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国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?

第1回 海外のエンジニアは脅威か

小平達也(パソナテック 中国事業部 コンサルタント)
2003/11/21

ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった

オフショア開発の海外エンジニアは氷山の一角

 現在私は、パソナテック 中国事業部にて「東アジア圏における、日中間を基軸としたキャリアの最適配置」のテーマの下、対中ビジネスに挑戦する顧客のヒューマンリソース(HR)上の課題に対してソリューションを提供している。その一方で、海外高度人材といわれる海外ITエンジニアや、グローバル志向の人材に対しキャリアカウンセリング、コーチングも行っている。

 本連載では、来日が急増する来日する海外のITエンジニア(いわゆる海外高度人材)、および中国を中心とした海外のITエンジニア動向を紹介する。それを通じ、読者の皆さんにITエンジニアとしてのキャリアの方向性を模索・再確認する「きっかけづくり」を提供したいと思っている。もちろん、読者を怖がらせて極論・暴論を展開するつもりは毛頭ない。報道され、皆さんもご存じの話だけでなく、いまだ一般には報道されないことなども併せ、可能な限り、ありのままの現実・事実を紹介していくだけである。

 おそらく、読者が本文を読んでいるこの瞬間に、現在の仕事を「真正面から」奪われることはないだろう。しかし、3カ月後、半年後に、いまと同じ就労環境が続くとは、誰が確信を持っていえるだろうか。

 例えば、日本向けのオフショア開発のため、来日している海外ITエンジニアの数は氷山のほんの一角にすぎない。中国を中心とした、現地にいるITエンジニアが労働力の物理的な移動を伴わず(つまり来日せず、あなたの職場に来て隣の席に座らなくても)、現地にいたまま(つまりは現地の雇用システムに組み込まれていながら)、専用線を経由して日本の業務を支えることにより、実質的に日本の雇用市場に影響を与えているのである。

 もちろん、これはITエンジニアだけの話ではない。ある企業(ある世界的な外資系企業)の場合では、グループ企業の人事・経理・総務などの間接部門を大連の拠点に集約する。これは現在、日本で担当している業務の4割が対象となるという。この「日本と大連の関係」は、時差を活用する点以外は「アメリカと(インドの)バンガロールの関係」とオーバーラップする。そしてこの結果がわれわれ1人1人にも影響を与える。目には見えないだけで雇用市場は、事実上すでに国境を越えているのだ。

「39万人」対「18万人」

 10年以上前から中国・香港を中心にビジネス経験を持つ筆者としては、昨今の急激な中国ブームに対しては、比較的冷静に見ている方だと思う。

 しかしながら、われわれが軽視できない圧倒的な差だけは認識した方がよさそうだ。それは日本の倍以上といわれる、膨大な数の理工系人材である。

 2000年時点では、中国の理工系大学の修士・博士課程に在籍している人数は39万人いた。この数字はアメリカの37万人をも抜いている。ちなみに日本のそれは18万人であるから、修士・博士課程に限れば、実に日本の倍以上の理工系知識人材が、世に出る準備を着々としているのである。

 さらに中国の場合、学部生の段階から企業が大学に委託したプロジェクトに参加し、開発などに従事して、経験を積んでいくのが一般的である(大学における研究開発費は常に30%程度不足しており、学外の企業から教授が自らプロジェクトを受注して初めて研究が展開できる、という事情もある)。従って学部新卒者の段階で、すでに職歴書に記入できるような複数のプロジェクト経験を持つ。また、中国では大学自体が母体となり企業を経営しており、その中には上場した企業も複数ある(表1は一例)。これは、もはや産学連携を超越し、産学一体といえるだろう。

上場企業名
設立母体
主要業務
東大阿派 東北大学 ソフトウェアの開発
清華同方 清華大学 フロッピーディスク、ソフトウェアの開発
方正科技 北京大学 PCおよびソフトウェアの開発
表1 大学が設立母体となった上場企業の例

 修士・博士課程の在籍者が日本の倍以上という「数のボリューム」、そして大学での在学中(20歳前後)から実務経験を積み始めている「経験値」、さらに大学を母体とした「産学一体」、この3点は強力な底力として、日本だけでなく、東アジアにおいて確実に存在感を増している。

来日する海外ITエンジニア

 アメリカでは、外国籍の技術者が取得する技術ビザ(H1Bビザ)の発給枠を2004年の会計年度(2003年10月〜2004年9月)に大幅に縮小されることになった。2003年度の19.5万件の発給枠は、2004年度には6.5万件と3分の1にまでなるという。ITバブルの崩壊が直接的に関係しているというが、日本の場合はどうだろうか。

 海外から来日するITエンジニア(技術ビザで来日している方。帰化した方や留学生ビザの方は除く)は現在、日本国内に2万人ほどいる(うち1万2000人は中国人)。日本の入国管理制度は、アメリカのように国別数量割当制はない。母国で理工系大学の卒業資格(もしくはそれに準じる経験など)があり、日本国内での雇用受入元との雇用契約が締結されていれば人数制限はなく、来日できるというシステムである。

 ちなみに技術ビザによる来日エンジニアは2000年には1万6531人だったが、2001年には1万9439人と実に3000人近く増加している。

 さらに、技術ビザの取得要件が緩和される諸外国とのIT資格相互認証は、2001年のインドとの締結に始まり、シンガポール、韓国、中国、フィリピン、タイ、ベトナム、ミャンマーとすでに締結されている。

 アメリカへの「出口」が狭まったことや、政府による諸外国とのIT資格相互認証が始まったことにより、今後海外のITエンジニアがますます日本で活躍する環境に向かっているといえる。

頭脳循環の潮流とは?

 ところで読者の皆さんは「頭脳循環(Brain circulation)」という言葉をご存じだろうか。

 1970年代後半より中国で経済改革・開放路線が始まって以来、40万人以上の中国人学生が海外へ留学している。また、シリコンバレーで新規に創業した起業家のうち、20%は中国人で占められていた。ちなみにインド人は8%という。このように、数多くの中国人が海外で留学・就職・起業しているが、留学生の3分の1ほどがすでに中国に帰国したといわれている。そして帰国後に起業する人材も激増している。

 さらに中国では上海市をはじめ、各市政府単位で海外において「帰国就職説明会」を開催し、頭脳Uターンを積極的に推し進めている。

 日本でも今年8月23日に都内で、大連市が帰国就職セミナーを開催した。大連市は日本向けのソフトウェアの輸出で北京市に次いで中国第2位の実績を持つ。同セミナーには大連市副市長をはじめ政府関係者、IT企業の関係者などが来日した。セミナーの狙いは、日本で就労経験のある優秀な中国人ITエンジニアの帰国を促進するためのもの。その背景にあるのは、日本向けソフトウェアの開発や欧米外資企業のバックオフィス機能の移転で、大連市の対日ビジネス人材の需要が急増しているためだ。大連市は、2005年までに日本から帰国するITエンジニアに4500ポストを用意し、大連市の対日IT事業を強化するという。

 いまや、海外で活躍している中国人にとっても中国が自分戦略上、魅力的な場所となっている。トレンドは従来の頭脳流出から国際Uターンというべき頭脳循環へと変化しつつあるのだ。

来日エンジニアは脅威か?

 では、この潮流は日本人エンジニアにとって脅威なのであろうか。

 その答えはYESであり、NOでもある。もちろん、国籍問わず優秀なエンジニアが増加することは、直接的には人材マーケットにおいて競争が激化することを意味する。しかしながら同時に頭脳循環は、日本国内で雇用元となる企業にも影響を与える。

 従来、あいまいな基準で対応してきた人事評価制度というものを、今後は国際会計基準のごとく、国内にあってもグローバルに通用する基準で明確化していかなければ優秀な人材は獲得できないためだ。

 このことは個々のエンジニアにとっても国内にいながら、グローバルな基準で自分のキャリアの棚卸しをし、自己評価していくことができるようになる、ということなのだ。もちろん、この潮流の中でキャリアを展開するためには、自らの「あるべき姿」を深く考え、また確固たる個人の自立というものが非常に重要になるだろう。

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