現役プロマネに聞く:プロジェクトマネジメントのコツ

第5回 引き出しをたくさん持つべし

スターフィールド 星野幸代
2006/5/30

プロジェクトマネジメントの方法は、各企業によって特徴があろう。さまざまな制限を課せられたプロジェクトマネージャは、どのようにしてプロジェクトをマネジメントしているのだろうか。本連載では、現役のプロジェクトマネージャに登場していただき、実際にどうプロジェクトを進めているのか。またプロジェクトに対する考え方などを伺っていきたい。

 今回は、IT教育サービス事業のC社の部長Y氏に、プロジェクトマネジメントのコツを語っていただきました。

プロジェクト推進で優先すること

 C社は、2002年に大手の通信会社の子会社として設立されました。IT教育サービスやアウトソーシング事業を主に行っています。売り上げの多くを占めているのは、親会社が提供しているサービスのユーザーサポート事業です。

Y氏 「当社は、大きな会社のグループ会社という強みがあります。既存のしがらみなどがあって親会社では積極的に行いにくいことや、市場の見極めがしにくく投資に二の足を踏むことにも、スモールスケールでチャレンジして、将来的にはグループ全体に影響を与えるような成果を出したいと思っています」

 C社の歴史はまだ浅いため、プロジェクトの成果が会社に与える影響は大きいそうです。そんな会社で、Y氏はどんなマネジメントスタイルを実践されているのでしょうか。

Y氏 「プロジェクトマネジメントを行ううえでお客さまと会社に向ける優先順序は、ほぼ同じ割合で考えています。プロジェクトを推進しながらお客さまも会社も一緒に満足させていかなければならないと思います。こうした考えを実践していますので、これまでに理想と現実のギャップを感じるようなこともありませんでした」

 ここでY氏は、ある顧客のシステムの例を語ってくれました。その顧客のシステムでは、情報セキュリティがキーになっていました。

Y氏 「お客さまに情報セキュリティに関する説明をするときも、情報セキュリティとだけ伝えるのではなく、セキュリティシステム、資格、企業リスクマネジメントなど、複数の切り口からお話をするようにしました。例えば、セキュリティ人材を教育する、という話も、『お客さまの業務の実情を監査した結果から』といった言葉を交ぜて説明をすると、お客さまの関心の度合いが違うのです。

 ところでプロジェクトを遂行するに当たって、心掛けていることがあります。それは、普段からできるだけ多くの引き出しを持つようにすることです。その引き出しには、自分が納得した、つまり腑(ふ)に落ちた内容や自分にしっくりとくるものを詰めています。そして、引き出しに入れたものは、いつでも取り出せるようにしているのです」

 引き出しとは、自分自身に合った人・方法・考え方、などのようです。例えば、インターネットで調べれば分かる程度のものは引き出しに入れないそうです。つまり多くの引き出しを持つ必要はあるが、何でも詰め込めばいいというものではないというのです。

印象に残っているプロジェクト

 印象深いプロジェクトについて尋ねると、多くのプロジェクトマネージャは、つらい、または苦い経験のあるプロジェクトを真っ先に思い出すことが多いようです。しかし、Y氏はちょっと違うようです。

Y氏 「ある地方自治体の仕事が印象深いです。少し前に各自治体が電子自治体を構築しようというトレンドがありました。C社でもその流れに乗ろうとし、ある自治体に電子自治体にまつわるシステム提案をしていました。そのプロジェクトで、メンバー構成を大胆に変えたのです。メンバーをすべてアウトソースで調達することにしたのです」

 Y氏は、どうしてもその自治体の仕事を成功させたかったそうです。しかし、グループでもその自治体での実績はなく、ほかのベンダと同様の提案(システム再構築提案)でとどまっていては、その自治体に入り込むことはできないと判断したのです。

 そこで単なるシステム提案で終わらずに、C社が持つ「人材を育成するプラン」も付加価値として提案を行えば、受注の可能性が広がるのではないかと考えました。

 そこで思いついたのが、グループの活用だったのです。全国各地にはグループ会社の支店があり、地方の情報にも強いのです。それでY氏は、プロジェクトを自社のメンバーで賄うのではなく、グループ会社の、より専門知識のあるメンバーに声を掛けて、人づてに協力を仰ぎ、提供するサービスについても相談し、最終的にプロジェクトの取りまとめ部分だけをC社で行うことにしたのです。

プロジェクトマネージャ志望者に伝えたいこと

 Y氏は、プロジェクトメンバーに対して、どのように接しているのでしょうか。

Y氏 「基本的にメンバーに細かく指示をしないようにしています。メンバーがすごく落ち込んでいたり、完全にプロジェクトが暗礁に乗り上げているときは別ですが……。メンバー1人1人の力を出し合うからプロジェクトであるわけですから」

 メンバーにはプロジェクトの全体像を説明し、必ず目標のイメージの共有化を図るようにしているとのことです。Y氏の主張からは、プロジェクトをやらされているという印象を、いかにメンバーに持たせないようにするかが、非常に重要だということが伝わってきます。

 それでは、プロジェクトマネージャ志望者には、どのようなメッセージがあるのでしょうか。

Y氏 「あえて自分の業界とは違う職種や違う業種の人とお付き合いすることを勧めます。どの業種でも環境の変化は激しいため、環境の変化を前提にして仕事をしていかなければならないと思うのです。

 難しそうに聞こえるかもしれませんが、実際は、自分とは違う職種や業種の理解を深めることは、何も難しいことではありません。それこそ、大学時代の仲間に声を掛けることでも構わないのですから」

 Y氏がなぜ違う職種や業種の人との付き合いを勧めるかというと、それがプロジェクトのヒントになるときもある、ということでしょう。まさに引き出しを多く持つことの実践活動でもあります。

 インタビュー終了後、Y氏が次のようなことを話していたことを思い出しました。

Y氏 「僕は、C社には親会社からの出向で来たんですが、自ら志願したんですよ。これからの自分の仕事の可能性を考えたとき、新しいことを始める大きなチャンスだと思いました」

筆者プロフィール
スターフィールド 星野幸代(ほしのゆきよ)
独立系ソフトウェア会社にシステムエンジニアとして勤務した後に、外資系生命保険会社のシステム部で12年間、プロジェクトマネジメントを経験する。現在は、中小企業のIT化コンサルティングサービスをはじめ、eラーニングビジネス支援を中心とした教育サービス事業を営む。認定プライバシーコンサルタント(CPC)。

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