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今週のリーダー

第37回 新規事業のリーダーに求められる決断力と勇気


荒井亜子(@IT自分戦略研究所)
大星直輝(撮影)
2009/10/26

高田晴彦 (たかだ はるひこ) 野村総合研究所 通信システム事業推進部 主任コンサルタント 早稲田大学卒業後、2002年、野村総合研究所に入社。大手流通企業の基幹システムの設計・構築に従事した後、プロジェクトリーダーとして上流工程に携わる。2006年、通信システム事業推進部に異動。主任コンサルタントとして新規事業の開発・提案業務を務める傍ら、早稲田大学ビジネススクールMBAプログラムに在籍、経営戦略を学ぶ。

NRIの新挑戦、強固な収益基盤の上に新規事業を展開

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 わたしが所属する通信システム事業推進部は、野村総合研究所(NRI)が展開する新領域の1つで、今後長期的に伸ばしていく分野として2006年に立ち上げられました。2006年当時、わたしは流通部門でSI事業のプロジェクトをマネジメントしていましたが、新しい事に挑戦したいという思いから、この部署への異動に立候補しました。

 これまで弊社は、証券分野と流通分野を強みに一定の収益を上げてきました。しかし、今後さらに成長を続けるためには、新規事業や新規顧客の開拓は不可欠です。そのための通信システム事業推進部のミッションは2つ。通信業界にシステム開発の新規顧客を獲得すること、もう1つは通信業界の企業とタッグを組んで新しいサービスやソリューションを開発し、これまでリーチできなかった既存顧客のニーズに応えたり新規顧客を獲得していくことです。

 通信は他業界とオーバーラップしやすい領域です。かつて電話中心だったコミュニケーションは、いまやITと一体となって進化しています。当然ながら、われわれのお客さまもITと融合型のサービスを求めるようになっています。通信システムを用い、さまざまなビジネスパートナーと連携を強化していくことが求められているのです。

リーダーとマネージャは対極に位置する

 現在、通信システム事業推進部には約20人の社員がおり、開発を手掛けるチームと、営業案件を発掘し新サービスを立案するチームがあります。わたしは後者に属しています。

 日々いろいろな企業を訪問して課題やニーズを探り、お客さまの課題を解決するサービスや、お客さまの強みを伸ばす事業戦略を提案し、事業化に向けて動いています。

 新規事業の難しさは不確定要素が多いことです。作るものが決まっていたり、明確なミッションが上から下りてくるわけではありません。どこにも正解はなく、自分で仮説を立て、検証し、答えを出して動いていかなければなりません。チームというくくりはありますが、個人が動いてバリューを出すことが求められます。

 つまり、各人が自分の抱えているテーマや、やりたいこと、ビジョンに対してリーダーであるという意識や責任感が必要です。あるときは他人をインボルブしながらチームでフォーメーションを組み、あるときは1人で逆風を突破する。やるべきこと、進むべき方向を自ら決断できる、新規事業に携わるリーダーとはそういう人だと思っています。

 ちなみに、役職が付いている、部下がいるといった外形的な側面があればリーダーかというと、そこには不自然さを感じます。いわゆる職制上のリーダーと、わたしの中のリーダーは意味合いが異なります。

 リーダーと似ている言葉にマネージャがあります。マネージャは、現状把握と現状課題から考えを出発して、組織や対顧客という枠組みの中で、ヒト・モノ・カネをうまく管理し、目的を達成する仕事です。一方、リーダーは現状から考えを出発しては駄目だと思うのです。まずゴールを設定し、そこに向けて現状を打破して向かう勇気が必要です。

 通信システム事業推進部に異動する前、流通部門でプロジェクトをマネジメントしていたときは、マネジメントノウハウを大切にしていました。「品質を担保する」「サービスで付加価値を出す」「生産性を上げてコストを下げる」「数字の裏付けが取れないものは手を出さない」「可視化して物事を進めていく」……。このように、マネジメントの世界には定石がたくさんあります。

 当然、経験のある上司の方が大規模なプロジェクトを効率よく回すことができます。上司をロールモデルにして、自分の中に定石を吸収していくことで成長することができたと思います。

 しかし、新規事業は社内の誰もがノウハウに乏しいのです。すると、品質は顧客満足度を満たせないかもしれないですし、効率は劣ります。収益性も低いです。市場のニーズを十分に読めず、数字の見通しはどうしても甘くなります。新規事業に、マネジメントの定石を当てはめて臨んでいては、到底できません。その意味でわたしは、マネージャとリーダーの役割は対極の性格を持つのではないか、と考えるのです。

学問は心を強くする

 新規事業のリーダーは、経験もノウハウも何もないところで決断を迫られます。物事をゼロベースで考えて自分で決断を下さなければなりません。

 ――さて、どうするか。

 考えられるビジネススキルには、技術力、顧客対応力、判断力、柔軟性とさまざまあるでしょう。ですが、わたしはあえてそこに着目したくないのです。

 では、マネージャ時代のスキルを棚卸しして、いま必要なスキルのギャップを埋める? それこそナンセンスです。

 むしろ、これまでの経験やスキルにはあまりこだわりたくありません。その方がいろいろなところに飛び込んでいけますし、気持ちをリセットして一から何か目指すことができます。違う環境に身を置くことは好きです。

 仕事の傍ら、ビジネススクールに通っているのもその1つです。MBAというと、ビジネススキルの向上や商売のテクニックを蓄えて仕事に生かすためと思われるかもしれませんが、わたしはそれが目的ではありません。そもそもMBAが仕事に役立つかというと直接的な関係はないことの方が多いでしょう。

 むしろ、違う環境に身を置いて、さまざまなバックグラウンドを持った人たちと交流することや、ビジネスを理論という違う視点から眺めて取り組んでいくことで、表面的なスキルや経験にとらわれない、自分のコアとも呼べるものを磨くことが目的です。リーダーシップの習得も目的の1つかもしれませんね。

 仕事と研究の二足のわらじは正直しんどいですが、日ごろ実務の世界に漬かっている身にとって、学問・理論を知ることには替えがたい純粋な喜びがあります。実務と理論の両方のレンズを通して、物事をもう少し深く考えられたら理想です。

 皆が正解の分からない中で何かを決めると、褒められることよりも批判されることの方が多いはずです。でも皆批判を受けたくないから、自分で決断をしなかったり、人の意見に流されてしまうのではないでしょうか。既存のビジネスはそれで通用しても、新規のビジネスはそれでは通用しません。

 前例のない中で物事を決断するには、どんなことにも自分なりのビジョンを持って定めていくという姿勢が大事だと思います。実務と学問の両方を通して自分を探求し、自分の物差しを作り、自信を持って決断をしていきたいと考えています。

いまと将来はどちらも大切

 通信システム事業推進部に来て3年になりますが、誰もやったことのないことをやるのは楽しくすてきな経験です。例えば、IT業界で20年の経験がある人がチームに加わったとしてもスタートは同じなんです。20年の経歴は、自分の土俵ではすごいことかもしれないですが、新領域ではゼロになる。経験が物をいわない世界で、新しいものを作って勝負していくというのは面白みがあります。

 もちろん、成功する保証はなく、成功するとしても当分先なので、周りからすぐに成果を求められるとつらいものがあります。つらいのがまた楽しいんですけどね。

 ネガティブになっても前へ進めないので、横やりは気にしつつも、自分の決断を信じ進むしかありません。いまを最適に考えることと将来の成果を追求することは両方大切ですから。でも、この2つを両立させるのはすごく難しいです。いまと将来……、何だかマネージャとリーダーの関係のような話ですね。

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