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リーダー

第8回 「勉強する人が一番怖い」――率先して勉強しまくる医師CTO


金武明日香 (@IT自分戦略研究所)
岩井玲文(撮影)
2010/6/7

中尾彰宏氏
中尾彰宏(なかおあきひろ) 比較.com取締役 最高技術責任者。1981年生まれ、熊本県出身。宮崎大学医学部を卒業後、Web業界に惹かれてイーマーキュリー(現ミクシィ)に入社。その後、複数の企業でシステム開発やコンサルティングの要職を歴任後、2008年、比較.comの取締役CTO(最高技術責任者)に就任。現在では、比較.comの核をなすミドルウェアやSaaS型システムの開発を自ら行いながらチームマネジメントを行い、比較.comの技術レベル向上に努めている。

■「遺伝子とITが好き」――医師免許を持つ技術者

 もともと、わたしは医者になるつもりで医学部に入学しました。遺伝子が好きで好きで仕方がなかったので、医学部に在籍している間は遺伝子を解析する日々を送っていました。

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 同時に、わたしはプログラミングも好きでした。遺伝子研究に必要な解析用プログラムは自分で組んでいましたね。そんなことをする学生はほかにいなかったので、わたしは少し変わった医学部生だったのでしょう。

 就職活動を始めたのは2005年、ライブドアショックの少し前でした。IT業界への就職活動は、興味本位によるところが大きかったと思います。ところが、就職活動を続けているうちに「医者になるか、エンジニアになるか」を本気で考えるようになりました。

 わたしはIT業界に「未来」を感じました。Googleマップを見て、「Webではこんなことができるのか!」と驚いたことを覚えています。また、当時はブログやSNSがはやり始めたころで、勢いを感じました。何より、ベンチャー企業で活躍するエンジニアたちとの出会いが大きかったですね。 彼らと話をするうちに、「医者になるのもいいけれど、IT業界で働いてみたい」と思えました。

 わたしは遺伝子とITが大好きですが、好きな理由はまったくといっていいほど違います。遺伝子には、生命体の歴史がすべて刻み込まれています。人間の遺伝子や植物の遺伝子、単細胞生物の遺伝子それぞれに歴史があって、読み込めば読み込むほど新しいことが分かります。遺伝子を見ていると「自分のルーツはここにある」と思えるのです。

 ただ、遺伝子は情報が膨大にありすぎて、未知の領域が圧倒的に多い。しかも、まったく自分の思いどおりになりません。遺伝子に比べると、システムはプログラムを書けば、自分のいうことをきちんと聞いてくれます。そこがITの魅力ですね。

■エンジニアのパフォーマンスが最も高い会社に行きたかった

 IT企業を何社か受けたあと、イーマーキュリー(現ミクシィ)への入社を決めました。それは「エンジニア1人あたりのパフォーマンスが、最も大きい会社だったから」です。企業を比較するため、PV規模をAlexaランキングで調べました。イーマーキュリーは当時5人ほどしかエンジニアがいなかったにもかかわらず、膨大なPVをさばいていました。

 就職活動中に出会った先輩エンジニアや経営者からは、「医者になった方がいい」とアドバイスをもらいました。一方で、友人たちは「お前ならやれる。普通の医者になる器じゃない」といってくれました。かなり悩みましたが、2006年2月に医師の国家試験を受験し、3月には入社しました。

 国家試験の合格発表は、2ちゃんねるの掲示板で見ました。厚生労働省のホームページは、合格発表の日にはアクセス過多で閲覧しにくいんですよ。だから、掲示板経由で合否を知る人はけっこう多いのです。「Web企業でコードを書いているエンジニアが、医師免許の合格発表を見る」という経験はなかなかありませんね。あれは面白かったです。

■ 「4倍ルール」――成長するために人の4倍の速度でやる

 わたしが入社したころのイーマーキュリーはとにかく勢いがあって、毎月エンジニアが増えていました。一緒に働いていたエンジニアもすごい人ばかり。あそこまで勢いがあった現場をほかに知りません。わたしはすぐに現場に配属され、2006年12月に退社するまでとにかく働きました。退職した理由はいろいろあったのですが、仕事が楽しすぎたことが大きかったですね。もっと厳しい場所でいろいろなことを試したかったのです。上場したことも、原因の1つであるかもしれません。

 次は、化粧品会社のIT部門で、システム開発やネットワーク管理などを担当していました。ここも10カ月で辞めて、医療系企業のITを支援するコンサルティング会社を起業しました。当時は開発と営業の仕事を同時にこなしていましたね。営業の仕事は、わたしに「経営」という視点を与えてくれたので非常に有意義でした。とはいえ、「わたしはやはり開発の方が好きだ」ということを実感しました。

 わたしは、人の4倍の速度でやる「4倍ルール」を心がけています。よく、「3年は同じ職場で働く」といわれますが、3年分の成長を4倍速で吸収したかったのです。3年=36カ月を4倍速で過ごせば、9カ月で済みます。比較.comへ来るまで、1つの企業に1年以上いた経験がありませんでしたが、退社時に「やり残した」「勉強し足りない」とは思いませんでした。

■勉強しようとする人の邪魔をしない

 いまは比較.comのCTOとして、開発部隊を束ねてWebサイトを開発・運営しています。業務の半分は「開発」に充てています。わたしは技術もマネジメントも同じぐらい好きで、バランスよく両立できていると思います。

 リーダーとしてもっとも重視しているのは「勉強しようとする人の行く先を妨げない」ことです。たとえ部下が学んでいるものが業務に直接関係のない、もしくは必要がないことでも、このポリシーは貫きます。

 わたしは、「勉強する人」が一番怖い。いまは自分が多くの知識や技術を持っていたとしても、勉強する人にはいつか追い越されるかもしれないからです。「勝てないかもしれない」、これはわたしにとって非常に怖いことです。しかし、わたしはそんな「怖い部下」をたくさん持ちたい

 勉強しない人は、つまらない仕事を普通にこなすことしかできません。しかし、勉強する人は違います。どんなにつまらない仕事でも工夫して面白くしようとするから、成長が早い。わたし自身、勉強しながら成長してきました。業務改善の仕事は、どの企業でもほぼ同じ作業を繰り返します。しかし、わたしは同じ方法でやろうとせず、いつも違う方法や技術を使っていました。ルーティンをルーティンにしたくなかったのです。

 わたしは、道に迷ってもほとんど元の道に戻ろうとしません。途中まで戻れば楽なのは分かっていたとしても、です。「一筆書きでゴールを見つけたい」、これがわたしの信条です。道に迷ったら、待ち合わせに遅刻してでもいいから別のルートを探して楽しみたい。ハプニングを楽しみに変えながら、常に前へ前へと進むことで、問題を解き続けたいのです。

■ 勉強する人だらけのチームを作り上げたい

 わたしの理想は「勉強する人だらけのチーム」を作り上げることです。「追いつき追い越され、互いに切磋琢磨(せっさたくま)して成長する」状況がチームに生まれたらいいですよね。そうしたら、自分はいずれマネジメントに専念したいと考えています。

 ただ、課題もあります。例えば、「従業員から相談を受けすぎる」ことです。成長するためには、「人に頼る」ことが必要です。わたしはいまでも、昔お世話になった人やミクシィのメンバーなどによく相談を持ち掛けるし、従業員から相談を受ける際はオープンな姿勢を見せています。しかし、わたしを頼りすぎてほしくない。人を頼ることは成長のために必要ですが、ときには頼らずに自力で解決することも必要です。もう少し突き放した方がいいのかもしれない、と最近は考えています。

■ 勉強しまくるリーダーとして先頭を走る

 いま、わたしはマルチスレッドプログラミングやダイナミックプログラミングについて勉強しています。ほかにも、社内勉強会を行ったり、ミーティングで流行の技術を紹介したりと、いろいろな試みを行っています。

 スキルは「業務」の中だけで伸ばしたいとは思っていません。なぜなら、業務の幅がスキルの限界になるからです。伸び止まりたくないので、業務以外のことにも挑戦し続けてスキルを磨き続けたいと思います。いまはがむしゃらに技術を勉強していますが、いずれはコミッタとしてオープンソースの世界に技術を還元したいですね。

 スキル面で追いつかれるのは怖いですが、いつかはわたしに追いついてもらいたい。そして超えてもらわないといけない、と思っています。いまはどんどん勉強してどんどん挑戦し続けて、先頭を走っていきます。

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