第2回 大事なのはメンバーと徹底的に話し合うこと
スターフィールド 星野幸代
2006/2/1
プロジェクトマネジメントの方法は、各企業によって特徴があろう。さまざまな制限を課せられたプロジェクトマネージャは、どのようにしてプロジェクトをマネジメントしているのだろうか。本連載では、現役のプロジェクトマネージャに登場していただき、実際にどうプロジェクトを進めているのか。またプロジェクトに対する考え方などを伺っていきたい。 |
シークラフト 代表 加藤清二氏は、制御系システムや組み込みソフトウェア開発を長く経験した後、起業した。そんな加藤氏に、プロジェクトマネジメントのコツを伺った。
■プロジェクト推進の実態
星野 御社では、プロジェクト方式での仕事の進め方は浸透していますか。
加藤 そうですね。浸透というより、それこそ営業から納品まで、一連のタスクを1つのプロジェクトと見て業務を行っています。コストマネジメントもタイムマネジメントも、プロジェクト管理に欠かせない要素を自然な形で遂行してきたように思います。
星野 なるほど。プロジェクト管理が、自然な形で無理なく進められているのですね。
加藤 当社の場合、10人月程度の小規模プロジェクトが多いということもありますが、「お客さまとの関係を大切にして、長くお付き合いしたい」ということを前提に、1人のプロマネ(プロジェクトマネージャ)が、最初から最後までプロジェクト全体を遂行します。システム開発にありがちな「仕様の戻り」や「コストの無駄」を発生させたくないからこそ、プロジェクトマネジメントに対する意識を高く持つことが必要だと考えています。
星野 仕様の戻りやコストの無駄という言葉は、確かによく耳にしますね。
加藤 こんなことをいうとにらまれそうですが、長い間、制御系のシステムをやっていたこともあり、「ミスは絶対に許されない」という思いが、Windows系の開発からスタートしたようなエンジニアよりかなり強いと思います。システムダウンはあり得ないからこそ、管理の重要性を感じるんです。
星野 マネジメントするための何かひな型みたいなものは用意されているのでしょうか。
加藤 ひな型は特にありませんが、プロジェクトの数を重ねていくごとに、徐々にブラッシュアップさせています。
■マネジメントスタイルはあるか
星野 加藤さんのマネジメントスタイルについてお聞きしたいのですが、ご自分のスタイルとして、プロジェクト遂行における重み付けをするならば、組織(会社)・顧客・メンバーの3つは、どのような割合であると思われますか。
加藤 そうですね、私の場合は、なんといってもメンバー重視ですね。「適材適所」がプロジェクトを成功に導く大きな秘けつだと思います。1:3:6くらいでしょうか。
星野 組織の割合がとても小さいのですが、少し意外な気もします。
加藤 起業した私が、組織をこんな小さい割合にしてはいけないのかもしれませんね。実際は、プロジェクトの初めはそうですが、作業が始まると、1:6:3、最終的には、顧客に押し切られたりして1:7:2という割合でしょうか。
星野 プロジェクトマネジメント・プロセスの状況により、変化していくのですね。
加藤 はい。私の場合、プロジェクト開始前に徹底的にメンバーと話してから、チーム編成を決めます。最初に、メンバーのスキル・知識や性格など、とことん掘り下げて聞いておきます。
よくこんなプロマネの方を見掛けませんか。メンバーのモチベーションを意識するあまり、本人の希望や提示されたキャリアに委ねてメンバー調達をしてしまう。これは、ともすると工数増大につながり、その結果、お客さまに迷惑を掛けたり、プロジェクトのスムーズな遂行を妨げたりと、とてもまずいパターンだと思います。
星野 それは、プロジェクト立ち上げ時のツボといえそうですね。
加藤 最近はコスト削減を一番に掲げるお客さまが特に多いですから、決められた予算の中でやりくりするためには、とても大切なことです。コストといえば、もう1つ特徴的なスタイルがあります。
星野 それは何でしょうか。
加藤 プロジェクトの開始前に、想定されるすべてのリスクを事前にお客さまに提示するようにしています。工数やコストの増大につながりかねませんが、「お客さまと長くつきあいたい、作り逃げしたくない」ために、そうなってしまうのですね。
星野 作り逃げとは面白い表現ですね。それでは、具体的に加藤さんのご経験の中で、一番印象的なプロジェクトについて教えてください。また、そのプロジェクトでの組織・顧客・メンバーの重みは、どうでしたか。
加藤 あまり細かいことはお話しできないのですが、印象的だったのは、中国オフショア開発のプロジェクトですね。日本人メンバーですらコントロールが難しいのに、中国人という人種を理解することの難しさを痛感しました。それでも、私のマネジメントスタイルを貫きました。結果的に、重みは、先ほどと変わらなかったと思います。
星野 オフショア開発でも、加藤さんのスタイルをしっかり浸透させられたわけですね。
■プロジェクトマネジメントの面白さとつらさ
星野 加藤さんにとって、プロジェクトマネジメントの“面白さ”と“つらさ”はどの辺りにあると思いますか。
加藤 面白さは、自分のスタンスを理解してもらったときに、最高の喜びを味わえるという点です。また、当たり前ですが、プロマネは、プロジェクトリーダーよりもプロジェクト全体を見渡すことができます。だから、苦労も達成感も人一倍です。
私、プロジェクトが終わると、お客さまを泣かせてしまうんですよ。もちろん、私も一緒に泣いちゃいますけどね。
逆に、つらいなと思うのは、メンバーが思っていたように動かない場合です。つまり、「適材適所」と思ったが、それが外れたときです。
星野 そういう場合は、どのように解決していくのでしょうか。
加藤 残念ながら、メンバーに頑張ってもらうしかありません。つらいですけれども、この経験こそが、次回に必ず生きてくるので、なんとか乗り切るように背中を押します。実は、私もメンバーと一緒に、同じ作業をして解決していくことも多いですが(苦笑)
■プロマネの育成
星野 今後、プロマネの育成をどのように進めていきたいと思いますか。
加藤 ほかのプロマネをたくさん見て、多くのスタイルを知って、自分に合ったものを見つけてほしいと考えています。私の場合、どちらかというと経験重視で、PMBOK(the Project Management Body of Knowledge)などの知識はそれなりに大切だと思いますが、むしろ、ほかを見て自分を知ってほしいのです。そのことが、技術に限らず、人とは違う自分の“強み”の発見につながります。
星野 人材スキル体系としてのITSSやETSSについてはどのようにお考えですか。
ITSS:ITスキル標準、IT Skill Standard。経済産業省が2002年2月にIT関連サービス分野における職種と必要とされるスキルを明確化・体系化したもの。ITサービスのプロを教育・訓練する際に有用な“ものさし”を提供することを目的とし、11職種、3段階7レベルで定義しているもの。 ETSS:組み込みスキル標準、Embedded Technology Skill Standard。情報処理推進機構(IPA)が、2005年5月に発表した「組み込みソフトウェア」の開発に必要なスキルを明確化・体系化したもの。日本では、携帯電話機、家電機器、産業機械などの「組み込みソフトウェア」開発者不足が問題となっており、その育成が急務であるという背景から、「組み込みソフトウェア」開発者の人材育成・活用に有用な“ものさし”となるもの。 |
加藤 自分の強み・弱みを知るには、分かりやすいと思います。最近よく、自分がいまいる位置を分かっていない人が多いことに気付かされます。
星野 IT業界における人材マップとして、ITSSやETSSを各人が確認しておく必要がありそうですね。
加藤 それから、マネジメントの勉強の場という意味では、進ちょく会議を参考にしてほしいと思います。スケジュールどおりに進めることの大切さは、みんな理解しているのですが、「会議とはお金を使っている場」であるという意識がないまま参加している人がとても多いのです。
星野 「会議とはお金を使っている場」ですか。もう少し、詳しく説明してください。
加藤 多くの場合、たくさんのメンバーが会議に集まります。その工数を考えるだけでも高いコストが掛かっているのが分かります。お客さまに対しても、この意識を持ってもらい、いかにスムーズに進ちょく会議を進められるかは、マネジメントにおいて大切なポイントです。
星野 進ちょく会議をうまく進めるために、加藤さんご自身の秘けつを教えてもらえませんか。
加藤 私は、会議は報告の場ではなく確認・改善の場でなければならない、という考えを持っています。ですから、会議前にプロマネ自身がメンバーに進ちょくを聞き回るというくらいのスタンスでいます。従って、実際の会議は具体的な問題点などの話し合いの場とするようにしています。
星野 これも大切なマネジメントの大切なファクタになりそうですね。
■プロマネ志望者に伝えたいこと
星野 では、最後にこれからのプロマネ志望者に伝えたいことをお話しできますか。
加藤 プロマネの役割は、「メンバーにいかに気持ちよく仕事をさせるか」です。また、自分なりのスタイルを見つけるために、できるだけ多くのプロジェクトを見ることだと思います。多くのプロジェクトを見ていると、だんだんと人を見る目がついてきますから。
そして最後は、プロマネはメンバーの尻ぬぐいをするぐらいの気持ちで、責任感を持ってほしいなと思います。
星野 貴重なメッセージをありがとうございました。
■インタビューを終えて
気が付くと、インタビューの予定時間を軽くオーバーし、4時間ほどさまざまな話を伺っていました。そんな時間の経過を感じさせなかったのは、加藤氏の気さくな雰囲気と、その奥に秘める熱い想いを感じたからだと思います。
インタビューで発せられた加藤氏の言葉の1つ1つには、どこか自信満ちているように思いました。それは、それまでの氏の長い間の経験によるものであるようです。
顧客とともに涙するのは、かなりつらい思いをされたことの表れであったかと思いますが、それが次のプロジェクトへのバネになっているかのように思えます。
最近では積極的にオープン系の仕事もこなし、当初のキャリアとはまったく別の新しい技術の習得にも臆しないという点は、最後のメッセージである「最後はプロマネはメンバーの尻ぬぐいをするぐらいの気持ち」といった言葉によく出ています。
ともすれば、プロマネの中には、マネジメントスキルに傾倒しすぎて開発作業現場に必要なスキルから遠ざかってしまうひともいますが、加藤氏においてはそれがあまり許されないようです。そして、「メンバーにいかに気持ちよく仕事させるか」というあたりは、プロマネ的な配慮を感じます。
最後に加藤氏は、私に自分の経歴書を差し出しました。細かく記載された13年間の経歴書には、たくさんの思い出が詰まっていることでしょう。もし、私が現役でシステム開発に携わっていたら、こんなプロマネと一緒に仕事してみたい、そう思わせるインタビューでした。
筆者プロフィール |
スターフィールド 星野幸代(ほしのゆきよ) 独立系ソフトウェア会社にシステムエンジニアとして勤務した後に、外資系生命保険会社のシステム部で12年間、プロジェクトマネジメントを経験する。現在は、中小企業のIT化コンサルティングサービスをはじめ、eラーニングビジネス支援を中心とした教育サービス事業を営む。認定プライバシーコンサルタント(CPC)。 |
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