第3回 プロジェクトの意義を問い続ける重要性
スターフィールド 星野幸代
2006/3/1
プロジェクトマネジメントの方法は、各企業によって特徴があろう。さまざまな制限を課せられたプロジェクトマネージャは、どのようにしてプロジェクトをマネジメントしているのだろうか。本連載では、現役のプロジェクトマネージャに登場していただき、実際にどうプロジェクトを進めているのか。またプロジェクトに対する考え方などを伺っていきたい。 |
これまで、お2人の方にプロジェクトマネジメントについて伺いました。今回は私自身が、プロジェクトマネジメント、プロジェクトマネージャ(プロマネ)について思っていることをお話ししたいと思います。
■プロジェクト推進について
私はシステム開発ベンダ、外資系ユーザー企業に勤務した後に独立しました。その間約15年間に、システム開発を20プロジェクトは経験したと思います。外資系の銀行システムから社内人事システムまで、さまざまな開発に従事してきました。プロジェクトに対する意識は、経験とともに高まっていったと感じます。
プロマネになったばかりのころは、周囲を見る余裕などあるはずもなく、プロジェクトをいかに推進するかで頭がいっぱいでした。しかし、仕事をこなすにつれ、プロマネにとって本当に大切なものは、そのプロジェクトの意義を高く保ち続けられるか否かだと思えてくるようになりました。プロジェクトの規模や、金額にかかわらず……。
経験を積み重ねると、プロジェクトに関係するメンバー・組織・会社、さらには世の中の動向などが、自然と気になってきて、感覚的な気付きをそれらから得ることがあります。その気付きの中から、“これだから、いまのプロジェクトの意義があるんだ”とか、“プロジェクトの意義を再度確認しよう”と思ったことは何度もありました。いまやプロジェクト・スコープが途中で変化することは珍しくないですから、こうしたプロジェクトの意義を問うことは、自然な習慣として皆さんは身に付いているのかもしれません。
■マネジメントスタイルについて
「あなたへの給料支払額は、あの新人より高いという認識を持ってもらいたい」
こんなことを口にした記憶があります。いわれた本人は、さぞかしびっくりしたことでしょう。いま思えば悪魔のような言葉ですが、それくらい、プロジェクトメンバーには、責任感を高く持ってもらいたい、それが結果的に、責任を全うしたというメンバーの自信につながるのだと思っていました。
その代わりに、情報を極力オープンにすることを心掛け、マネージャで壁をつくらないように心掛けました。そう心掛けると、不思議なもので自然とメンバーの体調や家庭内でのイベントなどが耳に入ってくるようになってきたのです。本人が直接輪私にいえないことでも、ほかのメンバーが何気なく、そっと知らせてくれた場合もあります。
プロジェクトの意義を高く保ち続けることは、プロジェクトメンバーの意識1つにかかっていると思います。つまり、責任分をきちんと遂行しようとすればするほど、メンバー自身の存在意義が高まり、その結果、プロジェクトの価値をも高めていくことができるのではと思います。
格好よくいえば、人から組織へのバリュー・チェーンを、という感じでしょうか。またプロジェクトの意義は、「会社にとっての意義」だけとは限りません。1人ひとりのメンバーがプロジェクトを通して、自分の価値を高める場であっていいのではないかと思います。
■そんな中でも思い出深い苦い経験は
過去の苦い経験はたくさんあります。その中でも、印象的だったのは、中国でのオフショア開発のプロジェクトです。
当時勤めていた会社では、中国でのオフショア開発は初めての経験でした。そのため、社内の目は会社初、というところにばかり目がいっていました。このとき、社内で業務リーダーとしてアサインされたのは、このプロジェクトのために会社が採用したという、大手金融会社から転職してきた中途採用の社員。当然、リスクが否めないため、私は長年業務のキャリアのあるベテランメンバーを調達し、プロジェクトに追加してもらいました。しかし、これがまったくの調達不足だったのです。いま思えばこのプロジェクトは、この段階でデスマーチに陥るように約束されていたようなものだと思います(人員の大幅な不足のため)。
このメンバー2人のコミュニケーション手法にかなりの温度差があり、気が付いたときにはオンラインとバッチ処理の業務要件がチグハグな状態になっていました。結局、新入社員が音を上げてプロジェクトから去ってしまう結果となったのです。
オフショア開発においては、とにかく業務要件が決定していないと始まりません。その後、エンドユーザーとの納期調整、法務処理を含めて、オフショア開発委託先との契約交渉など、さまざまな課題があったことはいうまでもありません。この例の一番大きな問題は、“プロジェクトの意義”を正しく理解していないままのメンバーを、長い間放置したことだと思います。プロジェクト立ち上げ時の計画立案が適切に行われていなかったのです。
それから何年もたちましたが、いまもプロジェクトの当時の役員や、開発メンバーとの交流を続けています。一緒に乗り越えた壁の大きさを思い出すと、最後まで責任を全うした彼らへの感謝の気持ちが込み上げます。これはプロジェクトマネジメントの面白さの1つなのかもしれません。面白さとつらさは、裏腹なものだなあと思います。
■プロマネの育成
プロマネの育成については、賛否両論あると思いますが、基本的には、プログラマなりSEなりの経験をベースに、現場主導であることが望ましいと思います。
というのは、プロジェクト遂行の過程でいくつもの判断を迫られる場面が発生します。特に経験したことがない場面では、その判断に迷いと不安が表れます。
過去に、現場経験のないプロマネにお会いしたことがありますが、開発メンバーが反発しがちなように感じたことを記憶しています。
しかし、PMBOKなどの知識は、自分を客観的に見つめさせてくれるツールであり、時にはメンバーに対する説得手法として活躍してくれるものと考えています。
しかしより重要なことは、「メンバーがどんなプロマネを望んでいるか」を少し意識するだけで、プロジェクトの雰囲気はがらりと変わるということです。自分に不足している点については、それをフォローしてくれるメンバーの力を借りたり、会社やユーザーの力をも借りるつもりで、自分に正直になることも大切だと思います。そのためには、人材スキル体系としてのITSSなどを知っておくことも、手助けになると思います。いま、自分がどこに立っているのかを知らない、分からないITエンジニアは多いですから。
■プロマネ志望者に伝えたいこと
上司からいわれた忘れられない言葉があります。
「君と同じく、みんなが100%の仕事ができると思ったら大間違いだ」
その日の帰りは、駅のホームから飛び降りたいと思うほど悔しかった。当時は、自分はこんなに頑張っているのに、という自負があったのだと思います。
しかし、いまなら上司の言葉も素直に理解できます。それは、“一生懸命は常に続けられるものではない”ということです。時々、プロジェクトから自分やメンバーを解放し、離れて見る余裕が自分を救ってくれるのだと思います。そして、走り続けないことが、結果的に、プロジェクトの意義を高く保ち続けるにつながるのではないでしょうか。
■経験を書くことの難しさ
自分の経験を書くというのは、勇気がいるものだとあらためて実感しました。これまでインタビューに答えてくださった方々には本当に感謝いたします。
会社によっては、プロジェクト管理データベースにプロジェクトの履歴を残しているところもあるかと思いますが、できれば、自分のプロマネ史としてメモを残しておくことをお勧めします。プロジェクトが成功か否かにかかわらず、これからのITエンジニア人生にスパイスを効かせられると思います。
好きな経営コンサルタントの言葉で、「経営とは投資である」があります。プロマネが小規模の会社経営者であるとするならば、まさに、「プロジェクトは投資そのもの」だと思います。
筆者プロフィール |
スターフィールド 星野幸代(ほしのゆきよ) 独立系ソフトウェア会社にシステムエンジニアとして勤務した後に、外資系生命保険会社のシステム部で12年間、プロジェクトマネジメントを経験する。現在は、中小企業のIT化コンサルティングサービスをはじめ、eラーニングビジネス支援を中心とした教育サービス事業を営む。認定プライバシーコンサルタント(CPC)。 |
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