まずは「時間を買う」という発想を持とう!
ボーナスの賢い「自己投資法」
堀内浩二(「起-動線 for atmarkIT」エバンジェリスト)
2004/7/9
こんにちは、起-動線 for atmarkITの堀内です。やや景気が上向いてきたせいか、消費マインドも盛り上がってきているみたいですね。先日お会いした伊藤康博さん(仮名・27歳、プログラマ)も、ボーナスの使い道をあれこれ考えているもよう……。今回は特別にボーナスの使い方について、考えてみたいと思います。 |
■時間は「買う」ことができる
伊藤 私はボーナスの半分を「自分戦略投資予算」と命名しました。
堀内 おお、カッコいいねえ。で、何に使うのですか?
伊藤 そのオススメを聞きたかったのです(笑)。いま考えているのはテクニカルエンジニア(ネットワーク)の資格取得です。もしかしたらネットワーク設計の仕事を担当するかもしれないので、いざチャンスが来たら手を挙げられるようにしたいと思っています。今年の10月に試験があるので、短期集中で勉強してみようかなと。
堀内 いいじゃないですか。ただ、いまの仕事だけでも忙しそうですよね。現実的に時間を取れますか?
伊藤 そこが問題なんですよね。
堀内 よく「時間は一番貴重な資産」なんていいますよね。確かに「知識を学ぶことよりもその時間がない」のが現実なんじゃないでしょうか。せっかく「自分戦略投資予算」という名前を付けたのですから、それらしくボーナスの使い方を計画してみましょうか。受講費用のような直接発生するコストに加えて、「時間」という資源を何とか確保しないといけない。そこで「時間を買う」という発想で考えてみましょう。
例えば、少しおカネを掛けて、学ぶ時間を作り出すということです。時間を作り出すために、どんな切り口が考えられますか。
■おカネを使って無駄な時間をカットする!
伊藤 まずはムダな時間を減らすことですかね。
堀内 そうですね。おカネを掛けずにできることは当然やるとして、ここでは「おカネを掛けることで無駄な時間を減らせないかどうか」を考えてみましょう。例えば、伊藤さんは通勤時間が長いですよね。グリーン車のようなサービスはありますか?
伊藤 JR通勤ですからグリーン車がありますよ。
堀内 例えば、1カ月間毎日グリーン車に乗ってみたらいいのでは。
伊藤 毎日通勤に使うと、往復で1カ月3万円ですよ! モッタイナイ……。
堀内 でも、座って勉強する時間が、1日2時間も手に入るわけです。まあ、正味30分としても1カ月で30時間の時間が3万円で買える。「時間を買う」とはこういう意味です。
僕が知っている実例でいうと、通学制のスクールと仕事の山が重なった時期に、短期賃貸マンションを2週間借りた人がいました。スクールだけでもかなりの出費ですけど、もし学び通せなかったら投資がまるまる無駄になりますからね。
あとこれは移動の多い人向けですが、タクシーをオフィスにするという人の話を聞いたことがあります。携帯電話なんかも全部留守電で受けて、タクシーの中でまとめて返事をするという徹底ぶり。
大体われわれは生活パターンがありますから、時間をやりくりするといってもミクロなことしか思いつかないものです。そこで「ボーナス月間ならでは」という発想から、思い切って生活パターンを変えてみてはどうですか。時間の貴重さを考える機会にもなるんじゃないでしょうか。
■「楽しく勉強できる」という効果がある
堀内 さて「ムダな時間を減らす」以外にできる手段は、ほかにありますか? 戦略オプションを考えるときのように、まずは実現性より網羅性を考えて打ち手を洗い出してみましょう。
伊藤 あとは仕事そのものの効率を上げて、早く済ませることですね。でも仕事のやり方を見直すのは、それはそれで時間がかかりますよね。
堀内 そうです。でもいまは「手っ取り早くカネで解決する方法はあるか」という視点で何ができるかを考えてみましょう。
伊藤 遅いPCを速いのに買い替えるとか(笑)。
堀内 即効性が期待できるなら、真剣に検討すべきだと思います。PCの買い替えは副作用がいろいろありそうだけど(笑)。ほかにも、本やシェアウェアなどで目を付けておいたものは候補でしょうね。
こういうものは、実際に生産性を上げる効果以上に、学習を楽しくする効果があります。そういう意味では、よくある「自分へのご褒美」みたいなやり方も、間接的だけれど「おカネで時間を買う」方法の1つといえますね。
■自己投資額を「マイR&D」と考える
堀内 ところで、仕事の効率を上げるという点から見れば、「仕事そのものを少なくする」という切り口だってありますよね。
伊藤 それは大胆ですね。異動を申し出るとかではなくて、やっぱり「おカネでパッと解決できる」という視点からですよね。
堀内 例えば、ちょっとした仕事を人にお願いできないかどうか考えてみる。カネでカタを付けるというわけにもいかないので、代わりにランチをご馳走するとか、本をプレゼントするとか、ほかのものに変換して払う方がいいと思うけれど。「僕は●●の資格を取るために猛勉強中!」と宣言して、目的に向かって頑張っているところを見せれば、意外に協力してくれるかもしれません。
もちろん、時間も能力もたっぷりあって、足りないのはおカネだけという状況だったら別ですが、「自分戦略投資」ですから。投資は目いっぱい生かさないと。いま挙げたような切り口で、伊藤さんにとって効果が高そうなものを選んで予算を組んでみたらどうでしょう。
伊藤 よしっ、パパッとExcelで表でも作ってみますよ。本当は仕事で学べるのが一番いいんですけどねー。
堀内 そりゃそうですね。「新しいことが学べない」というのは会社に対する代表的な不満の1つだと思います。ただ企業は、日々の商売とは別に研究開発費を予算化していますよね。個人についても同じことがいえます。仕事がそのまま学習になればいうことないけれど、仕事場は、第一義的には価値を発揮する場所であって勉強だけをする場所ではない。
とすると、いま仕事で学べる環境にあるかどうかには関係なく、「マイR&D」のためのおカネと時間は枠を作って確保していきたいものです。企業は研究開発費を「売上高の何%」といった数字を目安に見積もっています。個人でも年収の何%かを自分自身の“研究開発”に使うと決めればいいのではないでしょうか。
■おカネで新たに時間をつくり出す
伊藤 具体的には何%くらいまでが妥当なのでしょうか。
堀内 ある程度「決めうち」で考えてみましょうか。仮に伊藤さんの年収が約400万円、自己投資額が年収の3%、給料も毎年3%ずつ伸びてきたとしましょう。
伊藤 今年12万円を投資して来年12万円年収がアップすればトントンです。
堀内 いやいや、そのままほったらかしにしたことによって年収が下がる可能性もあります。仮に今年は頑張って自己投資額を2%(8万円)増やそうと思っても、すでに現状で時間がイッパイイッパイであれば学びの効率は悪くなるでしょう。それならば5万円の教材とグリーン車1カ月分、30時間の3万円を買うのは妥当な気がしませんか?
伊藤 時間とセットで考えてみるという感覚がちょっと分かった気がします。
堀内 リラックスしたりリフレッシュしたりする時間も削りたくないですよね。
■「自己投資」にも失敗はつきもの
伊藤 しかし、これで受からなかったら淋しいなあ……。
堀内 まさに資格という「リターン」を求めての「投資」ですからね。不合格という「リスク」も覚悟しないと。それに、テクニカルエンジニアが取れたからといって、そのスキルが生かせるプロジェクトに入れないとか、そもそもプロジェクトが立ち上がらない可能性だってあるわけでしょ?
伊藤 厳しい指摘ですね(笑)。
堀内 研究開発には失敗がつきものですよ(笑)。企業だってリスクを取って利益の一部をR&Dに投資しているわけです。ただ仮に失敗しても、新たな知識を獲得できれば得るものはたくさんありますよ。例えば今回一緒に考えた時間の作り方とかね。なので、転んでもタダでは起きない精神で、「失敗はしたけれどコレを得た」というものを積極的に見つけたいですね。勉強を通じて、「ネットワーク設計を経験したい!」という熱意を上司にアピールできることもリターンかもしれません。
伊藤 落ちたらアピールにはならないんじゃないですか?
堀内 黙っているだけでは何も起きないし、伊藤さんの希望が伝わることもありません。資格そのものもさることながら、学び続ける意思自体はコンピテンシー(行動特性)として高く評価されるはずです。
受かるか落ちるかという「結果」は自分ではコントロールできません。しかし、せっかくおカネを払って勉強時間を買おうとしているのですから、そこに至る「プロセス」自体からなるべくリターンを得るようにしたいものですね。それが他人にも認められればいうことないじゃないですか。
筆者紹介 |
堀内浩ニ●アーキット代表取締役、「起-動線 for atmarkIT」エバンジェリスト。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。 |
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