第2回 ITエンジニアの行く先にあるものとは
千葉大輔(@IT自分戦略研究所)
2006/9/29
現在ITエンジニアという職業は3Kといわれ、若者の間では人気が落ちてきている。さらにエンジニアリングの世界から離れてしまうITエンジニアも増えているという。@IT自分戦略研究所はこの事態を見過ごすことはできない。そこでITエンジニアの価値や生活を向上させるヒントを探る。 |
ITエンジニアがキャリアパスを考えるとき、どうしてもプログラマを下位と見なして、上位のSE、プロジェクトマネージャに進むといった「ピラミッド構造」を考えてしまいがちだ。確かに、自分がこれまで磨いてきたスキルや経験を、最大限に生かす方向にキャリアを考えるのが自然だ。しかし、ITエンジニアが持っている可能性はもっと広いのではないだろうか。
図1 ITエンジニアのキャリアパス |
最近、IT業界から別の業種に移ろうとする人が増えているという。ある転職サイトの中堅幹部は、「コミュニケーションスキルなどのビジネススキルに秀でた人であれば、他業種でもさまざまな転職先はあります。最近はITエンジニアからほかの業種への転職が流行ですから、希望する方は多いですね。ただ、実際に転職できる人というのは少ないですね」と語る。
もし仮に、ITエンジニアが別の業種に移ったとき、それまで培ってきたスキルや経験はどのように生きてくるのだろうか。実際にITエンジニアからキャリアチェンジをし、活躍している方に話を聞き、ITエンジニアのキャリアパスとその可能性を考えてみよう。
■ITエンジニアが持っている資質
ITエンジニアが持っている能力の1つとして「論理的思考」が挙げられるのではないだろうか。システムを構築する際にはもちろんのこと、トラブルが起きたときの問題点の切り分けや分析など、多くのITエンジニアが普段の業務でその能力を発揮している。
グロービス経営大学院大学 主任研究員 平井達也氏 |
論理的思考やマネジメントに関する教育カリキュラムを提供しているグロービス経営大学院大学 主任研究員 平井達也氏は、「確かにプロジェクト管理などの問題解決の下流部分には非常に強い。物事の分解や整理、構造化が得意なITエンジニアは多い」と話す。一方で「ITエンジニアにも弱い部分がある」という。
「私が見てきた中で、相手との共感を得るコミュニケーションや、問題解決能力の『そもそも』を考える部分が弱いと感じている」と平井氏は指摘する。
平井氏は、論理的思考について「論理的思考は、コミュニケーション能力と問題解決能力の2つの要素に分けられる。これらはどんな場面でも汎用的に使える能力だ」と話す。
ここでいうコミュニケーション能力とは、人に自分の考えを伝えて相手の納得や共感を得たり、相手が考えていることの真意や背景をくみ取ったりする力である。また、問題解決能力とは、「そもそも何が問題か」という問題の本質をとらえる力を指すという。
これらの能力を伸ばすには、次のような方法が有効だという。「自分の考えを伝える場合、3つくらいのポイントに整理すること。また、問題を解決するときはすぐに手段を考えずに、複数の視点から問題の原因を探ること。これらを普段から習慣として行うと変わってくる」と平井氏は話し、「弱い部分や足りない部分を補うことで能力は伸びる」と付け加えた。
■起業は目的ではなく手段
キャリアチェンジの際に以前の仕事の経験が生きてくるという話を聞く。では、ITエンジニアがほかの職業に就いたときにそれまでのエンジニア経験がどのように生かされるのだろうか。実際にITエンジニアから別の職種に活躍の場を移した人から話を聞いた。まず1人目はウルシステムズ 代表取締役社長 漆原茂氏だ。
漆原氏は東京大学工学部卒業後、沖電気工業に入社。沖電気工業在籍中にスタンフォード大学に留学。大規模基幹系業務システムや先端のインターネットビジネスシステムの開発を多数手掛ける。2000年7月にウルシステムズを設立した。
ウルシステムズ 代表取締役社長 漆原茂氏 |
漆原氏は「自分はITエンジニアから経営者になったが、自分の中でキャリアを変えたつもりはまったくない」と強調する。漆原氏にとって経営者になったことは「目的ではなく手段」だという。「ITエンジニアとして仕事をしていく中で、お客さまに本当にご満足いただけるITを提供したいという思いが強くなっていった。そのためには中立の立場で提案・支援する必要がある。自分が納得できる仕事をしたいと思って会社を興した」と漆原氏は話す。
「やりたいことを突き詰めていったらいまのようになった。やりたいことは何も変わっていない」
ITエンジニアとして活躍してきた漆原氏だが、その経験が経営というフィールドではどのように生きているのだろうか。漆原氏は「プロジェクトマネジメントと会社の経営は、一緒とはいえないがベースの部分は応用できる」と話す。例えば、リスクを把握し、そのリスクにどう対処するかといった「リスクマネジメント」など似ている部分はあるという。
また、ITエンジニアという枠を超えて「顧客との信頼関係の構築や、価値を認めてもらいお金に変えるといったビジネスの根幹となる部分は、ほかの職業と一緒だ」と付け加えた。顧客から学ぶことは非常に多い。顧客といかに良い信頼関係を築いて仕事をしていくのか。ITエンジニアに限らず、どんな職種や業界でもそのビジネスの基本は変わらない。
「技術は、お客さまのビジネスの役に立ってこそ価値が生まれる。きちんと価値を提供できれば、信頼関係は構築できる」
漆原氏は、ITエンジニアが技術に立脚した会社を経営する場合に、良い点が2つあるという。1つ目は「現場とのつらさの共有」だ。「売り上げや利益を挙げること以外に、現場を理解していることが重要。現場を知っているからこそ、現場と痛みを共有できる」と話す。2つ目は「技術の可能性の共有」だ。「中長期的にどんな技術が面白いのかを分かったうえで、未来への可能性や夢を語れること」だとした。
ITエンジニアがほかの業種で生かせる能力を挙げながらも、漆原氏はITエンジニアに「キャリアチェンジはしてほしくない」と話す。
「私自身、技術屋の発想はすごく自由だと思っている。誰かにいわれたとおりではなく、自分たちが考えた新しいアイデアで新しいことをやりたいと思う人がいるだろう。それを突き詰めたら起業という形になるかもしれない」
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