第34回 「不採算プロジェクトは俺が防ぐ」――インデックス技術開発責任者の決意
荒井亜子(@IT自分戦略研究所)
岩井玲文(撮影)
2009/10/5
齋藤磨悟(さいとう まさと) 株式会社インデックス メディア・ソリューション局 兼 アミューズメント局 兼 コーポレートビジネス局 兼 コンテンツプロダクト局 副局長(技術/開発部門) 1971年生まれ。1994年、大学卒業後にインターネットが本格的に始まり、「出会い掲示板ホームページ」を開設、プログラミングを覚える。1995年、小規模ソフトハウスに就職。その後フリーのエンジニアとなり金融システム(メリルリンチ)、介護保険システム(NTTデータ)などのプロジェクトを経験。2000年から株式会社サイバードに勤務。技術部シニアマネージャとなり、i-modeに代表されるような携帯公式サイトやモバイルソリューション案件を数多く経験。2006年、株式会社インデックスへ転職。現在、全事業局(兼務)副局長 技術開発責任者。 |
■リーダーの神髄、それは経験に裏付けられた自信と判断力
自分でいうのも何ですが、昔から「運がいいな」と思います。当たりクジを引くことが多い。この引きの強さは、判断力から来ていると考えています。「オレって何ていい判断をしたんだろう」と思うことが多々ありますね(笑)。自信過剰だと思われるかもしれませんが、そのくらいでなければリーダーなんてできません。あなたは、自信のないリーダーについていきたいと思いますか?
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リーダーに一番重要なのは判断力です。リーダーとは、いわば船頭です。船頭が判断を間違えればみんなが死ぬ。どんなに優秀でパワフルな漕ぎ手がいても、船頭が天気を読み間違えたり、指示を誤れば船は沈没するでしょう。経験に基づき、適切な判断を下す。これがリーダーにとって最も重要かつ責任を伴う仕事です。
多くの場合、判断は経験に基づきます。ITエンジニアとして現場で働いて、いろんな仕事をよく経験したうえでないと、適切な判断は下せません。わたしはこれまで、(PC用)Webサイト構築、顧客の情報システム開発、携帯公式サイトなど、さまざまなシステム開発に携わってきました。業態としては下請けのソフトハウスで小規模システムを開発していたこともありますし、介護保険システムなど大規模なシステム開発に携わっていたこともあります。フリーのエンジニアとして企業に派遣されたこともあります。こうした多岐にわたるITエンジニア経験は、「現場を知っている」「さまざまな業務知識がある」「技術が分かる・使える」という観点から、いまの仕事にも非常に役に立っています。
■不採算プロジェクトの見直しという使命
現在は、全事業局を兼任する技術開発責任者をしています。全事業局の開発プロジェクトのQCD(品質、コスト、納期)に対して責任を持つという立場です。メンバーは60人ほどです。
インデックスでは、いくつかの事業を行っています。携帯公式サイトなどの「自社コンテンツ」事業、ゲームやパチンコなどの「アミューズメント系コンテンツ」事業、「テレビ局向けのサイト運営」事業、「企業向けモバイルソリューション」事業、「広告プラットフォームビジネス」事業です。開発部門はそれぞれの事業局に1つずつ存在します。すなわち、事業局にある営業部、企画部、開発部が“同じ釜の飯を食う”という形態です。
わたしがすべての事業局の開発部門長を兼任したのは今年の8月からで、それまではテレビ局向けサイト運営の開発部門を率いていました。
ここ最近、インデックスでは不採算プロジェクトを見直す業務改革を行ってきました。その中で開発プロジェクトの管理強化は、特に重要な経営課題として全社的に問題視されていました。開発プロジェクト失敗の要因の1つには、全社を俯瞰して方向性を示す開発リーダーが不在だったことがあったと思います。
各事業局の各開発部門がそれぞれ同じものを別々に作ったり(コスト増加)、同じ失敗をしてしまったり(納期遅延や品質低下)と、効率的でなかったたため、今年の8月から全社目線での効率化を図る大幅な組織変更を行いました。
開発部門を1つに統合することも考えましたが、開発部門が事業局の中にある方が、メンバーの当事者意識や責任感が高く、動きが速いのです。ただし、取り掛かるスピードが速ければ、失敗するスピードも速いんですよね。何とか事業局の中にある開発部門のメリットを生かしつつ開発プロジェクトの効率化を図れないか、そう考えたときに自分が全事業局を兼務し、開発部門を率いるという策に至りました。
■技術・開発部門強化施策
そのため、「技術・開発部門強化施策」というものを掲げました。目標をQCD(クオリティ向上、コスト適正化、納期厳守)とし、手段として以下の3つに取り組んでいます。
(1)標準化・開発計画レビュー
各部門で統一されていなかった開発プラットフォーム、プロジェクト管理手法、インフラ、ドキュメント類はプロジェクトの種類・規模ごとに標準化を図ることにしました。また、開発工程で品質管理チームがレビューする体制を整えようとしています。
(2)ノウハウ・失敗の共有(技術面・制作面)
各部門で閉じていたノウハウを全社で蓄積、共有するための開発者ポータルサイトを開設し、情報の流通を活発化させるようにします。
(3)技術者の底上げ「基礎+専門」
すべてのITエンジニアに必修の技術スキルを定め、ベースとなるスキルの強化を図ります。また、ネットワークやデータベース、プロジェクトマネジメントなど、専門ごとに深いスキルが身に付くよう、資格取得支援制度を導入するべく人事部と協議中です。専門やグレードごとに必要なスキルを定めたスキルマップも作り、教育支援制度の充実化を図ります。
■諸制度の普及にはきちんとした評価と楽しい仕組みを
一番難しいのは、こうした取り組みを提唱することではなく、運営し、根付かせることです。誰も使わない制度では意味がないので、みんなが使える制度として広めることを画策しています。開発者ポータルサイトではみんなが楽しみながら情報を共有できる仕掛けのような遊び心も入れたいと思います。
また、人事部も巻き込み、開発者の取り組みがきちんと評価されるための制度も作りました。売り上げに直結しない仕事というのは、後回しになりがちです。会社全体の利益にかかわる取り組みに対し、個々のITエンジニアが工数の2割を割くことをルール化し、きちんと評価することを決めました。
技術の標準化、ノウハウ蓄積、情報流通によるコミュニケーション強化、スキル向上を目指しながら、開発プロジェクトの品質向上、コスト適正化、納期厳守をコミットしていきます。
社内では新しい取り組みとして占いやデコメ系の新サイト、テレビ局への新規ソリューション提案、フェリカを使ったサービス、iPhoneやAndroidアプリ開発、広告媒体サイトの新規開発、海外市場へのデジタルコンテンツ配信など、さまざまなプロジェクトが進行しています。プロジェクトのQCD(品質、コスト、納期)を守るためにも、メンバーとともに研さんに励みながら、組織を率いていきたいと思っています。
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