現役プロマネに聞く:プロジェクトマネジメントのコツ

第8回(最終回) そのプロジェクト、運用できますか

スターフィールド 星野幸代
2006/8/30

プロジェクトマネジメントの方法は、各企業によって特徴があろう。さまざまな制限を課せられたプロジェクトマネージャは、どのようにしてプロジェクトをマネジメントしているのだろうか。本連載では、現役のプロジェクトマネージャに登場していただき、実際にどうプロジェクトを進めているのか。またプロジェクトに対する考え方などを伺っていきたい。

 システム開発やシステムコンサルティング業務を行っている源コーポレーション システム開発部 部長の佐々木裕氏に、数多くのシステム開発経験を踏まえた貴重なお話をしていただきました。

プロジェクト環境とそのスタイル

 もともと佐々木氏は、UNIX系のアプリケーション開発を得意として、さまざまなプロジェクトにかかわってきました。IT業界約20年のベテランである佐々木氏は、いろいろなプロジェクトを通して、システムエンジニアとしての経験を積み重ねてきたそうです。

 そうすることで、自分が引き受けられる仕事の幅を広げてきました。それは同時に、技術力をアップさせる一番の方法でもありました。

 といっても、最初からそううまくそうした好循環をつくれたわけではないとのことです。最初は努力してユーザー企業に溶け込むようにして、相手を知るところからスタート。ユーザーが何を求めているのか、どんな技術に関心があるのかとアンテナを張りめぐらす中で、自らのプロジェクト推進スタイルも、ユーザー企業の好みを知り、なるべくそれに合わせるところから始めたそうです。

プロジェクトマネジメントの知識については

 アプリケーション開発の実装業務から徐々にプロジェクトのマネジメント業務にシフトしてきた佐々木氏は、マネジメント知識については、どのような考えを持っているのでしょうか。

 佐々木は、PMBOKについて「PMBOKの知識は、もちろんないよりあった方がいいと思います。でも私には、PMBOKはプロジェクトの開始前の段階と終結後の段階の内容が、どうも足りないように感じるのです」と指摘します。

 そして「確かにPMBOKには、品質マネジメントやリスクマネジメントなど、大切な要素が盛り込まれています。しかしながら、プロジェクトの遂行が中心で、ユーザーの要望段階での提案内容については、PMBOKに盛り込まれていません。ユーザーの要望によって、システムコンサルタントやアーキテクト的な仕事が発生することもあります。その一方でシステム開発プロジェクトは、いったんシステムが稼働した後に、思いがけないトラブルが起こることがあります。プロジェクトは生き物のようなものですから、どのようにシステム運用・保守をしていくかということも考えておかないと、プロジェクトそのものの意味合いが半減してしまうと思うのです」(佐々木氏)

 この後、少しずつ現場の話を聞くことになりました。

印象に残るプロジェクト

 いまも継続している5年越しのプロジェクトがあるそうです。実は現在、佐々木氏は24時間、365日、いつでもシステムトラブル発生の連絡を受けられるよう日々過ごしてます。そこまで追い込まれたように見えるプロジェクトですが、佐々木氏にとっては最も思い入れのあるプロジェクトだというのですが、なぜでしょうか。

 「ある大手の携帯電話通信サービス会社の大規模プロジェクトに参画しています。キャリアの各種サービスを大きく4つに分類し、それぞれがプロジェクトになっています。私は、そこで、システム保守支援とシステム構築支援という立場で、4つすべてのプロジェクトを管理しています。大規模なプロジェクトであればあるほど、コミュニケーションや調達に神経を使いますね。」(佐々木氏)

 大規模プロジェクトでは、プロジェクトの縦の報告ラインが増える一方で、プロジェクトの横のつながりは悪くなり、バランスが崩れがちになります。それは、システム開発を請け負う会社の数が増えるところにも原因があります。

 佐々木氏は、請け負う会社数が多いことについて、「開発を請け負う会社が多いと、とかく自分たちの会社の利益に目がいきがちです。仕事をしながらも、新しい案件の受注活動を優先するようなケースも見掛けます。その結果、せいぜいお客さまからいわれたことをこなすことに精いっぱいで、本来、ユーザー企業にとっての利益、お客さまが本当に求めているものを見ようとする意識が薄れるようです」と指摘します。

 よくあるユーザー企業とシステム開発ベンダが一緒に行うプロジェクト報告会議などを思い出せば、このようなケースは皆さんも結構心当たりがあるのではないでしょうか。プロジェクト遂行におけるトラブルも、意外とこんなところから発生しているのかもしれません。

 かつて、お客さまに机をたたかれて佐々木氏は怒鳴られたことがあったそうです。隣の机にいた別のプロジェクトマネージャが具合が悪くなるほどだったと、佐々木氏は笑いながら話してくれました。

 「今回の4つのプロジェクトのうち、あるプロジェクトのマネージャが孤立したことがありました。文化や立場の違いがありますから、自分の思いどおりにならないのは当然です。そこで私が同じような状況に陥らないように、ほかのプロジェクトマネージャたちと綿密にコミュニケーションを取り、プロジェクトの潤滑油になろうと図りました」(佐々木氏)

 こうした工夫、努力により、プロジェクトの雰囲気、特にプロジェクトメンバーの雰囲気が変わります。一見面倒な役回りを自らが行うことで、プロジェクトメンバーの意識が高まり、プロジェクトが円滑に進ちょくする手助けになるのです。

プロジェクト推進で大切なこと

 佐々木氏が、プロジェクトの推進で重視していることは何でしょうか。「ユーザー企業にとって、安心してそのシステムを運用できるか否かはとても重要だと思います。プロジェクトを遂行していく中でメンバーや組織が変わることはよくあります。しかし、往々にして変わらないもの、それは、そのシステムを運用するメンバーではないかと思います」(佐々木氏)

 プロジェクトの早い段階から、システム運用後のことを見据えて、運用主体に関する情報をしっかり握っておくことは、ある意味、手堅いプロジェクトの推進方法です。確かに運用までを見据えたプロジェクト推進の重要性は、多くの人にすでに指摘されていることです。それでも一般的なプロジェクトマネジメント手法にこだわっていると、つい見落としてしまうことかもしれません。

 システム運用時に、トラブルが発生した場合は次のことを講じる必要があります。

(1)トラブルを拡大させない
(2)トラブルの影響範囲を把握する
(3)トラブルの修復を図る
(4)トラブルの発生原因を追究する
(5)原因に対する措置を行う

 必ずといっていいほど発生し得るトラブルに対して、基本的なことを冷静に、かつ当たり前に行うことが可能になっているか、いま一度、プロジェクトを見つめ直す必要があると思いました。

プロジェクトマネジメントとモノづくり

 佐々木氏は、プロジェクトマネジメントを、プログラム、モノづくりに例えます。「プログラムが1つのモノづくりであるなら、プロジェクトもモノづくりです。自分が作ったものと他人が作ったものを一緒に動かすためには、コミュニケーションがないと無理です。隣に座っている知らないプログラマに、『どんなものを作っているの』とか、『どんなふうに作っているの』と尋ねてみてください。たちまち、コーディング規約の話に展開したり、試験項目の提案につながったり、話が広がるはずです。プロジェクトも同じで、メンバーのお互いの立場を尊重し合えば、いいい方1つで、すり合わせることができることがたくさんあります」(佐々木氏)

 楽しそうに話す佐々木氏の話を、私は次のように解釈しました。

 1人で作れるモノの量は限られている→プロジェクトなら大きなモノを作ることができる→立場の違う人間が集まる→自分の思いが各メンバーに伝わる→プロジェクトがまとまる→プロジェクトによって、これまでできなかったことができる、または解決する

プロジェクトマネージャ志望者に伝えたいこと

 「自分がかかわっている仕事を1つの機能としてとらえるか、それともシステム全体のどこに相当するととらえるかで、大きな差が出てきます。できるだけ幅広く広くとらえるためにどうしたらいいのかを考えて欲しいのです。そして、プロジェクトマネージャは人を動かす立場の仕事であるからこそ、一歩ひいて、プロジェクトを客観的に見る目、絶えずこれでいいのかと自問する目を持っていてほしいのです」(佐々木氏)

 多くの開発現場のマネージャ、リーダーが、物事を俯瞰(ふかん)して見ることの重要性、客観視することの重要性を訴えています。

 佐々木氏はさらに、「私は、これまで、仕事ができればできる人ほど、頭がどんどん固くなっていくのを見てきました」というのです。こういう状況にならないように、私も注意したいものです。

 今回のインタビューは、源コーポーレーションのある社員が佐々木氏を推薦してくれたのです。「僕の先輩をぜひ紹介したいのです」と。

最終回を終えて

 これまでの皆さんのインタビュー(全8回)から、感じたことを次のようにまとめたいと思います。

  • プロジェクトマネージャは、人を動かす仕事であるが、心を動かす努力が重要である
  • プロジェクトマネージャになりたいと思う人は、仕事以上に人が好きである。なぜなら、プロジェクトメンバーや顧客なくして仕事の達成感がないからである

 多くのITエンジニアは、この業界で求められる能力には、技術スキルや知識だけではなく、コンピテンシーも必要だと耳にしたことがあると思います。私は、インタビューを通じて、プロジェクトマネージャに求められるのは、プロジェクトの各状況を適切に捉えてかかわる人の期待にきちんと応えられる能力だと考えます。

 IT業界では、陳腐化しやすいといわれるスキルや知識に対して、いま説明した能力は、積み重ねることができます。1つずつコツコツと積み上げることをいとわなければ、あるとき自分の周りにたくさんの人が集まっていることに気付くでしょう。

 忘れかけていた、いまから20年ほど前のことを思い出しました。社会人になってまだ間もないころ、あるアメリカの人材開発会社の社長が講演で話したことです。

 「有能な仕事人にとって大切な3要素とは、それは、Skill(技術)、Knowledge(知識)、そしてBehavior(ふるまい)なのです」

 いまなら、その言葉を理解できるように思います。

筆者プロフィール
スターフィールド 星野幸代(ほしのゆきよ)
独立系ソフトウェア会社にシステムエンジニアとして勤務した後に、外資系生命保険会社のシステム部で12年間、プロジェクトマネジメントを経験する。現在は、中小企業のIT化コンサルティングサービスをはじめ、eラーニングビジネス支援を中心とした教育サービス事業を営む。認定プライバシーコンサルタント(CPC)。

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