現役プロマネに聞く:プロジェクトマネジメントのコツ

第6回 プロジェクトとはお客さまとのお見合い

スターフィールド 星野幸代
2006/6/29

プロジェクトマネジメントの方法は、各企業によって特徴があろう。さまざまな制限を課せられたプロジェクトマネージャは、どのようにしてプロジェクトをマネジメントしているのだろうか。本連載では、現役のプロジェクトマネージャに登場していただき、実際にどうプロジェクトを進めているのか。またプロジェクトに対する考え方などを伺っていきたい。

 今回は、人材開発ソリューションベンダのNECラーニング マネージャーの斉藤伸子氏にプロジェクトマネジメントのコツを語っていただきます。長年にわたるエンジニア経験と人材開発部門に所属経験のある斉藤氏は、どのようなお話をしてくださるのでしょうか。

プロジェクト推進の状況

 NECラーニングは、NECグループ内の人材開発体制の強化と、顧客向け人材開発ソリューション事業の拡大を目的として、2005年7月に設立された会社です。NECのEラーニング事業部とNECユニバーシティが母体となってでき、社長は内海房子氏で、NECグループ初の女性社長となりました。

斉藤 「NECに入社以来、エンジニアとして仕事する傍らで、このままで日本のITを支える人材育成は大丈夫か、近隣アジア諸国の中でこの先大丈夫かと、ふと思うことがありました。エンジニアとしての業務経験後に人材開発部に配属され、4年ほど人材育成にかかわることになりましたが、自分の経験を生かす仕事を任されたという思いがしました。NECラーニングという小回りの利く組織になり、とても楽しく仕事に取り組んでいます」

 現在の斉藤氏は、eラーニングや集合研修に関する小規模プロジェクトを手がけることが多いようです。年間で約50プロジェクトを手がけるといい、正直驚きました。プロジェクトは、eラーニングの導入やそのカスタマイズ、対面の集合研修も含めたトータルソリューション提供と多岐にわたるが、その1つ1つについて、お客さまの要望を聞くのが楽しいそうです。

 斉藤氏の軽快な口調から、仕事をてきぱきとこなす様子がうかがえます。eラーニングビジネスを立ち上げてきたこれまでの斉藤氏の苦労は小さくはなかったはずです。しかし、そんな苦労を感じさせないパワーの源となっている斉藤氏の考え方が、段々見えてきました。

プロジェクトマネジメントのスタイル

 斉藤 「ほとんどのプロジェクトには、パートナー企業のメンバーも含まれます。自社の正社員だけでなく、パートナー企業のメンバーも同じく管理対象となり、業務スキルを高めてもらう必要があります。もちろん現場経験でのスキルアップだけでなく、開発環境の提供やスキルアップに役立つ情報など、なんとかバックアップしたいといつも考えますね」

 斉藤氏の考え方の中には、まずは現場のエンジニアの後押しをしたいという思いがあるようです。そこで、いつものこんな質問をぶつけてみました。

星野 「プロジェクトマネジメントを行ううえで、会社、顧客、メンバーでは、どのようなウエイト割合で遂行していますか」

斉藤 「私はお客さまと向かい合う仕事が大好きですから、お客さまを10といいたいところです。でも実際は、2:4:4でしょうか。会社の後ろ盾なくしてプロジェクトの遂行はできません。また、現場経験の大切さがよく分かりますから、メンバーとのコミュニケーション、特に報告を大切にするように心掛けています」

 斉藤氏から見ると、顧客企業が思い描く「人材育成」』は、あいまいな場合があるようです。これを目に見える形に具現化する中で、顧客の意識度・認識度を高めているそうです。この顧客の意識度・認識度を高める過程なくして、プロジェクトの達成感は得られません。ここでいう達成感とは、プロジェクトマネージャ側でというよりも、お客さまが得られるものを指しているようです。

印象に残るプロジェクトは?

斉藤 「大きなプロジェクトでは、いろいろなことがあります。プロジェクトマネージャになる前のSE時代に、パートナー企業のメンバーだけでも200人に及ぶ大規模プロジェクトを担当したことがあります。気候や自然保護施策の影響を予想以上に受けて、現地でのシステム評価に1年以上かかりました。『春には春のバグがある〜』といった歌を皆で歌いながら乗り切ったのはいい思い出です」

 そのほかにも斉藤氏の印象に残っているプロジェクトはいろいろとあるようです。

斉藤 「客先の企業内の政治的な事情などを知らないと、プロジェクトが前に進まないことがあることを学びました。私自身は、メンバーではありませんでしたが、ある海外のシステム開発プロジェクトでは、現地の過激派組織がそのシステムを攻撃目標にしたことがありました。プロジェクトの遂行には、場合によって世界情勢の見極めも必要だと認識しました」

 想像を超えるプロジェクトリスクの例ではあるが、いまの仕事が楽しいという斉藤氏のこれまでの苦労を垣間見たような気がしました。

プロジェクトマネジメントの面白さと難しさ

斉藤 「お客さまとの出会いが面白いですね。自分自身、お客さまとのつながりで育ててもらったと思っています。一方、難しさは、お客さまの期待とアウトプットが合わなかったときですね」

 以前は、人海戦術で問題を乗り越えられたこともあったそうです。しかしプロジェクト期間がどんどん短縮されているいまでは、人海戦術ではなく、スピードや工夫が必須となっています。結果がうまくいかなかった場合であっても、何が原因なのか、次にやるべきことは、立ち止まってはいられないのが常のことであるようです。

プロジェクトマネジメントのコツ

斉藤 「プロジェクトとは、お客さまとのお見合いみたいなものです。お見合いの洋服を選ぶように、お客さまの好みに合う肖像画を持って伺いたいと思っています。そのためには、相手をよく知ろうとしますよね。それが結果的に、自分自身を受け入れてもらうことにつながります。いつもお客さまの業界や風土を理解することを心掛けていれば、相手によって、おのずとコミットするタイミングや回数は違ってくるものです」

 時には、お見合いで失敗しそうになることもあるそうです。人間だから、好みの違いが表面化することもあり得ます。そういうときは、相手の好みに近い肖像画を描けるメンバーに前面に出てもらうなどして、顧客の心をつかんでいくそうです。

 SEとしての10年という経験を踏まえ、初めてeラーニングを導入するお客さまがうまくスタートアップできるようにバックアップしたいというマネージャの思いは、いかに早く顧客との距離を縮め、どのようにしたらプロジェクトメンバーとの関係を良好に保つことができるかという点に、大きくスポットを当てています。また、いろいろな話を聞くにつれ、プロジェクトにかかわるメンバーの立場が、社内外含めて、上下の関係もそれほどなく、かなりフラットであると感じます。

プロジェクトマネージャの育成

 NECグループでは、人材育成を支援する独自の仕組みがあります。NCP(NEC プロフェッショナル認定制度)は、「NECの事業推進において、高い専門性を発揮することで、市場に価値を提供し、顧客価値を向上する人材を創出する」ことを目的とした制度です。

 経済産業省が体系化したITスキル標準:ITSSや組み込みスキル標準:ETSSにも準拠し、さらにその上に難度の高いNEC独自スキルをアドオンし、社員を審査・認定しているそうです。レベルは大きく4段階に分かれており、上位のレベルにおいては、市場価値にリンクし、業績に見合ったハイリスク・ハイリターン型の報酬体系を適用しているそうです。

斉藤 「プロジェクトマネージャにおいて、当社には確実な理想像があるということです。ゴールは簡単ではありませんが、資格という形にすることも大切だと思います。もちろん、自身のキャリアプランを考えて異動希望を出す場合にも役立ちます」

 折しも、2006年4月に改訂されたITSSのバージョン2のスキルディクショナリによると、全職種に対して、プロジェクトマネジメントスキルの一部が求められることとなりました。

志望者に伝えたいひと言

斉藤氏 「現場を知らずして、プロジェクトマネージャにはなれません。いまの経験が必ず後に生きますので、苦労を惜しまないでほしいのです。どんどんアンテナを張って、新しいビジネスプランを作ってください。アジア諸国と丁々発止とわたりあって生き残っていけるように、語学を含めたコミュニケーションスキルなどの自己研さんも必要です」

 斉藤氏は、終始身振り手振りを添えて、とにかく明朗快活にお話ししてくださいました。斉藤氏がお客さまとお見合いし、これまでに描いた顧客の肖像画は一体どのくらいあるのでしょうか。

筆者プロフィール
スターフィールド 星野幸代(ほしのゆきよ)
独立系ソフトウェア会社にシステムエンジニアとして勤務した後に、外資系生命保険会社のシステム部で12年間、プロジェクトマネジメントを経験する。現在は、中小企業のIT化コンサルティングサービスをはじめ、eラーニングビジネス支援を中心とした教育サービス事業を営む。認定プライバシーコンサルタント(CPC)。

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