@IT自分戦略研究所ブックシェルフ(69)
メディアは嘘をつく
@IT自分戦略研究所 書評チーム
2008/11/25
■客観性という幻想
視点をずらす思考術 森達也(著) 講談社 2008年2月 ISBN-10:4062879301 ISBN-13:978-4062879309 735円(税込み) |
「思考術」と銘打っているが、本書はよくある「○○思考術」なるビジネスノウハウ書ではない。ドキュメンタリー作家兼映画監督の著者が雑誌や新聞などに寄稿した原稿をまとめたものだ。
テーマは「社会」「国家」「メディア」「宗教」など多岐にわたる。通底するのは「視点をずらす」こと。「この世界は無限に多次元的なのだ。事件や物事や現象は決して単面ではない。多層的で多面的だ。視点をずらしさえすれば、まるで鉱物の結晶のように、新しい明度や色彩があなたの前に現れる」(『視点をずらす思考術』、p.21)。
本書に「視点のずらし方」は書かれていない。その代わり、「ずらされた著者の視点」を追体験できる。
「映像は嘘をつく」と著者は語る。例えば、幼児がトラックにひかれた交通事故を伝えるニュース番組。「主観など現れようがない。そう思うのなら大間違いだ。路上に供えられた花から抜けるような青空にティルト・アップ(上下の移動)するのか、あるいは猛スピードで失踪するトラックから路上に供えられた花へパン(横への移動)するのかで、受ける印象はまったく違う」(同、p.126)
映像だけではない。文章も同様だ。メディアとは視点である。同じ事象を取り上げたとしても、取り上げる主体がどの位置に立つかで、事象そのものの印象は大きく変わる。「客観性など幻想なのだ」(同、p.126)
本来、多面的な世界を1つの視点で切り取るのがメディアだ。それ故、メディアが映し出す一面的なものの見方から視点を「ずらす」ことの重要性が生まれる。(鰈)
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