エンジニアのための
Linux認定資格・試験ガイド
第4回 SAIR Linux and GNU認定試験の傾向と対策

中島能和
2002/6/19

Linuxの認定資格・試験について、雑誌やWebサイトで見掛けることが多くなってきた。しかし、Linuxの認定試験というと、まだまだマイナーな印象を受ける。また、まとまった情報を見る機会も少ない。そこで本連載では、Linux関連の認定資格・試験の全体像を提示した後、各資格試験の特徴や傾向などを紹介していく。

SAIR Linux and GNUとは

 SAIR Linux and GNUは、米国を中心に実施されているベンダニュートラルの認定資格・試験だ。試験の対象となる範囲は非常に広く、分野ごとにいくつかの科目に分かれている。SAIRの特徴としては、試験内容が広範囲にわたること、GNUの名を冠する唯一の認定試験であるということだ。ちなみにSAIRは「Software Architecture Implementation and Realization」の略で、「ゼア」と発音する。日本ではアイキュエスが総代理店として試験を実施している。

 SAIR Linux and GNU認定試験は大きく3つの段階に分かれていて、LCA(Linux Certified Administrator)、LCE(Linux Certified Engineer)、MLCE(Master Linux Certified Engineer)の順に難易度が上がっていく(表1)。

レベル1 LCA : Linux認定管理者
レベル2 LCE : Linux認定エンジニア
レベル3 MLCE : Linuxマスター認定エンジニア(開発中)
表1 SAIRのレベル

 各レベルはそれぞれ複数の科目に分かれている。レベル1の場合、試験は「インストールと設定」「システム管理」「ネットワーク」「セキュリティとプライバシー」の4つの科目に分割され、科目ごとに試験が行われる(表2)。

3X0-101 インストールと設定
3X0-102 システム管理
3X0-103 ネットワーク
3X0-104 セキュリティとプライバシー
表2 レベル1の科目

 上記のうち、101試験(インストールと設定)あるいは102試験(システム管理)のいずれかに合格するとLCP(Linux Certified Professional)という資格が得られ、4つの試験すべてに合格するとLCA(Linux Certified Administrator)という資格が得られる。

試験の種類と範囲

 試験はいずれも1時間以内に50問を解答するもので、レベル1の場合、合格ラインは74%となっている(表3)。

試験形式 オンライン試験
試験時間 60分
合格基準 50問の問題に解答し74%の正解率
難易度 やや簡単
受験料 各試験1万6200円(税別)
受験場所 全国のプロメトリック公認テストセンター
表3 レベル1の試験データ

 国内では2001年11月から、レベル1試験の中の101試験(インストールと設定)が日本語で実施されている。102試験(システム管理)、103試験(ネットワーク)、104試験(セキュリティとプライバシー)については、原稿執筆時点では英語でのみ受験可能だが、日本語での受験ももうしばらくしたら受験可能になる予定だ。レベル2試験は現在、英語版が先行で実施されていて、こちらも順次日本語化される予定だ。レベル3試験は英語版を含め、現在開発中である。

 ここではレベル1試験について見ていきたい。まずは出題範囲である。アイキュエスのサイトに詳細な試験情報があるので、受験前に目を通しておくことをお勧めする。一部にやや古い(Red Hat 6.0など)記述が見られるが、実際の試験では昔のバージョンに依存した知識が必要とされることはないので安心してほしい。

 101試験(インストールと設定)では、LinuxやGNUソフトウェアの基本概念、GPLライセンス、PCのハードウェア、インストール手順と基本的な設定、システムの起動と終了、シェルの基本操作、基本的なコマンド、X Window System、ネットワークアプリケーションなどについて問われる。

 102試験(システム管理)では、ファイルシステム、FHS、バックアップ、RAID、ジョブスケジューリング、クラスタリング基礎、ユーザー管理、起動とシャットダウン、カーネルの再構築、システムの監視、ディスク管理、プロセス管理、パッケージ管理、プリンタ設定、ベンチマークなどについて問われる。
 
 103試験(ネットワーク)では、LAN/WAN概論、TCP/IP基礎、ネットワークデバイス、ファイアウォール、ソケット、トンネリング、ネットワークコマンド、DNS、NIS、FTP、samba、Sendmail、POP3/IMAP、Apache、LDAP、NFS、ネットワークツール、ネットワークのトラブルシューティングなどについて問われる。
 
 104試験(セキュリティとプライバシー)では、セキュリティ概論、ファイルアクセス制御、sudo、PAM、TCP Wrapper、VPN、暗号化、ログファイルの監視、Kerberos、Tripwire、監査ツール、サーバソフトウェアのセキュリティ、侵入検知システムなどについて問われる。

 ざっと見ても分かるように、出題範囲は非常に幅広い。SAIRによると、レベル1試験がカバーする範囲をほかの試験と比較すると、LPI認定レベル1はSAIRの59%、RHCE(Red Hat Certified Engineer)は39%程度になるという。サーバやネットワークの知識はもちろん、GNUソフトウェアやクライアントソフトウェアについての知識、ハードウェアに関する理解も必要とされる。

 レベル1試験の難易度は、LPI認定レベル1とほとんど同じだ。試験データには「やや簡単」と書いておいたが、エントリレベルとしては適切な難易度であり、決して易しいわけではない。受験してみた感想としては、奇をてらった出題がされない分、広範で正確な知識が要求されるという印象を受けた。こうした知識はむろん、一夜漬けではとても対処できないが、長くLinuxに親しんでいれば自然と理解していることが多い。そのため、Linuxを古くから使っている人は、それだけで多少有利なのではないかと思われる。まさに「実力が試される」という印象を受けた。

受験方法と試験対策

 試験はプロメトリックの試験センターでのオンライン試験だ(英語版はVUEでも受験できる)。出題形式は選択式である。

 特徴としては、やはり試験範囲が非常に広いことが筆頭に挙げられるだろう。Linuxの認定試験では、現場での需要を反映してサーバ関係、ネットワーク関係の出題が多く見られるが、SAIRではクライアントとしてのGNUソフトウェアの使い方などについても問われる。Linuxを数年以上使っている人には易しいかもしれないが、サーバとしてのLinuxにしか触れてこなかった人には難しく感じられるだろう。

 受験資格は特にない。目安として、半年から1年程度のLinux経験を考えればよいだろう。また、Linuxのサーバ用途以外は不得意という人は、PCへのインストールからクライアント用途としての利用まで、じっくり慣れ親しんでおくことをお勧めする。

 SAIR Linux and GNUの試験対策教材としては、Web上で受けられる「SAIR Linux&GNU認定試験対策模擬試験」がある。これは東和エンジニアリングとアイキュエスが連携して今年3月から実施しているもので、現在下記の4つのコースが実施されている。

・1500円で1回受けられるコース(101〜104試験のいずれか)
・3000円で1カ月間、101〜104試験のいずれか1試験を何度でも受けられるコース
・4500円で101〜104試験をそれぞれ1回ずつ受けられるコース
・9000円で3カ月間、101〜104試験のすべての試験を何度でも受けられるコース

 また、『Linux Magazine』(アスキー刊)で連載されている「Linuxer実力診断テスト」は、アイキュエスによって作成されており、SAIRの出題イメージをつかむための参考になる。

 アイキュエスからは自習用教材も発売されている。これは、テキスト数冊にCD-ROM教材、3カ月間のWeb模擬試験を含めたものだ(8万8000円)。テキストは初心者に配慮したものであり、SAIRの学習を通してLinuxを習得しようという人には最適だが、ある程度Linuxに自信がある人にとっては物足りないように思われる。試験の傾向やレベルを確認したいだけなら、Webの模擬試験だけでも十分だろう。

 英文になるが、海外では試験対策書籍も何冊か出版されているので、それらを用いてじっくり学習するのもよいだろう。

試験終了後

 試験結果は試験終了後すぐに採点され、画面に表示されるとともに、試験結果レポートが手渡される。試験結果レポートにはセクションごとの正解率(%)が表示されるので、どの分野が弱いかを知ることができる。

 試験終了後、特に認定に関する手続きをする必要はない。合格後1〜2週間すると、米国SAIRより認定キットが送られてくる。認定者キットには、合格者の名前と認定試験名の入った賞状と証明カード、SAIRの試験マトリクス図のポスターなどが入っている。

SAIR Linux and GNU認定取得のメリット

 米国では受験者数も多く、一定の評価を得ているといえそうだが、国内では試験開始が昨年11月ということもあり、ベンダニュートラルなLinux認定としては、先行しているLPI認定に知名度で差をつけられている感がある。

 もちろん、認定の意義は、単に資格としてアピールするためだけのものではない。試験対策を通じた学習による技術力の向上という点では、SAIR Linux and GNUはカバーする範囲の広さから、Linuxにかかわるすべての技術者にメリットをもたらすだろう。SAIR認定資格を取得していく過程を通して、オールラウンドにLinuxを使いこなすことのできる技術者を目指してみるのもよいのではないだろうか。これからどのように発展していくかが楽しみな認定資格である。

SAIR Linux and GNU、現在の状況と今後の動向を聞く
アイキューエス代表取締役 饗場金蔵氏

 今回、SAIR Linux and GNU認定試験日本語版を実施しているアイキュエスを訪問し、同社代表取締役の饗場金蔵氏にお話を伺うことができた。

――米国では1998年から試験が始まっていますが、米国で実施されているほかのLinux認定試験と比べて、SAIRはどういった特徴があるのでしょうか。

饗場氏 SAIRを開始したトビン博士は、ミシシッピ大学の情報科学の教授であり、そのため(SAIRには)少し学術的な面があります。また、ディストリビューションニュートラルで、しっかりとした企業レベルのものを開発しています。具体的には、最初に試験範囲の基盤マトリクスをしっかりと定めて、そこから試験を作っていくという形式をとっています。このマトリクスに含まれる情報量の差も大きな違いです。SAIRのマトリクス情報量を100とすると、LPI認定レベル1は59であり、RHCEは39になります。

――SAIRの資格を取った場合、特に国内ではどういうメリットが考えられるのでしょうか。現時点では少し不明瞭な気がするのですが。

饗場氏 段階を追ってメリットを増やしていく計画です。第1段階は「SAIRの認知度を高める」こと。いまはこの段階です。模擬試験や雑誌連載を通して徐々に認知度を高めていきます。また、eラーニングも実施していく予定です。第2段階は「SAIRの価値を高める」こと。SAIR認定資格を取得することによって、具体的に年収がどのくらい上がるか、というレポートを出していきます。米国では年収2万ドルのアップになるといわれています。

――リチャード.M.ストールマン氏の名前がありますが、GNUやオープンソースコミュニティとの関係は?

饗場氏 Linuxは独立したものではない、という考えが根底にあります。GNUはLinuxにとって重要であり、同様に認知されるべきものでしょう。ストールマン氏には顧問委員会へ参加してもらっています。また、試験による収入がオープンソースコミュニティに還元されるようにもなっています。

筆者紹介
中島能和 株式会社クロノス常務取締役。講師としてLinux/ネットワークの研修に携わりつつ、書籍の執筆やエンジニアの採用も手掛けるエンジニア。効率的なLinux教育を模索していたときにLPI認定を知り、Linux関連資格・試験にのめりこんでいるという。



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