることは意識しなければいけないのですが、一方で先端企業の場合、長期的な視点を持つことが非常に大切です。

 それは、われわれのやっていることが新し過ぎるからです。まだ市場にないものをどうやって広めていくか、技術開発責任者とはいえ、戦略を考えなければなりません。

 われわれの構想をより世間に浸透しやすくするために、世の中の動向を観察しながら、どのタイミングでどういう技術を打ち出すのかを段階を踏んで考えます。

 コミュニティ活動も、戦略的に見て1つの市場開拓の場です。OpenSimコミュニティのほか、次世代の3Dを使ったコミュニティの研究開発を行うメタバース協会の理事をしていますが、これらは単純に製品を売る営業活動とは異なります。

――鎌田さんはマーケティング活動と研究開発ではどちらの割合が多いですか。

 割合は半々です。また、目先の仕事と将来を見据えた仕事も半々です。

――ずばり、3Diが掲げるインターバース構想が実現するのはいつでしょう。

 10年後です。ですから、長期的な戦略は10年後まで、2〜3年スパンで考えています。インターネットが出始めてから普及するまでにも10年かかっていますから、それくらいはかかると見ています。

――現時点での戦略の達成度は10段階中何段階目ですか?

 いまは2段階目くらいです。インターバース構想をWebやインターネットでビジネスをしている人が理解でき、使えるソリューションに落として訴求している段階です。

 3Diができて2年たち、ようやく会社が軌道に乗り始めました。3Dインターネット技術を世の中に出したことで、商用版のOpenSimを使い商用サイトをやってみようというパートナー企業が少しずつ出てきています。

■商用OpenSim開発の苦労。半年間、5分に1回出るバグを全部チェック

――3Diのほかに、3Dインターネット事業をしている企業はあるのでしょうか。

 OpenSimのようなサーバ製品を商用で提供しているのは世界で3Diだけです。そのほかは大学など研究レベルです。フリーのOpenSimを商用化しようとしても、そう簡単にわれわれのレベルには来れないという自負はあります。なかなかおいそれとできるものではないですよ。われわれも相当苦労しましたから。

 フリーのコミュニティ版と異なり、商用版では品質を保証しなければなりません。商用版を出すために、何千人もの人が作ったプログラムを一から見直し、約6カ月間、100人のエンジニアを投入し、テストを繰り返しました。5分に1回くらいバグの報告があり、1つずつ1時間単位で直していく作業です。直しても駄目なプログラムは、制限事項として見送るといったより分けも行います。

 最終的な責任は自分にあるので、5分に1回上がってくるバグは全部見ていました。

■周りからの横槍には動じない。「とにかく突き進む。精神力で」

――すべての技術に責任を持つこと以外に、リーダーとして大事なことは何でしょうか。

 リーダーにとって一番大切なことは、「ぶれないこと」、精神力です。マネジメント手法はその次です。

 新しいことばかりをやっていると、周りからは理解されづらい。また、われわれのビジネスは、先行投資をして製品を作り、パートナー企業に使ってもらい、彼らのビジネスが成功し、初めて自分たちのビジネスになる。すぐにはお金にならない状況にどれだけ耐えられるのかは、忍耐力の勝負でもあります。

 いまは夢物語のようなことでも、ビジョンを持ち、戦略を立て、着実に戦術に落としていく。周りから「そんなことはできやしないよ」「いますぐお金にならないね」といわれても、「そうだね」といってあきらめてしまったら何もできないですよね。やり続ける精神力こそ重要です。

 周囲から横槍はたくさん入りますが、いちいちそれに動じていると、われわれを信じて製品を使ってくれているパートナー企業の方々や、夢を持ってこの会社に入ってきた社員が不安になります。

 「とにかく突き進む。精神力で」

 いろいろなことがあってもめげずに頑張る、というのが自分がリーダーとして一番実行できていることだと思います。

――メンバーのマネジメントで心掛けていることはありますか。

 メンバーとはビジョンは共有しますが、彼らに対し細かい指図はしません。新しいものを作り出す仕事というのは、上司が「やれ」といったからといってやるものではない。そういう意味ではほとんど管理らしいことはしていません。トラブルが起きたときのサポートはしますが、組織のケア程度です。

 1人1人のメンバーが3Diの未来を形作るタイルを敷き詰めてる状態です。みんなで新しい時代を1つ1つ作っているという誇りを持って取り組めることが大事です。

(広報談)鎌田氏は、仕事の合間にメンバーと話すことが多く、そのときに自らのビジョンを熱く語るらしい。鎌田氏の熱がメンバーに伝播し、メンバーは少なからず鎌田氏のビジョンに影響されているという。

――鎌田さんは採用にもかかわっているそうですね。

 最終選考の辺りでわたしも面接をします。3DiのITエンジニアは、中国、インド、米国、カナダ、ハンガリー、ベトナムと多国籍です。採用では、その人の人間性と気持ちの強さを重視します。極端な話、ITエンジニア経験がない人でも採用したことがあります。その人はクレーン車の資格の持ち主でしたね。いま現場で活躍しています。

――メンバーの気持ちが揺らぐこともあるのでしょうか。

 もちろん、仕事をしていれば弱気になることはあるでしょう。「仕事がうまくいかないから辞めたい」といわれたこともあります。そんなときは、その日1日の仕事を据え置き、可能な限りの時間を費やして聞きます。「何でだ?!、何で辞めるんだ?!」と。

――熱いですね!

 ええ。ほかにやりたいことがあるなど、本人にとって辞めることがいい選択肢なら見送りますが、マイナスの理由で辞めたいといわれたら、「やっぱり続けます」というまで説得し続けますよ。あきらめません。

 だって、その人が(仕事を)できていなくても頑張っているのは見ているから。もちろん、本人ができていないことに気付いていなければ、改善点は指摘します。部下ができないのは上司の責任でもあるのですから。そう簡単には辞めさせません。

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