
第40回 クララオンライン 家本氏「トッププレーヤーを意識せよ」
荒井亜子(@IT自分戦略研究所)
平沼久奈(撮影)
2009/11/16
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| 家本賢太郎 (いえもと けんたろう) クララオンライン 代表取締役 1981年生まれ。1997年3月、愛知県江南市私立滝中学校卒業、同年5月クララオンライン設立。2001年9月、慶應義塾大学 環境情報学部入学。2006年3月、同大学中退。2007年3月、早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科修了。14歳のころ脳腫瘍を摘出し、一時期は車いす生活を送る。このことが起業のきっかけになっている。17歳で奇跡的に回復。 |
■外国人登用で経験した「休み」「評価」における価値観の違い
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日本、中国、フランス、シンガポール、マレーシア、韓国、タイ、台湾……、クララオンラインには、さまざまな国籍の社員がいます。海外拠点を含めると、現在社員の約2割は外国籍です。会社として外国人の割合をコントロールしているわけでも、国籍にこだわっているわけでもありません。国籍不問のスタンスで、適材適所に優秀な人材を登用した結果こうなりました。
サーバホスティング事業は、日本のほか、中国(上海)、シンガポール、台湾(台北)で展開しています。今後もアジアには積極的に進出していく構えです。顧客のマルチリンガルに対応するためにもいまや外国人の登用は欠かせないのです。
われわれより上の世代の人たちには、言葉の壁や歴史・文化的背景により、外国人の積極的登用に抵抗のある人たちがいるかもしれません。
われわれもこの10年間、外国人と仕事をしてきて、ビザや住居の問題、商習慣・文化・宗教の違いといったさまざまな課題に直面してきました。特に、「評価」と「休み」に対する価値観の違いは、大きな課題でした。
「評価」で直面した課題の1つには、5段階評価に対する評価軸の違いがありました。日本の5段階評価では与えられたことをすべてできたら3、それよりも優れていたら4や5を付けると思うのですが、外国人社員の多くは、与えられたことをすべてできたら5という考え方で、評価軸にズレがありました。きちんと評価軸を定め、コミュニケーションを円滑にすることが重要です。海外では部下が上司に給料や査定で文句を付けるのは普通の話です。日本企業ではあまりないのかもしれませんが、社員同士が給料を見せ合うのも当たり前のようです。
「休み」に対する価値観は、宗教が大きく影響します。例えばある社員に、「昼休み2時間モスクに行きたいんですけど」といわれたとき、就業制度をどうするか。宗教上、土日が休みではなく金曜が休みという社員もいます。
長期休暇も宗教や国籍ごとにズレがあります。イスラム教徒は9月に、ラマダン(日の出から日没まで断食をする習慣)があります。それが終わると、日本の正月休みみたいなものがあります。つまり、イスラム教徒の社員は9月に帰省するのです。日本のお盆とは1カ月ずれますよね。10月は中国の国慶節という、日本のシルバーウイークみたいな期間が10日間くらいありますので、これまたお休みです。12月に入れば、キリスト教圏の人にはクリスマス休暇があり、年末年始は日本人が休暇を取ります。2月の頭からは、チャイニーズニューイヤーという中国の旧正月があります。5月には、日本のゴールデンウイークです。長期休暇は世界中違うのです。
「うちは日本の企業だから、日本の習慣に従ってほしい」といったら、継続的に外国人を受け入れることは難しいと思います。外国人を受け入れるということは、彼らの国の習慣も受け入れるということです。もちろん良いこともあります。日本人が休むときには代わりに働いてもらえますから。社員全員を1つの習慣に合わせるよう統制するのではなく、なるべく個々の習慣を尊重することで、仕事がうまく回ると考えています。
そして大切なことは、社員同士がコミュニケーションを取り、お互いに休みを調整することです。こうしたことを通して、クララオンラインでは有給休暇の消化率が上がりました。
■有給が取れないのは、究極的には経営者の責任
人間ですから、休みなく働き続けることは絶対に無理です。経営者は社員の労働環境をきちんと考えなくてはいけません。ITエンジニアのようにコンピュータと向き合う仕事は、人類が長らく経験してこなかった仕事です。より自分の体や心のことを考えてケアする必要があります。経営者に休みがないのは自己責任ですし、若いうちはがむしゃらに働く時期があってもいいとも思いますが、それでも四六時中働き続けるのは無理です。体や心のシグナルは正直に受け止めた方がいいと思います。
サーバホスティングのビジネスは、働く人たちが完全な差別化要因です。特許があるわけでも、すごい技術があるわけでもありません。今年でクララオンラインは創業から13年目になりますが、13年間の実績はすべて人によって成し得たことです。その人たちが働きにくい環境をつくることは望ましくないのです。社員のワークライフバランスは経営者が最も重要視すべきことです。
こういうことをいうと、リソースが少ない中小企業には無理だと思われるかもしれません。もちろん、クララオンラインが完璧にできているとは思っていません。点数を付ければ100点中45点という企業でも、点数を上げる努力はし続けるべきだと思います。それをやっている会社とやっていない会社の差は大きいと思います。現場の人がお互いに調整するという努力も必要ですし、人員を増やす必要があるなら会社を成長させなければなりません。そうすると、社員が有給を取れないのは、究極的には経営の責任になるのだと思います。
■情報は英語で入手。トッププレーヤーの先を行け
わたし自身、社員のワークライフバランスを支えるには、会社の成長が不可欠だと考えます。そのためクララオンラインはここ数年で、個人・中小企業向けの共用型ホスティング事業から、エンタープライズ向けの専用・複合型サーバホスティング事業への転換を行ってきました。平成22年9月期の売り上げ予想は国内単体で14億円の見込みです。
1社でサーバホスティング事業とデータセンター事業を展開するような欧米企業に比べれば、日本のサーバホスティング企業の多くはまだまだ小規模です。トップの企業でさえ売り上げが100億円に届きません。サーバホスティング事業は、もはや日本の中の競争ではなく外との競争だと思っています。ですから、日本の中で鎖国をすることには危機感があります。ある日突然黒船が現れ、競合企業のいくつかが買収されてしまえば、自分たちの市場が突然なくなる恐れは十分ありますから。われわれは一刻も早くアジアの市場を開拓しなければならないという意識ですし、アジアの市場で一番を取れた際には次の市場へ行く戦略を立てなければならないと考えています。
外の世界に意識を向けるのは個人のITエンジニアとて例外ではありません。
サーバホスティング市場は、この十何年、米国の動きに1〜2年の間を空けて追随している状況です。アジアのマーケットはそこからさらに時間差があります。われわれは米国のトッププレーヤーと付き合い、最初の情報を自分たちで手に入れてきたので、何とかいまのポジションがあると思っています。
トッププレーヤーに近づきたいなら、情報は英語で入手することです。日本語のWebサイトしか見ない人はまだ多いと思いますが、それでは情報が遅いのです。日本のサーバエンジニアやネットワークエンジニアは、米国のトッププレーヤーが先行して開発ベースで行っているサービスや、基礎研究に対しての情報へのアクセスが大変遅いと感じています。常に、トッププレーヤーが何に手を付けているかを意識すべきです。その中に、日本流に持ってこられるサービスのヒントがあるはずです。
Webのニュースを読むのに、難しい英語は必要ありません。単語を少し覚えれば、あとは中学レベルの文法知識で読めてしまいます。技術書を原文で読むような高いレベルを求めているのではなく、もう少し手前のところで、常に外の情報にアクセスする習慣を付けることが大切だと思います。
毎日の積み重ねをどちらの方向に積み重ねていくか、それを知るには自分である程度、先を見据える力を養いましょう。積み重ねる方向を間違えることを恐れる必要はありませんが、市場が求める方向に自らが確信を持つ必要はあります。「何を積み重ねたらいいかが分からないからやみくもに先輩がやってきたことに倣え」では、皆と差別化できません。その人だからこそできることは少なくなってしまいます。
■若いインフラエンジニアが不足している問題
インフラエンジニアに限っていえば、最近は若いインフラエンジニアの人数が圧倒的に少ないことに本当に危機感を抱いています。サーバエンジニアとネットワークエンジニアをまとめて育成するような機関や学校が出でこないといけないのではないでしょうか。
サーバエンジニアやネットワークエンジニアは育てるのが難しく、時間がかかるように思います。シスコシステムズやオラクルの特定の機器(やソフトウェア)が触れればいいというわけではなく、(製品やネットワークに関連する)現象すべてにおける理解が必須です。
問題が起きたときに、原因はネットワーク側にあるのかサーバ側にあるのか、サーバ側ならばOSなのかミドルウェアなのか、という問題の切り分けができなければなりません。責任の境界線はありませんから。境界の切り分け能力を持つには幅広い経験が必要です。製品単品の資格を持っているだけでは実務では通用しません。製品知識のうえに、トラブルシューティングを含めた運用経験を身に付けることで本質的な能力の差が生まれるのです。
こうした経験は、システムインテグレータよりはネットワークインテグレータやサービスプロバイダで働く方が積みやすいでしょう。お客さまのクライアントPCからネットワークの領域まで幅広く把握することが重要です。
いま日本で中心となっているインフラエンジニアの年齢層は30代後半です。若い人は彼らから早く経験を受け継いでほしい。日本の将来のためにも、インフラエンジニアが増えていくべきだと思います。
@IT自分戦略研究所 今週のリーダー バックナンバー
- 第1回 ぼくは「引っ張らないリーダー」です
- 第2回 「プログラマの自分」と「経営者の自分」は矛盾しない
- 第3回 生粋のプログラマが体得、人を変えるリーダーシップ
- 第4回 ライオンになれなかった雑食系リーダー
- 第5回 リーダーは、メンバーの目指すゴールを理解すべし
- 第6回 生意気な「部下肌」から、部下を守るリーダーに
- 第7回 メンバーをプロファイリングするための10個の軸
- 第8回 参加者の成長を見守る、Shibuya.pm 2代目リーダー
- 第9回 角谷信太郎――「スーパーマンである必要はない」
- 第10回 きつくいわない命令もしない。むしろ文句をいってくれ
- 第11回 サイボウズの開発部長は、部内で5番目にエラい
- 第12回 不況下こそチャレンジを。客員起業家 尾藤正人の挑戦
- 第13回 キャラクターの生死を懸けて新技術を模索する
- 第14回 クックパッドの技術責任者が語る「3つの隠し味」
- 第15回 不可能を許さない超戦略的リーダー
- 第16回 相手を「気持ちよくだませる」リーダーになれ
- 第17回 「話し掛けやすい雰囲気作りを意識しています。」
- 第18回 「それはエンジニアの仕事じゃない」なんて壁をつくるな
- 第19回 個性派エンジニア集団の信頼を得た「話の分かる男」
- 第20回 ITが組織を改善する時代、リーダーの使命はたった2つ
- 第21回 誰にも依存せず、新しいものを生み出す会社でいたい
- 第22回 牧大輔「モノ作りにこだわればこそリーダーを目指せ」
- 第23回 事業立案から開発まで。グリーのリーダーは全部やる
- 第24回 HOWS 庄司渉の“軽い結び付き”
- 第25回 開発に専念し続ける取締役、モバゲー川崎氏の戦略
- 第26回 僕は教えない。問題点に気付かせる
- 第27回 「変わっていかなければ」。日本Rubyの会 会長の葛藤
- 第28回 人を“その気にさせる”MSエバンジェリストの管理術
- 第29回 「技術一筋」が「マネジメントも面白い」に変わった理由
- 第30回 ウノウラボを作った男の「揺るぎないゆるさ」
- 第31回 インターバースの夜明けを信じ、突き進む
- 第32回 システム開発の主役「バイリンガル技術者」育成計画
- 第33回 Rubyを支えるYuguiの自信 「最後にはわたしがいる」
- 第34回 「不採算プロジェクトは俺が防ぐ」技術責任者の決意
- 第35回 「自分で自分の面倒をみる人が得をする」組織づくり
- 第36回 良いリーダーは笑いとつかみのツボを心得ている
- 第37回 新規事業のリーダーに求められる決断力と勇気
- 第38回 はてなのインフラを支える「ビジョン」と「数値化」
- 第39回 空賊一味のような「職人エンジニア集団」を作る試み
- 第40回 クララオンライン 家本氏「トッププレーヤーを意識せよ」
- 第41回 技術者は技術に専念。ただ、ビジネスにも興味は持て
- 第42回 30分でやると決めたら30分でやる、「いい訳無用」
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