エンジニアのための
Linux認定資格・試験ガイド
第5回 RHCEの傾向と対策

中島能和
2002/7/19

Linuxの認定資格・試験について、雑誌やWebサイトで見掛けることが多くなってきた。しかし、Linuxの認定試験というと、まだまだマイナーな印象を受ける。また、まとまった情報を見る機会も少ない。そこで本連載では、Linux関連の認定資格・試験の全体像を提示した後、各資格試験の特徴や傾向などを紹介していく。

RHCEとは

 RHCE(Red Hat Certified Engineer:レッドハット認定エンジニア)は、レッドハットが世界共通で実施している認定資格だ。実務的なスキルを測る実技試験を中心とし、ネットワークサービス分野においてRed Hat Linuxを確実にセットアップして管理する能力がテストされる。内容は、Red Hat Linuxのインストールからネットワークサービスの設定、セキュリティ、システム管理、トラブルシューティングなど多岐にわたる。

 RHCEを取得するには、デバッグ試験(2時間30分)、択一式選択試験(1時間)、サーバ設置およびネットワークサービスセットアップ試験(2時間30分)のすべてをクリアする必要がある。試験内容、難易度、受験費用など、どれをとってもほかの試験とは一線を画している感がある。

試験形式 実技試験および選択式オンライン試験
試験時間 6時間
合格基準 全体で80%以上の点数を獲得し、かつ50%以下の科目がないこと
難易度 難関
受験料 9万円(税別)
受験場所 東京もしくは大阪
有効期間 Red Hat Linuxの2メジャーバージョンアップの間
表1 RHCEの試験情報

試験の種類と範囲

 試験範囲については、レッドハットのWebサイトにある試験内容に詳しく書かれているが、ここで簡単にまとめてみると、次の表2のようになる。

出題範囲
項目
ハードウェアとインストール、初期設定
一般的なハードウェアリソース
ディスクパーティショニング
インストール(ローカル、ネットワーク)
RAID
インストール時の設定要素(LILO、認証、ネットワーキング、システム初期化、パッケージ、そのほか)
ファイルシステム
各種設定ファイル
kickstartによるインストールの自動化
緊急用ブートフロッピーディスクの作成
エキスパートモード
基本的な設定・管理
パッケージ管理(rpm)
ユーザーアカウントの作成
ユーザー環境の設定(初期設定ファイルなど)
システム設定ファイル
ディスククォータの実行
cronシステム
カーネル
カーネル概要(モノリシック/モジュラータイプ、初期RAMディスクなど)
カーネル再構築(カーネルソースと開発ツールのインストール、xconfigでの設定、LILOもしくはGRUBの設定など)
RPMでのカーネルアップグレード
ネットワークとセキュリティ
Apache
Samba
NFS
sendmail
IMAP
BIND
FTP
squid
NIS
LDAP
アクセス制御(xinetd、tcp_wrappers、iptablesなど)
OpenSSH
ルーティング
ファイアウォール
ログ管理
X Window System
Xの概要
XFree86の設定
ウィンドウマネージャとデスクトップ環境
xfs
リモートログイン
リモートクライアント
Xのセキュリティ
VNC
トラブル
シューティング
トラブルシューティング(X、サービス、ネットワーク、ブート)
ファイルシステムのリカバリ
レスキュー環境
表2 試験の出題範囲

 RHCEの出題内容は、Red Hat Linuxの新しいバージョンがリリースされると、それに合わせて改訂される。執筆時点では、Red Hat Linux 7.2に対応している。

試験科目
時間
試験形式
デバッグ試験 2時間30分 実技試験
択一式選択試験 1時間 選択式オンライン試験
サーバ設置試験 2時間30分 実技試験
表3 RHCEを構成する試験

 デバッグ試験は、Linuxが正常に起動しない、特定のサービスが使えない、といった状態のマシンが用意され、指示どおりの状態に修復するまでの実践的なトラブルシューティング試験だ。レスキューディスクを使用することはできるが、ソフトウェアのインストールを行うことはできないので、トラブルの原因を突き止めて修正しなければならない。出題は4問であり、問題を1つ解き終わるたびに、次の問題のためにLinuxが新規にインストールされる。このため、試験時間のうち10分強はインストールの待ち時間になる。出題はランダムに配信されるが、どうしても解けない問題は、1問に限りスキップできる。

 択一式選択試験は、一般的なLinuxの知識と、Red Hat Linux固有の知識についての多問題選択式試験だ。試験はWebブラウザで行われる。全体の7割以上はRed Hat Linuxというディストリビューションに依存しない一般的な内容であり、難易度もそれほど高くはない。

 サーバ設置およびネットワークサービスセットアップ試験は、3ページ程度の試験問題に記された約20項目の要求仕様を満たすサーバを構築する。ApacheやSamba、NFSなどネットワークサービスの設定が半分以上を占める。GUIインストールも可能であり、インストール作業自体は難しくないだろう。

RHAP認定資格について

 2001年8月、RHCEに加えて、新たに「RHAP」(Red Hat Accredited Professional)資格が始まった。これは、RHCEの難易度が高いため、初〜中級レベルのユーザー向け認定資格のニーズが高まったことを受けてのものだ。

 RHAPはトレーニングコースと試験がセットになったもので、試験だけを単独で受けることはできない。UNIXやLinuxの使用経験がなく、コマンドライン操作も不慣れな場合は「RH033」から、UNIXやLinuxの操作の基本を知っていて、ネットワーククライアントとして使えるレベルの場合は「RH133」から、UNIXやLinuxのシステム管理経験がありネットワークやセキュリティのスキルアップを目指す場合は「RH253」からの受講が目安となっている。

RHAP Bronze Red Hat Linux総合コース(RH033)修了者
RHAP Silver Red Hat Linuxシステム管理コース(RH133)修了者
RHAP Gold Red Hat Linuxネットワークサーバ構築およびセキュリティ管理コース(RH253)修了者
RHAPの各資格

 各トレーニングコースは、それぞれ4日間で、費用はいずれも24万円だ。試験はトレーニングコースの最終日に行われ、50問の選択式で、80%以上の正答で合格となる。

受験方法

 RHCE試験は基本的に東京と大阪で定期的に開催されている。実技試験が中心となっているため、どこでも受験できるわけではない。開催日時はあらかじめレッドハットのWebサイトで確認しておこう。

試験の傾向と対策

 現時点では、日本語での書籍や対策教材は市販されていない。受験者の大半は、レッドハットが実施しているトレーニングコースを受講して試験に臨んでいる。

 試験範囲を見て、知識と技術に自信があるなら直接試験を受けてみるとよいだろう。試験は極端に難易度が高いというわけではない。業務でLinuxを扱っていれば、実際に現場で遭遇する可能性の高い問題が多い。レッドハットによれば、数こそ少ないが、上記のコースを受けずに試験だけを受けて合格する人もいるとのことだ。

 入門者向けの標準コースとしては、RH033、RH133、RH253の順にトレーニングコースを受講してRHAP資格を取得し、それからRHCE認定試験に進むというのがある。初級レベルの人が、じっくり時間をかけて技術を身に付けるのに向いている。

 ある程度のLinux使用経験があり、RHCE認定資格を確実に取得したいのなら、RH300(RHCE速習エキスパートコース)を受講するのがよいだろう。筆者もこのコースを受講してみたが、テキストはうまくまとめられており、演習も試験対策として非常に役に立つ。試験対策用のコースということから、RHCE認定試験を意識した講義と演習になっているので、受講者の合格率は格段に上がるだろう。ただし、4日間の講義で試験の全範囲を網羅するので、講義はあくまで知識の確認程度の位置付けで考えたい。初心者が受講しても、まったくついていけないだろう。

試験終了後

 合否については、試験終了から1〜2週間程度で、結果が電子メールで通知される。合格した場合、後日認定証などが送付されてくる。

 なお、認定の有効期限は、Red Hat Linuxのメジャーバージョンアップが2バージョン以内の期間となる。つまり、バージョン7でRHCEを取得した場合、メジャーバージョンが10になった時点で失効となる。国内ではバージョン6から、米国ではバージョン5からRHCEが開始されているので、現時点では失効した人はまだいないとのことだ。

RHCEの意義

 RHCEは、Linuxの認定試験で唯一、実技試験を取り入れている。中でも、とりわけLinuxが多用されるネットワークサーバとしての部分に重点を置いており、試験内容も極めて実践的な内容となっている。また、決して安易に認定をせず、質の高い試験を実施していくというレッドハットの意気込みが、後述のインタビューでも強く感じられた。資格不要論が根強くある中、RHCEは「本当に使える資格」としてのひとつの方向性を示しているのではないだろうか。

RHCEの状況と今後の動向を聞く
グローバルラーニングサービスの織田恒一郎氏

 今回、RHCEを実施しているレッドハットを訪問し、グローバルラーニングサービスの織田恒一郎氏と芳川裕誠氏にお話を伺うことができた。

――受験者にはどのような方が多いですか?

織田氏 割合では技術者が最も多いのですが、最近ではプロジェクトをまとめるマネージャクラスが意外と受講されます。これは、プロジェクトとしてオープンソースを生かすマネジメントをするためのベースを、RHCEを取ることによって身に付けたい、ということではないでしょうか。

――受験者向けの書籍などは、国内では出ないのでしょうか?

織田氏 確かに書籍が出れば受験者、認定者は増えるかもしれませんが、何かを覚えるだけとか、こういう問題が出るとか、そのためだけの(知識のみの)勉強になってしまっては本末転倒になってしまう、ということですね。

芳川氏 われわれが最も避けたいのは、RHCE取得者が現場に入っても「何もできない」ことです。RHCEとして認定した以上、それなりのスキルを持っているという証明を現場でもしていただきたいのです。

――RHCE取得のメリットは何でしょうか?

織田氏 個人として会社の中でやりたい仕事ができるというのでも、会社として顧客に対するアピールに使えるというのでもよいので、取得された方のビジネスに展開してほしい、というのが(RHCEの)一番の目的です。そのために、コンテンツと試験方法を厳格に定めて、確実なベーススキルを持っているということの客観的な指標が出せるようにしています。

筆者紹介
中島能和 株式会社クロノス常務取締役。講師としてLinux/ネットワークの研修に携わりつつ、書籍の執筆やエンジニアの採用も手掛けるエンジニア。効率的なLinux教育を模索していたときにLPI認定を知り、Linux関連資格・試験にのめりこんでいるという。



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