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現場にメンタリング制度を導入する&改善する

新人を“10年後も生き残れるエンジニア”に
育てる育成プログラム

金武明日香(@IT自分戦略研究所)
2010/10/12

NTTコムウェアは、新入社員の社内教育として「メンタリング制度」を導入している。メンタリング制度を導入して8年近くが経過し、メンタリング制度の良さと問題点が見えてきた。教育担当者に、メンタリング制度の運用ノウハウを語ってもらった。

 NTTコムウェアは2009年、新入社員育成のために採用してきた「メンタリング制度」を一新した。

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 目的は「10年先でも生き残れるエンジニアを育成する」ため。新制度が始まって1年以上が経過し、目に見える効果が出てきたという。

 長い間メンタリング制度を続けてきた同社が、なぜ制度の見直しを行ったのか。従来の制度の問題点はどこにあり、どう改善を行ったのか。総務人事部HCMセンタ 担当課長の三尾和幸氏、現在メンターとして活躍しているCRM&ビリング・ソリューション事業本部の金子朝輝氏に、「新入社員を教育するメンタリング制度」の運用ノウハウを聞いた。

OJTとメンタリング制度は何が違うのか

 そもそも、「メンタリング」とはどのような育成方法なのだろうか。国際メンターシップ協会は、メンタリングについて、下記のように定義している。

「知識や経験の豊かな人々(=メンター)が現時点で未熟な人々(メンティ)に対して、キャリアや心理・社会的な側面から継続して行う、キャリア成功を目的とした、一定期間の支援行動」

 「日々の業務の中で、先輩が後輩を指導する」。こういうと、OJTと何が違うのだろう、という疑問がわく。だが、両者は教える目的と教える範囲が異なっている。

 OJTでは、先輩はあくまで後輩の「仕事面」について指導を行う。コーディングやメールの書き方など、目的はあくまで「業務の成果を向上させること」にある。

 だが、メンタリングは仕事面の指導だけにとどまらない。メンタリングは「メンティの自主性を引き出し、不安感を取り除き、自主的なスキル習得を目指す」ことを目的とする。メンターは、仕事に関する指導はもちろんのこと、メンティに向けて悩み相談やキャリア全般の助言などを行う。メンターは、指導者でありながら同時に支援者なのである。

メンタリング制度を継続して見えてきた「3つの問題点」

 同社におけるメンタリング制度の歴史は古い。まだ日本で「メンタリング」という言葉がいまほど一般的でなかった2002年に導入し、今年で8年目になる。新入社員1人につきメンターとして指導社員を1人割り当てる、マンツーマンの制度として始めた。

三尾和幸氏
NTTコムウェア 総務人事部HCMセンタ
担当課長 三尾和幸氏

 導入当時からメンタリング制度の方針を変えてこなかった同社だが、2009年に入ってから大幅に制度を改善した。その背景には、「メンタリング制度を継続して見えてきた問題点」の存在がある。

 メンタリングは、新入社員が入社してから2年間、継続して行う。メンターが新入社員の面倒を見て、上位層の「コーディネータ」と呼ばれる役割の人間が、研修全体のスケジュールや目標の設定を行う仕組みだ。

 制度の見直し以前、メンターを担当していたのは主に40代、係長クラスの人間だった。「仕事全体を見通せるポジションとして適切」との判断からだ。上位ポジションであるコーディネータは、40代後半の課長層が担当した。

 三尾氏は、従来のメンタリング制度の問題点を3つ指摘する。

  • 時間の問題

  • 年齢差の問題

  • 情報共有の問題

 まず、「時間」の問題が大きかった。係長クラスの人間は役職的に仕事が忙しく、新入社員の教育に十分な時間を割けなかったという。

 そして、「年齢」の問題だ。メンターは40代が中心であるため、新入社員と20歳以上の年齢差があった。「40代は、『まずは経験』と鍛えられて育った世代です。だから、『支援する』という発想にはなかなかいかない」と、三尾氏は指摘する。もちろん、年代差は悪いことではない。年齢が離れているからこそ、学べるものは多い。だが、「気軽に相談する」という雰囲気ではなく、新入社員側からは「もっと相談しやすい人が身近にいてほしい」という要望があったようだ。

 さらに「情報共有」の問題があった。

 「メンターが1人付いているということは、良い面も悪い面もありました。メンターが新入社員の指導について責任を持つ、という点では良かったです。しかし、同時に『メンター以外』の人が新入社員に話し掛けづらくなる、という問題がありました」

 「メンター以外が新入社員に話し掛けづらい」という状況が習慣化すると、新入社員はチーム内で孤立してしまう。また、個人が指導すると、どうしても指導内容にばらつきが出る。マンツーマンということは、すなわち「個人への依存度が高い」ということだ。メンターの不在時や異動などのときに、うまく対応できないこともあったという。

メンタリング制度を改善する

 上記のような問題は、メンタリング制度を受けた新入社員へのアンケートの結果、見えてきた。そこで同社は、2009年にメンタリング制度を一新した。

若手社員をメンターに指名する

 まず、メンターの年齢層を引き下げた。新制度において、メンターは入社4年目以降の若手社員が引き受ける。これまでメンターをしてきた世代は「コーディネータ」となり、これまでの経験を生かしながら新しいメンターの補助を行う役割に回った。このことは、2つの良い変化をもたらしたという。

 「年が近いということで、新入社員が業務以外のことを相談しやすくなったようです。これまではメンターは『上司』でしたが、いまではメンターは『先輩』ですから。また、メンター側も、育てる立場に回ることで、一緒に成長できている。若手と新入社員が相互に成長してくれています」と、三尾氏は語る。

チーム全体で面倒を見る「ファミリー制度」

 そして、メンター1人が行っていた指導を「チーム制」にした。新入社員が所属するチームメンバー全体を「ファミリー」と呼び、ファミリー全体が新入社員の育成に当たるようになった。ユニークなのは、それぞれのメンバーに「祖父」「父親」「兄弟」「姉妹」などの役が割り当てられていることだ。コーディネータは父親、メンターは母親として、役割を定めてサポートを行う。

 また、ファミリー以外の相談者として、別の課で働く「エルダー」も存在する。エルダーは仕事上ではあまりかかわることがないが、その分「外からの視点」を新入社員やメンターに提供する役割だ。ファミリー制度は、あくまで「推奨モデル」だが、多くのチームが採用しているという。三尾氏は、「ファミリー制によって、メンターの負担を軽減できます。また、チーム内で情報共有するため、不測の事態にも何かしらの対応が可能になりました」と、ファミリー制の有効性を強調する。

メンター同士の情報共有を強化

 「指導内容」の差は、「情報共有」の仕組みを構築することで改善した。メンター同士が3〜6人ごとにチームを組んで、指導方法や内容について情報を共有するようにした。ノウハウだけではなく、教育に関する「意識の共有」こそが重要だと、三尾氏は指摘する。意識共有のために、各チームは「3つのやるべきこと」を決めて、その3カ条を意識しながらメンターは指導に当たる。3カ条を書いた紙は常に携帯しており、週1回はメーリングリストで実際に実行しているかどうかを確認し合うという。

 ノウハウを「見える化」することで、次にメンターとなる社員に情報を引き継げる。情報共有の仕組みは、「教育方針の統一」「ノウハウのドキュメント化」「メンター同士の相談」という点で効率が上がった。

若手メンター側の意見「自分も成長するとはこういうことなのか」

 金子氏は、2009年から、メンターとして新入社員を指導した。メンターになったきっかけは、上司からの推薦だった。ただ、本当にメンターをやれるのかどうか、不安があったという。

金子朝輝氏
NTTコムウェア
CRM&ビリング・ソリューション事業本部
金子朝輝氏

 「新入社員は、メンターの人となり、信頼するに足る人物かどうかをとてもよく観察しています。だから、自分が信頼してもらえるかどうか、プレッシャーがありました」と、金子氏は振り返る。

 人に教えるということは、教える内容を自分が実行できていなければいけない。口だけの人にならないよう、金子氏は教える仕事内容をあらためて勉強し直したり、社会人としての見本となるような行動を考えたりしたという。一番気を付けていたこととしては「愚痴を吐かない」ことだそうだ。

 「人に教えることで自らも成長するとはこういうことなのか、と実感しましたね」

 実際にメンターをやってみて、難しいと感じたところもあった。相談をいつでも受けられる態勢を取っている分、新入社員との「距離感」がなかなか難しかったという。一度、距離感を見極めきれずに失敗したことがあった。新入社員ができるかできないかぎりぎりのレベルの仕事を任せてみたところ、新入社員側が「せっかく任せてもらったのに」と悩んでしまい、相談してこなかったのだという。

 「仕事には期限があります。なるべく1回は考えてもらいたいので基本的にはお任せなのですが、どこで手を出せばいいのか、そのタイミングが難しい」と、金子氏は語る。

“10年後でも生き残れるエンジニア”の条件

 新しく始めた制度は、多くの新入社員から高い満足度を得ている。この制度が目指すものは何なのか。

 「わたしたちは、『即戦力』の社員を求めているわけではありません。そもそも、即戦力が必要なら新入社員を採用しない」と、三尾氏は断言する。

 同社のメンタリング制度は、「自ら考える」社員の育成を目指している。昔は仕事量をこなせば「仕事ができる」と認められたが、いまは「顧客の要望に柔軟に対応できること」が、エンジニアに求められるようになってきている。いつも指示を出せば、仕事は早くできるようになる。だが、そうして育ったエンジニアの多くは「指示がなければ動けない」人間になってしまう。自分で考えられること、これが「これからのエンジニアの条件」だと三尾氏は語る。

 「ただいわれたことをこなすのではなく、柔軟に判断できる人になってほしいのです。そうでないと、10年後に生き残れるエンジニアにはなれない」

 そのため、同社のメンタリング制度では「すぐに効果が出る」ことをあまり重視していない。最初はすぐに成果が出なくてもいいから、自分で考えて行動してもらうようにしているという。長期的に見ると、「急がば回れ」の教育方法が「自分で考える人を育てる」目的には近道となるからである。

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