エンジニアが語るリレーエッセイ
エンジニアに資格は必要か?
第12回
だれのための資格か?
がんばるSE氏
2002/9/6
毎回さまざまな分野のエンジニアに、「エンジニアに資格は必要か?」をテーマに、自身の実体験などを織り交ぜて語っていただく。エンジニアの“生”の声を紹介する月刊リレーエッセイ。今回は、某ソフトウェアハウスに勤務している若手エンジニアが、いったい資格はだれのためにあるのかについて考える。 |
■国の教育訓練給付制度
情報処理技術者に関する資格の必要性については、以前からいろいろと疑問に思ってはいました。ただ、常に業務(開発作業)に追われて、深く考えたことはありませんでした。
今回、この機会をいただいて、あらためて“資格”とは、いったいだれのために取得して、何のために活用するのか、まずそこから考えてみようと思います。
最近は、国からの補助金制度で、資格取得のための学費が何割かが返還されるという、だれにとってありがたいのか分からないような仕組みが出来上がっているようです(教育訓練給付制度)。普通に考えれば、資格を取得するために勉強しやすい環境とつくるということかもしれませんが、果たしてそうなのでしょうか?
■専門学校などに通う人とは
資格試験の取得のために、日々勉強されている方は多いと思いますが、就業後に専門学校などに通っている方や、通信教育を受けている方は、それほどいないのではないのでしょうか?
これまで他部署で活躍されていた方が情報システム部などに配属され、右も左も分からないという場合や、新入社員として情報システム部に配属されて会社が学校に通ってもいいと認めてくれたような方々が、専門学校に通ったりしているのではないでしょうか?
この制度は結局、それほどエンジニアのためになっていないのではないかという気がしてなりません。この制度が始まって以来、毎日のように通信教育会社などから自宅や会社に電話がかかってきましたが、こちらが電話でちょっと突っ込みを入れると、すぐにシドロモドロする人ばかりでした。それでは、エンジニアのためになるのか、さっぱり分かりません。
■システム設計で重要なこと、向いている人
本当に資格取得のため、日々業務をこなしながら頑張っている方々のほとんどは、自腹で高い参考書や問題集を購入し、通勤電車内のつり革にぶら下がりながら、周囲に本をのぞかれながら、勉学に励んでいるのではないかと思います。
これが、資格がないと仕事ができないような業種や、資格取得者としての社会的地位がはっきりしている業種であれば、満員電車勤勉にも意欲がわくのでしょうが、情報処理の世界ではどうでしょうか?
インフラの仕事(特にハードウェア構築)が中心の方は、資格や知識は絶対条件なのかもしれませんが、システム設計(ソフトウェア)では、最低限の基本知識を持っていれば、あとは人との接し方や、人柄、行動力、忍耐力の方が効率よく作業を進めるうえでの重要なカギだと、私個人は思っています。極端にいえば、頭でかっちのガリ勉君の“資格保持者”より、相手の話を聞いて考える“人格者”の方がSEには向いていると思います。
■会社や上司に強要される資格取得
会社によっては、上司からの“命令”や、“社内活動の一環として資格を取りましょう”といった強制的な受験のケースは年々増えているようです。私の会社の上層部も、“社員のスキルアップ”だの“自己啓発”だのと、会議のたびにいうのですが、いまいち意欲がわかないのは、私が怠慢だからでしょうか。
個人的に、どうも私は“スキルアップ”という言葉が嫌いです。意味としては別に悪い言葉ではないと思うのですが、数年前にこの言葉が流行したとき、上司がいつも“スキルアップ”と口にしていたもので、そのためにどうも脳が拒否反応を示すようになってしまったようです。
確かに、資格手当がたくさんもらえる会社もあれば、ある程度の資格がないと採用してくれない会社もあるようです。しかし、一般のソフトハウスでは、多少の資格手当が支給されるだけなのではないでしょうか? それも、最近は有効期間付きや一時金のようですが……。
■資格は重要だが、現状の資格試験……
受験するために勉学に励むことは、とっても大切なことだと思います。受験勉強を行っていると、日ごろ業務を行っている中では気付かなかった基本的な知識や、いつも使っていた言葉が、実は別の意味だったことを認識することさえあります。開発ばかり行っていると知識が偏っていることに気付かず、社外の方(しかもこの業界ではない)と情報処理関係の話題になったとき、相手が私以上に情報処理関連の基本知識を多く持っているのに驚かされる場合もありました。
よくよく話を聞いてみると、その方は以前自分の会社のシステム構築に業務として参加したことがあり、そのときに勉強してシスアド(システムアドミニストレータ)の資格を取得したとのことでした。それから、コンピュータに興味を持ち、いろいろと勉強しているそうです。また、最近の新入社員は、ここ数年の不況のあおりを受けて、就職活動のために、かなりの勉強をしているようで、分野によっては太刀打ちできないほどです。
逆に私などは、日々の開発作業の中で分からなくても、また知らなくても何とか作業が行っていけることに甘え、勉強はもちろん、雑誌などでの最新技術の情報収集でさえ、つい怠けてしまうことがあります。そんな状況であるとき、久しぶりに情報処理関係の雑誌をめくってみると、すっかり“浦島太郎状態”に陥ってしまっている事実に気付くのです。
結局のところ、日々の勉学はとても必要だとは思うのですが、現状の“情報処理技術者資格”は、前述したように、一部の勉強家や努力家を除いては、“資格手当をもらう”ためや、“上司(や会社)の手前、とりあえず受けなきゃ”といった存在でしかないような気がします。サラリーマンは、それがすべてだといえなくはないのですが……。
しかし、理由がどうであれ、資格試験を受けることは日々の生活に目標とメリハリができて、良いことだと思います。日進月歩の業界ですので、日々の勉学、情報収集を最低限やっておかないと、そのうち仕事もできなくなってしまいそうです。そういう意味で、“プログラマは体力勝負”の時代はもう、“今は昔”の話になってきているのかもしれません。
筆者紹介 |
がんばるSEさん■現在某ソフトウェアハウスに勤務するエンジニア。仕事の多くは、客先常駐型の設計・開発だという。いつも人にやさしいシステム構築を心掛けているという。 |
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