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エンジニアは技術だけでは幸せになれない
“自分戦略” で自らの軸をつくれ!


下玉利尚明
2003/5/23

「何を学べばいいのか」「この先、どんな分野や方向を目指せばいいのか」「どんなエンジニアになればいいのか」。@ITが行った読者調査から、エンジニアの置かれた厳しい状況が浮かび上がる。その大きな悩みに対してどんな解答があるのだろうか。その“解”を求め、稚内北星学園大学 丸山不二夫学長とアットマーク・アイティ 代表取締役 藤村厚夫が熱く語る。

  エンジニアの抱える漠然とした不安とは
スキルやキャリアのパスが見えないこと

 @ITが実施した「Engineer Lifeフォーラム 第4回 読者調査」によると、実に90%以上のエンジニアが自分の将来に不安や危機感を感じているという。調査に答えてくれたエンジニアの年齢層は20代後半〜30代前半。入社して5年程度たち、現場での経験もそれなりに積んだ。しかし、ふと冷静になって自分自身を見つめ直す。いまのままのスキルやキャリアで、将来もエンジニアとしてやっていけるのだろうか……。

 そんな不安を抱くエンジニアを、アットマーク・アイティ 代表取締役 藤村厚夫は「第2の自我の目覚め」と呼ぶ。

稚内北星学園大学
学長 丸山不二夫氏

1987年に稚内に移住し、日本で初めて、UNIX、C、ネットワークを中心とする情報教育を開始する。その後も、「最北端は最先端」をモットーに、新しいIT技術にいち早く対応した、先進的なIT教育を展開。近年では、Enterprise Javaやネットワーク、ブロードバンド上での映像コンテンツの制作・発信の教育に力を注いでいるという

 エンジニアの多くが、将来に対して漠然とした不安を抱えるのはなぜだろうか。その要因として藤村が挙げるのは、「技術革新の大波の中で自分のスキルアップ、キャリアパスに関して明確なビジョンを描けていない」ことだと指摘する。そしてそれを考えることこそが自分戦略だという。それがないからこそ、何を学び、どこへいけばいいのかも分からなくなる。

 アットマーク・アイティは、そうしたエンジニアのビジョン(つまり自分戦略)策定、そのためにどんなキャリアやスキルが必要か、そして実践方法などの「エンジニアの指針となる」記事やサービスの場として、@ITとは別のWebサイトである「@IT自分戦略研究所」を立ち上げた。

 稚内北星学園大学は15年ほど前からUNIX、C言語、ネットワークなどITの技術教育を展開。当時はカリキュラムにUNIXやC言語を取り入れている大学は少なく、UNIXやC言語教育の先駆者としての役割を果たしてきた。現在も技術進化の速いIT業界で活躍できるエンジニアの育成を目標に掲げ、JavaやLinux、ネットワークといった「現実のIT現場で役立つスキル」を中心とした教育を実践している。

 そんな両者の共通の課題とは何だろうか。

  エンジニアは「高く飛べ!」
技術全体を見渡せる視点を持て

藤村 エンジニアにとって有益な情報とは何か。その視点で新しい技術に関する情報を中心とした記事やサービスを展開してきたのですが、冷静になって振り返ると、“技術に翻弄されるエンジニアの姿”が見えてきたんですね。

アットマーク・アイティ
代表取締役 藤村厚夫

アスキーで『netPC』『アスキーNT』編集長を歴任。その後、ロータスに転じ、マーケティング本部本部長に就任する。同社退社後、アットマーク・アイティを設立し、現在に至る。最近の関心ITテーマは、「リソース・バーチャリゼーション」。サービス指向アーキテクチャへの転換が、ビジネス社会へ与えるインパクトを1人で思案中という

 技術を追いかけ続けているだけでは、エンジニアは「幸せ」になれません。かといって技術を追いかけないわけにもいきません。技術革新の波の中に身を置きながら、将来に対する明確なビジョンを見いだせるようにしたいと、エンジニアは思うわけです。

 そのために、私たちは何をすべきかと考えました。その解答が“自分戦略をつかめ”というスローガンであり、@IT自分戦略研究所の創設であったわけです。

 大学という現場でも将来を担うエンジニアに対して“いま、何を学ばせるか”が大切な課題になると思われますが、どういった視点で変化の激しいIT教育のカリキュラムを編成しているのですか。

丸山氏 エンジニアを目指す学生に対して、現在の時点でどのような技術を学ぶべきかを示すことは、IT教育を進める大学にとって、最も重要な課題です。

 技術とは常に進化し続けるもので、エンジニアは新しい技術におくせず、自分のものにするという気風が大切です。それが嫌ならほかの仕事をした方がいいかもしれません(笑)。ただ、次々に生まれてくる技術の中から、何をどう学ぶべきかを判断するには、技術の流れ全体を見渡せる力が求められます。

 全体を見渡すには最先端の技術を知らなければなりません。なぜなら、最先端を知る、いい換えると“高く飛ぶ”ことでIT技術全体を俯瞰(ふかん)できる高い視点を持つことが、ある程度可能となるからです。稚内北星学園大学は、社会が必要とする実践的なIT技術の現実的な配置を見渡して、“高く飛ぶ”ことを基本コンセプトにカリキュラムを編成しています。

 どうやらエンジニア(エンジニアを目指す人を含めて)の課題は、技術を全体から俯瞰した中でとらえ、進むべき道を決め、それによって学ぶべき技術を知ることにありそうだ。では、それをどうエンジニアに伝え、示すことができるのだろうか。それが両者共通の課題である。

  蓄積される知識と
蓄積せずに変化する知識

 “高く飛ぶ”ことを基本コンセプトに、稚内北星学園大学はどのようなカリキュラムを編成しているのだろうか。丸山氏は「うち(稚内北星学園大学)では、ある学生が入学した年と卒業した年では、まったくカリキュラムが異なっていることが起こるんです」と笑いながらいう。

@IT自分戦略研究所編集部からのお知らせ
9月30日(土)、オフラインイベント「@IT自分戦略研究所 MIX」を開催します。本記事に登場していただいた稚内北星学園大学の学長丸山不二夫氏も出演します。皆さんのご参加をお待ちしています。

 技術革新に対応するため、毎年カリキュラムを編成し直しているためだ。「大学は一般的に世代から世代へと知識・情報を伝えるものです。多くの知識は世代とともに蓄積します。数学や物理学は、こうした「蓄積的な和」の典型です。また、例えば、『源氏物語』の学問的な成果も蓄積されるでしょう。一般の技術も基本的には同じなのですが、技術的な知の中には、蓄積せずにがらっと変化してしまうものもあります。IT技術もそうした変化の激しい知識の1つです」(丸山氏)と語る。

 しかし、最新技術ばかりを追いかけると、それはそれで目先の技術に翻弄されてしまうことになる。技術を追いすぎてしまうとカリキュラムを次々に変えなければならない。かといって、カリキュラムを固定化すれば、学生が卒業するころには学んだ技術は陳腐化し、現場で役に立たないエンジニア志望者を輩出してしまう可能性がある。

 このジレンマを解消するため、稚内北星学園大学は技術のとらえ方を変えたという。

  ITの世界のみで考えない
それが進むべき道のヒントに

 個別の技術(例えばJavaやネットワーク)だけに着目するのではなく、その技術がどのような方向に進みつつあるかの展望を一方の軸の切り口として、カリキュラムを編成したのだ。稚内北星学園大学ではこうした展望を「メディア統合」とし、国内の大学で初めてとなる「情報メディア学部」を創設した。

丸山氏 新聞、書籍、電話、テレビといったさまざまなメディアや経済活動が、今後高速のネットワーク上で統合・融合されていくという展望は、相対的には長い寿命を持ち得ると思うのです。

 そこで利用される個別技術、例えばJavaや個々のネットワーク技術は変化しても、こうした基本的な方向性・パースペクトさえしっかり把握していれば、新しい技術をどう学び、どう活用すればいいのかは理解できると思うのです。エンジニアとしての方向性を見失ってしまうこともないはずです。メディアの統合を一本の軸に据え、それに付随するさまざまな問題を大学としては教えていければと思います。

 稚内北星学園大学では、IT技術中心の「メディアとソフトウェア」のほかに、「メディアと表現」「メディアと社会」といった“系”を設定しています。とはいえ、メディアばかりに注目すると、今度は技術から離れてしまうことになってしまいます。逆にITという視点のみで考えると、どうしても視野が狭くなってしまうんですね。

藤村 カリキュラム編成に当たっての技術のとらえ方、つまり、視野が狭くなるという指摘は、現役のエンジニアがキャリアパスをどう考えればいいかを考える際の参考になりますね。エンジニアはどうしても自分の得意分野、狭い範囲で考えてしまいがちです。むしろ、“ITの世界のみで考えない”という思い切った提案が、いまのエンジニアに対して“進むべき道”を示すヒントになるかもしれませんね。

 ちなみに稚内北星学園大学では、毎年サマースクールを開校し、現場でエンジニアとして活躍している人たちなどを約200名受け入れ、同大学で学習できる環境を提供している。また、来年春には東京にサテライトスクールを開設して、社会人が東京で働いたまま、同大学に編入できるようにするという。3年生への編入過程では、JavaやOracle、Cisco、Linuxなどのエントリレベルの資格取得に対応したコンテンツで、ITスキルを基礎から幅広く学習できるようにするという。そして4年生では、Enterprise Javaや新しいネットワーク技術を深く学習できるようにするという。また、卒業論文・卒業制作に当たる「総合研究」を必修化して、特定のテーマを選択して研究させるという。

 「技術の進化を考えると学生だけでなく、現場で活躍する社会人のエンジニアであっても、大学に立ち戻り学習できる環境を整備することは、大学の社会的使命」(丸山氏)という考えからだ。

  専門志向ばかりではない!
広い視野を持つキャリアパス

 学生、社会人、現役のエンジニアにとっては、「何をどう学べばいいのか」は大きな課題だ。どうすればそれが得られるというのだろうか。

藤村 (前述の)読者調査では、不安感・危機感を抱いている90%以上のエンジニアは、必要と思われるスキルを自分で学習して身に付けると回答しています。その人たちに手を差し伸べるようなアプローチの仕方を考えていこうと思っています。

 自分のやりたいことと会社の方向性の違い、ミスマッチにより自分が将来的にどの方向に進むべきかを悩むエンジニアは多いのですが、その人たちは会社に所属しながらも自ら学び続けようという意欲はとても高い。稚内北星学園大学や@IT自分戦略研究所が、そういったエンジニアに対して「何をどう学ぶべきか」といった明確なメッセージを発信できればと考えています。

丸山氏 これまで、「専門性を高める」という漠然としたスキルマップに従って専門性の階段を「上へ上へ」とステップアップしていくことが、少なくないエンジニアの共通志向だったように思えます。ただ、いまは違います。CIOのように、経営的に重要な判断を技術的な側面から下すことができる人材へのニーズは、ますます高まるでしょう。

 ですから、エンジニアとしてITに隣接する異なる職種へと「横に動く」という選択肢もあると思うのです。「上」だけではなく「横」への広がりも視野に入れ、広い意味でエンジニアとしての位置付けを俯瞰できる「パースペクト」を提示することが、エンジニアに重要なことだと思います。

 エンジニアの多くは、自分がどこに位置していて、この先、自分にどういった可能性があるか分からないという状況にある。それでは何をどう学ぶべきかも分からない。そのためには、エンジニアとしてのビジョン(自分戦略)を立てることが重要となる。しかし、エンジニア全体を見渡せなければ、どうなりたいかも見えにくい。そのための尺度が、エンジニアの位置付けを俯瞰できるパースペクトになりそうだ。

 丸山氏の横に動くという指摘は興味深い。横に動くとは、ある特定技術のエンジニアが違う技術分野を究めることだけでなく、エンジニアとは異なる職種などに移ることをも意味するからだ。

藤村 ITに隣接する職種をも視野に入れて将来への可能性を示すことは、@IT自分戦略研究所の大きな役割になるかもしれません。そのためには、エンジニアに自分の「いまのポジション」を明確に示すことが大切だと思っています。自分が、IT関連業界の中で(現在)どこに位置していて、そのスキルやキャリアを他業種も含めてどのように生かせるのか。それが理解できれば、キャリアパスをぐっと広い視野で考えることができる。そう、エンジニアのキャリアパスと幅広い職業を踏まえた、広いマトリックスのようなものを提示できればいいですね。

丸山氏 私どものサマースクールでは、スクールの最初に「DNSを構築したことがありますか」、というような簡単なアンケートを取っています。それによって、各人のスキルレベルを把握し、グループ分けの参考にしています。

 それと同じように、「エンジニア自己評価テスト」のようなものを作ってみると面白いかもしれませんね。とはいえ、普通の試験では面白くないし、あまり意味がありませんけど。受験したエンジニアがスキルやキャリアを明確に把握できて、そこから、どういった方向に進めばいいのかの指針を持てるような……。そう、それがパースペクトですね。

 もちろん、こうしたパースペクト、エンジニア自己評価テストという構想は、エンジニアの能力を示すものではない。そこは誤解してはいけないだろう。エンジニアのスキルやキャリアを測る絶対的なメジャー(物差し)ではない。あくまで、エンジニアの仕事を俯瞰できる、そうした尺度でしかないからだ。

  ビジョンが見えてくることで
目標達成の課題も明らかに

藤村 漠然とした不安を抱えているエンジニアも、自分戦略、つまりビジョンが見えてくれば、その目標達成のための課題が明らかになると思います。すると次のステップは、課題を1つ1つクリアしていく具体的なアクションになるはずです。いまは、エンジニアが自分がどこのポジションにいるのかが分からない状況です。つまり、自分の「出発点」を客観的に把握できない。出発点を明らかにするには、自己評価が必要で、その意味で、「エンジニア自己評価テスト」のようなスキームが求められているかもしれませんね。

丸山氏 自己評価ができる仕組みは重要でしょう。客観的に自己を見つめられれば、目標、あるいは夢の実現がリアリティを帯びてきます。協力してスキルを客観的に判断できる自己評価やメジャー、そこを出発点としてキャリアパスを見通せるようなコンテンツを作れればいいですね。もちろん、日々更新される新しい技術への豊かな情報アクセスを保証して、その分野での再教育を受ける機会を簡便に提供するシステムを前提としているのですが。稚内北星の東京サテライトは、その一歩と考えています。

 両氏の意見は、「エンジニア自己評価テスト」というように、エンジニアが現在のポジションを確認できるスキームを作ろうということで一致した。ただ、「自分のポジションを認識させるだけ」というのでは、@IT自分戦略研究所は役割を果たしているとはいえない。エンジニアとしての位置付けを踏まえたうえで「上に」、もしくは「横に」一歩踏み出すための「動機付け」を与えることも重要になる。

藤村 多くのエンジニアは特定の技術に縛られ、その世界でもがき苦しんでいます。1つの技術を深く掘り下げることも重要だが、同時に別の世界にも足を踏み出せるということを知らしめて、エンジニアを勇気づけたい。それこそが自分戦略研究所の大きな仕事の1つだと認識しています。

丸山氏 自分の位置を明確にできる仕組みを提供することで、エンジニアは新たな「出発点」をつかめます。まずは、それが大切でしょう。ポジショニングの次には、方向性を示し、最終的にはいろいろな側面から技術者の「エンカレッジ」、つまり勇気付けができればと考えています。企業や大学などの教育機関を含め、「ポジショニング」→「方向性を示す」→「エンカレッジ」といった仕組みを提示しようとしているところはあまりないでしょう。両者の協業は、それだけに意味がありますね。稚内北星学園大学は、技術的な方向付けで貢献できると思っています。

 最北の地で最先端のIT教育を目指す稚内北星学園大学と東京でエンジニアの自分戦略立案をサポートするアットマーク・アイティ。両社の共通の思いは、エンジニアの将来をサポートすることでつながっている。エンジニアが両者から今後何を得られるのか、それを注意深く見ていきたい。

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