@IT自分戦略研究所ブックシェルフ(2)
『格差と希望』を読む
@IT自分戦略研究所 書評チーム
2008/7/15
■経済学と脳科学の接近
ニューロエコノミクス(神経経済学)という学際的な分野が急速に発達している。ニューロエコノミクスとは「人間の行動だけからは分からない意思決定の仕組みを脳科学の手法を用いて明らかにする研究領域」(『格差と希望』p.35)である。
格差と希望 大竹文雄著 筑摩書房 2008年6月 ISBN-10:4480863834 ISBN-13:978-4480863836 1890円(税込み) |
伝統的な経済学において、人間というのは合理的な行動をするものだとされてきた。さまざまな経済モデルは人間の意思決定における合理性に基づいて構築されてきた。しかし、人間が必ずしも合理的に行動するわけではないのは、自分のことを考えてみればよく分かる。人間の(意思決定における)不合理性を織り込んだうえで、経済学を見直そうとする動きが、つまり、ニューロエコノミクス発達の動機である。
人間の合理性と感情との関係を明らかにした有名な実験がある。本書でも紹介されている。「最後通牒ゲーム」と呼ばれる実験だ。
イ氏とロ氏がおり、この2人で1000円を分けるとする。イ氏が分け方を提案するという第1のルールがある。第2のルールは、ロ氏が提案を拒否すれば1000円そのものがなくなるというもの。ロ氏がイ氏の提案を受け入れれば、イ氏の提案どおりに配分される。「合理的に」考えれば、イ氏がロ氏に対し、1円以上の譲渡提案を出せば、ロ氏は受け取るはずである。なぜなら、第2のルールにより、ロ氏が提案を拒否すれば1000円そのものがなくなるのだから。
しかし、アリゾナ大学 サンフェイ教授の実験によると、20%以下の配分という提案は拒否されるという結果となった。つまり、ロ氏は「200円以下しかもらえないのであれば、いらない」と判断するというのである。
この本は、経済学者 大竹文雄氏が2005年から2007年にかけて、日本経済新聞と週刊東洋経済に寄稿したエッセイをまとめたもの。経済学を思考の補助線として使いながら、現代日本の政治・社会状況を眺めている。その意味で、ニューロエコノミクスに関するコラムは、本書の中で異色の位置づけなのだが、経済学が血の通った人間の学問であることをあらためて示しているという点で注目した。(鰆)
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