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@IT自分戦略研究所ブックシェルフ(103)
要望フィルタリングの匠

@IT自分戦略研究所 書評チーム
2009/5/11

■要望獲得の難しさ

上流工程で成功する人、つまずく人

荒井玲子著
技術評論社
2009年1月
ISBN-10:4774137464
ISBN-13:978-4774137469
882円(税込み)

 プロジェクト失敗の大きな要因は、要望から要求に落とす段階で行われる(要望の)フィルタリングの失敗にある。フィルタリングがうまくいくかどうかによってシステムスコープの安定性が変わってくるからだ(『上流工程で成功する人、つまずく人』、p.16)。本書は、収集した要望をどうフィルタリングするか、要求を獲得する技術者のスキル、要望収集までの準備、収集した要望の扱い方について述べている。

 第1章は、要求の獲得はなぜ難しいかを解説している。要望の収集からシステムスコープの確定までは、4つの段階に分かれる。

  1. 要望の収集

  2. 要望のフィルタリング

  3. 要求の仕様化

  4. システムスコープの確定

 3)は仕様化技術、4)は要求管理、変更管理といったソフトウェア工学(要求を仕様に落とし込む技術)を適用することができるが、1)、2)の段階は、ソフトウェア工学を適用しにくい問題多発地帯だといえる。1)、2)ができていないまま、3)、4)に進むために、「仕様が固まらない」「止まらない仕様変更」「止まらない追加仕様」「修正による構造劣化」という症状が表れる(本書、p.28)。

 要望の獲得の難しさは、要望を出す人と要望を収集する人の問題に分かれる。要望を出す人の問題は、

  • 要望を表現するすべを持っていない

  • 実物を見ないと具体的なイメージがわかない

 要望を収集する人が抱える問題は、

  • 要望を収集するすべを持っていない

  • 問題をとらえていない

ことである。

 ソフトウェア開発者は、「要求はユーザーが出すもの」と暗黙的に期待している。失敗したプロジェクトには、要望収集が受け身で行われているという特徴がある。いかに能動的に要望を収集するかがプロジェクトの成功と失敗を分ける(本書、p.32)。

 第4章では、要望収集プロセスパターンについて述べている。うまく要望を収集できる人とできない人の違いは以下の5つのステップを踏んでいるかどうかだと著者はいう。

ステップ1 「ビジネスに関する問題」「システムに関する問題」のどちらに属す問題なのかを区別する

ステップ2 何が問題なのかを「獲得」する

ステップ3 何をしたいのかを「獲得」する

ステップ4 どのようにしたいのかを「獲得」する

ステップ5 1から4を実施してから要望を収集する

 システムの大規模化や開発したシステムを維持していかなければならない観点からも、問題の多発地帯である要望の収集とフィルタリングは、ソフトウェア開発者だけでなく、ユーザー企業にとって重要な問題となっている。(鮪)

本を読む前に
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