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日本人ITエンジニアのライバルは中国の新卒?

長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2006/5/11

日本国内のITエンジニアが不足しているいま、企業は次々に海外に目を向け始めている。中には新卒採用の一環として、海外の理工系の学生を採用する企業もあるという。この傾向は今後も続くのか。日本のITエンジニアはどうすべきなのか。

 パソナテックは2006年2月27日、大連に全額出資の子会社であるパソナテックコンサルティング(大連)有限公司を設立した。パソナテックコンサルティングの機能は主に2つ。中国人技術者の育成型来日派遣プログラムの強化と、中国国内における人材紹介サービスの拡大だ。パソナテック 海外事業部の部長であり、パソナテックコンサルティングの董事を務める小平達也氏に設立の背景、今後の戦略などについて聞いた。

新卒採用の一環として中国のITエンジニアを

 パソナテックの中国人技術者の育成型来日派遣プログラムは、自動車やデジタル家電メーカー、システムインテグレータなどから好評だという。新卒や新卒に近い年齢の優秀な理工系の人材を、人件費などではなく才能を重視して招聘(しょうへい)したいという考えが強いようだ。

パソナテック 海外事業部 部長 小平達也氏

 小平氏は最近の企業の動向を、「グローバル要員としてだけでなく、単純に新卒採用の1つの手段として(中国人ITエンジニアの招聘を)やっている。日本の理工系の新卒が足りないといわれてきたここ1年くらいでそうなっている状況」と語る。

 パソナテックはこの来日派遣プログラムを1998年から提供。現在までに280人の就業実績がある。中国には専任の採用コンサルタントがいて、大学を回ってリクルーティングをしている。2006年度卒業見込みの大学生に関しても、中国東北部の理工系の11大学に在籍する3万5000人のうち、すでに1800人以上が来日派遣プログラムに応募しているという。

 パソナテックは新会社の設立によって、こういった大学との関係を強化しようとしている。よりスピーディに意思決定をし、奨学金、日本語講座、キャリア講座などの提供を進めることによって、来日派遣事業をさらに拡大する予定。2006年度中に20大学との連携を目指す。

 「中国の人には、ITエンジニアとしての中長期のキャリア観を持っている人が少ない」と小平氏は語る。例えば自動車設計を専攻した大学院生が、技術の道に進むのではなく、すぐに成果の出るセールスマンになってしまうなどの例が多くあるそうだ。そういった考え方が転職率の高さにもつながる。そのため、キャリア講座などによって3年後、5年後のことを考えられる場を提供する必要があるという。

 地方の大学では、優秀なのに就職のチャンスがない学生もかなり多いという。遠方であるため日本企業のアプローチも少ない。大学の要望も企業のニーズもあって、就職セミナーを開催して両者のマッチングの場を提供する。同時に奨学金や講座も提供する。「こういう人たちが、今後私たちのプログラムで日本に来て就職してくれれば」と小平氏は笑う。

人事のミッションとパソナテックの強み

 2007年問題や新卒の不足により、各企業は60代の人材の活用や女性管理職の積極的な登用など、さまざまな策を打ち出している。小平氏は「それに加え、人事は優秀な海外の人材の活用ということも考慮に入れている」と語る。

 しかし一般的な日本企業の人事担当者は、日本の新卒採用とキャリア採用しか経験していない。「外国から人材を招聘するイメージや実際の手続き、どういう問題が起きるかが分かっていない。年末調整について説明する必要もあるし、メンタルケアや住宅の問題もある。それを24時間サポートするのがパソナテックのキャリアコンサルタント」と小平氏はいう。「新卒、海外で就業という2つの壁を乗り越えるのをサポートし、本人がITエンジニアとして専門性を出せるようにする」のが目的だという。

 中国での募集活動、採用面接から来日手続きまでを現地の採用コンサルタントが行い、来日後の住居手配、外国人登録や銀行口座の作成などの細かな手続き、働き始めてからのキャリアのサポートを日本国内のキャリアコンサルタントが担当する。「ここを一貫して見ることができるのが私たちの強みで、他社にはないサービス」と小平氏は胸を張る。

 1998年の来日派遣プログラムの開始からこのような形態で進めていたが、これまで「山あり谷あり」だったという。新会社設立によってこの事業の拡大を目指すわけだが、「むやみに人数を増やしたいわけではなく、優秀でまじめなITエンジニアのグローバルなキャリアをきっちりサポートしたい」という。

大連の人材を天津や上海で

 パソナテックコンサルティングのもう1つの機能は、中国国内の人材紹介サービスの拡大である。この分野における提携会社であるパソナテック大連と協力して行っている事業だ。

 小平氏によると、日本企業が現地法人を立ち上げる際は、日本から担当者が赴任し、現地でキャリア採用をしてスタートするパターンが多い。「その段階がこの2、3年で一段落して、定着率の高い新卒の人材をある程度まとめて採用したいという企業が増えている。中国国内で新卒の人材を紹介するという紹介会社はないので、これは新しい形態」という。今後は大連での事業拡大と、北京、上海、広州など中国のほかの地域への展開を予定している。

 そのほか、海外でグローバルなキャリア形成をしたいと考える日本人向けに、海外での就業先を提供している。例えば大連での日本ヒューレット・パッカードのテクニカルサポートエンジニア案件などがある。

中国以外へのビジネス展開

 現在小平氏が所属する海外事業部は、4月1日にスタートした。それまでは中国事業部として、中国にフォーカスした人材ビジネスを行っていた。

 小平氏は海外事業部発足の背景に関して、「昨今は中国以外の国の人材へのニーズもすごいものがある」と語る。中期的にはロシアやブラジルなども視野には入っているが、まずは距離的に近いベトナムやタイなど、東南アジアの国へ中国同様のサービスを展開していきたい考えだ。

 これまで、中国以外の国に関してのビジネスは「案件ベースで引き受けていた。中国に注力していたのでお断りしたことも多かった」という。今後は中国をコアにしながらも、サービスの場を広げていく流れだという。

 「私たちのミッションは、日本企業のグローバル展開を人材サービスを通じて支援すること。日本企業がグローバルマーケットで勝ち残っていくことを、海外のITエンジニアの採用と活用を通じて応援しています」と小平氏はいう。

日本人ITエンジニアの今後は

 中国をはじめとする海外のITエンジニアがどんどん日本にやってくる状況で、日本人ITエンジニアはどのように考え、高付加価値化を図っていくべきなのか。小平氏の言葉の中にヒントがあるかもしれない。

 中国では、海外を狙うのは学生のトップ層だ。優秀な学生から海外に出ていく。小平氏は「日本に来る人はものづくりや品質管理など、日本の優れている点を認知していて、それを学びたいと考えている人が多い」と指摘する。

 「日本人ITエンジニアもそんな海外のITエンジニアから大いに刺激を受け、お互いに技術を磨き合うことで、日本の企業と社会をいままで以上に活性化させてほしい」と小平氏は語った。

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