第2回 イナバ君、簿記を覚えてパン屋さんの決算書を作る
日本公認会計士協会準会員
小澤文子
2008/5/23
企業の情報システムにおいて、各種業務システムと会計システムとの連携は重要であり、ITエンジニアが会計システムに触れる機会も多いのではないでしょうか。本連載では、基本的な会計知識を解説します。ITエンジニアとして会計システムに携わった経験のある筆者が、ITエンジニアに役立つ簿記・会計の基礎知識をお伝えします。会計システムにかかわらないという人も、簿記・会計に親しんでいただければと思います。 |
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今日はまず、前回のおさらいから始めましょう。前回の「パン屋さんの貸借対照表を作ってみよう」では、次のようなことを学んだのよね。
・企業が行う「会計」とは、企業の経済活動をお金の視点で表現したものである。
・企業は、「決算書」を作成することにより、その経済活動の結果について企業外部の人たちに報告をする。
・「決算書」のうち、「貸借対照表(B/S)」と「損益計算書(P/L)」のイメージを押さえる。
前回はブンコ先生がカンタンな貸借対照表と損益計算書のイメージを作ってくれたけれど、僕の大切なパン屋さんのことだもの、自分で作れるようになりたいなあ!
それじゃ今日は、貸借対照表と損益計算書がどのようにして作成されるのか、その過程として仕訳帳と総勘定元帳を作成していきましょうね。
(ひとりごとで)ブンコ先生が「次回のお楽しみ♪」といっていた「簿記」の話は、今回はちゃんと出てくるのかなぁ……。
ブツブツいってないで、さっそく始めるわよ!
登場人物 |
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名前:イナバ君(あだ名はイナバ部長) 立場:新人プログラマ 出身:九州 体重:123kg ウェスト:123cm |
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名前:ブンコ先生 立場:公認会計士の卵 趣味:子ども、動物と遊ぶ 心境:一生懸命なイナバ君が可愛い |
■1.簿記の流れを押さえる
会社の経済活動が最終的に決算書に集約されるために、簿記という技術を使うのよ。簿記には、おおまかに次のような流れがあるの。いま、自分がどこの作業をやっているのか意識しながら、これからの説明を聞いてね。
図1 簿記の基本的な流れ |
おおっ、やっと「簿記」が出てきた! 財務会計で報告される様式が「決算書」、それを作成するための技術が「簿記」……、会計と簿記が、僕の中でようやくつながりました!
正しい決算書を作成するためには、まずは会社の「取引」を識別して、それを日々記録することが大事なの。ところでイナバ君は、東京で一人暮らしをしているのよね? ふだん家計簿は付けている?
一人暮らしを始めて最初の3日ぐらいは付けていたんですが、いまはもう……。
イナバ君には、自分の経済活動を外部の誰かに報告する必要はないから、まあいいか(笑)。でも、企業の経営者ともなれば、そういうわけにはいかないのよ。
そりゃ大変だ、僕にできるかなぁ……。
じゃ、前回設立した「株式会社青りんごの樹」で起こった出来事を使って、記録の練習をしてみましょう。
■2.取引、勘定科目、仕訳
(1)会社の「取引」を分析しよう
会社には、仕入先との取引、得意先との取引、銀行との取引などいろいろな取引があるけれど、簿記でいう「取引」は一般的にいう「取引」とは必ずしも一致しないの。例えば、「営業マンが得意先と新規の契約を締結した」、これは一般的には「取引」ととらえられるけれど、簿記では「取引」とはならないのよ。
ふーん……。簿記の「取引」になるかならないかは、どうやって判断したらいいんだろう?
まずは次の5つのキーワードを、大ざっぱな意味と一緒に丸暗記!
【キーワード】資産、負債、純資産、収益、費用 |
借方(かりかた)に属するもの |
貸方(かしかた)に属するもの |
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貸借対照表の中身 | 資産 |
負債 |
純資産 |
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損益計算書の中身 | 費用 |
収益 |
急に専門用語がいっぱい出てきたぞ! ……あ、前回の貸借対照表と損益計算書に載っていた言葉が、きれいに分類されている! 「借方」「貸方」という言葉がありますが、借りているものと貸しているもの、という意味ですか?
この2 つの言葉の意味を意識する必要はなくて、この後出てくる「仕訳」のための2つの区分、というぐらいに押さえておけばよいでしょう。最初のうちは「左」と「右」って覚えてもいいから(笑)。
「左」と「右」なら、見たままですね。で、簿記の「取引」の判断はどうやって?
そうそう、その説明のためにこの表を作ったんだった! 簿記の「取引」は、さっきの5つのキーワードを使った、次の8つの要素の組み合わせのどれかに当てはまるのよ。
図2 取引の8要素の関係 |
あれ、負債や純資産はさっきまで貸方にあったのに、借方要素の方に「負債の減少」「純資産の減少」って書いてありますよ? 資産だって、さっきまで借方にあったのに、貸方要素に「資産の減少」って……?
そこのところが最初は分かりにくいわよね。資産を例にすると、資産がいつも借方側に出てくるという意味ではないの。資産の“ホーム”が借方側なので、資産が増えたら“ホーム”に、減ったら“アウェイ”の貸方側に出てくるの。
ここで分かりやすくまとめておきましょう。
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