第7回 ミッションは歩留まりの向上にあり
スターフィールド 星野幸代
2006/7/28
プロジェクトマネジメントの方法は、各企業によって特徴があろう。さまざまな制限を課せられたプロジェクトマネージャは、どのようにしてプロジェクトをマネジメントしているのだろうか。本連載では、現役のプロジェクトマネージャに登場していただき、実際にどうプロジェクトを進めているのか。またプロジェクトに対する考え方などを伺っていきたい。 |
大手電機メーカーのデバイス製造の研究開発部門で活躍するN氏に、プロジェクトマネジメントについて語っていただきます。デバイス製造でのプロジェクトのヒントが、一般のITシステムの開発のプロジェクトでもヒントになるでしょうか。それを見ていきましょう。
■社内のプロジェクトの実態
90年以上もの長い歴史を誇る電機メーカーに14年前に入社したN氏は、都心からやや離れた工場に勤務しています。勤めている部門は4年ほど前に本社から分社化し、新会社となりました。が、分社化しても以前の事業をそのまま受け継ぎ、会社の雰囲気も分社化される前とほとんど変わっていないそうです。その中でN氏はずっと製造ラインのプロセスに関する研究開発に携わっています。
N氏 「プロジェクトの成果は、製品部(工場)で実際に稼働しなければ意味がありません。製品部で実稼働することが絶対条件なのです」
N氏が担当する製造ラインのプロセス改善プロジェクトは、過去何度も繰り返し行われてきたものです。N氏が中心となって立ち上げたプロジェクトの目標は、これまでに達成した目標値をさらに高めようというものです。具体的には、製品の歩留まりの向上です。
担当している製品の名前を明かすことはできないそうです。その製品は市場で好評で、かつ長寿製品でもあるため、これまでいくつものプロジェクトが生まれ、何年も歩留まりの数値を着実に改善してきたそうです。
今回N氏が立ち上げたプロジェクトの使命は、これまで改善してきた数値をさらに改善する、というものでした。そのため、その達成は困難が予想されていたのです。
■プロジェクトの評価と製品ライン
N氏 「製造ラインで得られた結果がプロジェクトの評価基準となります。具体的には、材料メーカーからの新しい材料の選択、模擬製造ラインにおける各種条件設定、100種類以上もの評価手法と、いろいろな要素を検討します。どのようにプロジェクトを進めるかはメンバーと協議して決めます。成果としての評価基準は、歩留まりとなります」
評価された研究成果は、実際に製造ラインに組み入れられます。しかし、そこに行き着くまでに苦労があるようです。
N氏 「開発結果が実際に製造ラインに組み入れられるには壁が存在します。製造ラインに組み入れるかどうかの最終決定権は、多くの場合製造責任者が持っています。また、組み入れると決まっても、稼働している製造プロセスは最小限の変更で済ませる、という約束があります」
どうせ苦労するなら、開発結果を製造ラインに組み入れてほしい。その実現を図るために、N氏はプロジェクト定例会議はもちろん、所属部長や経営層への報告会議と複数の会議を回すほか、多くの人的調整で走り回らなければならないそうです。
とはいえ、製品を背後で支えているという自負をプロジェクトメンバー全員が持っているため、裏方の調整も大変だとはあまり感じていないようです。
■プロジェクトマネージャ志望者に伝えたいこと
マネジメントスタイルとして、N氏のプロジェクト遂行のイメージを尋ねました。
するとN氏は、割合にすると組織:顧客:メンバーが6:1:3だと即答してくれました。そしてプロジェクトについて、次のような意見を披露してくれました。
N氏 「会社の成長イメージに、自分の成長イメージを重ねているんです。プロジェクトは何のためにあるかといえば、結局のところ、自分自身のためにあるものですから。こう考えるとプロジェクトに対してやる気がわいてきませんか」
プロジェクトマネージャ志望者には、次のようなことを伝えたいそうです。
N氏 「われわれは、世界に送り出す製品を支えているという重みを感じています。プロジェクトマネージャとは、人を使う立場の仕事です。人間関係での苦労も含め、苦しくてつらい経験を土台にしてこそ初めて人を使うことができるということを忘れないでいてほしいです」
筆者プロフィール |
スターフィールド 星野幸代(ほしのゆきよ) 独立系ソフトウェア会社にシステムエンジニアとして勤務した後に、外資系生命保険会社のシステム部で12年間、プロジェクトマネジメントを経験する。現在は、中小企業のIT化コンサルティングサービスをはじめ、eラーニングビジネス支援を中心とした教育サービス事業を営む。認定プライバシーコンサルタント(CPC)。 |
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