エンジニアが語るリレーエッセイ
エンジニアに資格は必要か?
最終回(第15回) 資格の迷信、ウソ、ホント

グローバルナレッジネットワーク
横山哲也氏
2002/12/11

毎回さまざまな分野のエンジニアに、「エンジニアに資格は必要か?」をテーマに、自身の実体験などを織り交ぜて語っていただく。エンジニアの“生”の声を紹介する月刊リレーエッセイ。最終回は、ITの資格ビジネスに携わり、日々エンジニアに教育をする立場にある筆者が、資格の必要性、迷信、自分にとっての資格を語る。

IT業界に資格は必要か?

 最初にお断りしますが、私はIT資格ビジネスに携わっています。しかし、今回のエッセイで、私のビジネスに有利になるように誘導しようという意図は全くありません。その点だけははっきりさせておきたいと思います。

 さて、「エンジニアに資格は必要か」ということですが、もちろんエンジニアという仕事には資格は必要ありません。資格はエンジニアを評価するもので、その評価を必要としているのは評価対象となっているエンジニア以外のだれかなのです。

 では、質問を変えましょう。「IT業界に資格は必要か」。答えは「YES」です。初めて仕事をするエンジニアに、どの程度の話が通じるのかを測るうえで、資格ほど便利なものはありません。

 そう断言すると、おそらく山のような反論が(主としてエンジニアから)返ってくるでしょう。しかし、その反論の多くは、自分の数少ない経験を不当に拡大して一般論にしています。エンジニアたるもの、明確な根拠を持って反論してほしいものです。例えば、実際に試験を受けもしないで批判し、他人にも押しつけるのはどうかと思うのです。

MCPに対する7つの迷信

 私は、マイクロソフト認定エンジニア(MCP)の資格を通算20以上持っているうえ、数十名のMCSE(MCPの中の上級資格)と付き合いがあります。残念ながらほかの資格には明るくありませんので、MCPおよびその上位資格であるMCSEを例に話を進めていきたいと思います。

 なお、決してMCPの宣伝をするつもりではありません。また、ほかのベンダ資格でも同じことがいえるかどうかも分かりません。あくまでも私の経験でお話しします。ただし、すべての項目に対して、何人かの人から同じような意見を聞いていますので、独断というわけでもありません。

1)MCPはだれでも取れる
 それなりの勉強をしないと取れません。特にMCSEの必須科目はケーススタディを含む試験があるので、実務経験あるいはそれに準じる能力が必要です。ただし、1科目か2科目程度なら、受験技術だけで合格してしまうことはあるようです。高いレベルの技術者が不合格になった例はほとんど知りませんが、低いレベルの技術者がたまたま合格してしまうケースはあるようです。

2)MCPでなくても仕事はできる
 もちろんそうです。でも、基本的な用語や概念を理解していることを示すにはMCPが手っ取り早い基準です。

3)MCPは技術力を反映していない
 そんなことはありません。技術力のある人は合格し、ない人は不合格になる確率が高いことは私の経験から断言できます。

4)使いもしない機能を覚えないといけない
 それは、あなたがいままで使っていなかった機能ですね。独学のエンジニアと接して一番困るのはここです。ある特定の機能はよく知っているのに、全く知らない機能もある。これでは困ります。いまは使っていなくても、将来使うかもしれません。

5)せっかく取得してもすぐ期限が切れる
 MCPの有効期限は撤廃されました。

6)問題文が日本語になっていない
 初期の試験は確かに問題を抱えていましたが、最近はそうでもありません。ケーススタディ試験だと、回りくどい表現や、紛らわしい表現が出てきますが、これは翻訳の問題ではありません(英語でも似たような傾向です)。おそらく、実際のインタビューをシミュレートしているのでしょう。

7)試験は現実の世界を反映していない
 MCP試験の問題が、現実のトラブルシューティングに役立ったことは数多くあります。また、マイクロソフトが推奨しない方法が正解の場合もあります。問題に詳細な条件が付いていて、すべてを満たすには特別な回避策を取る必要がありました。これはまさに現実に起きていることです。

私に資格は必要か

 次に、私が資格を取って役に立ったことをお話ししたいと思います。皆さんが、自分に資格が必要かどうかを判断する参考にしてください。なお、私は開発者ではありませんので、特定の案件を受注するための条件として資格が役立ったということはありません。

・仕事ができる
 私の本業はマイクロソフト認定トレーナです。この仕事はMCSEなどの上位資格が必須なので、資格がないと仕事ができません。

・製品の使い方が分かる
 機能として存在しても、それを実環境でどのように使うか分からないケースがあります。試験を通して、実際の使い方を学べました。前述のように、教科書的には間違いであるような使い方すら学習することができたのです。

・すべての機能をまんべんなく学習できる
 自己学習にはどうしても限界があります。試験範囲を網羅して学習することで、製品の全体像を知ることができます。

・自己満足
 最も重要なことは、私が資格取得に満足していることです。多くのMCP試験を受けていると、マイクロソフトから「MCPベータ試験」の案内が来ることがあります。ベータ試験は、通常の試験よりも長く(通常3時間から5時間)、試験は英語で行われ、指名された人だけが受験できます。マイクロソフトでは、ベータ試験の結果を基に、問題の修正を行い、合格ラインを設定します。私の場合、ベータ試験でWindows 2000トラックのMCSEを取得したので、MCSE取得年月日はWindows 2000トラックのMCSE制度が開始した日である2000年6月1日となっています。つまり、世界で最初のWindows 2000 MCSEというわけです。

 自分が学習した証(あかし)として、資格を取るのは悪いことではないと思いますし、それだけでも十分な動機になると思います。実際、教育コースの受講生で最も多いパターンは、「知識習得が第一、ついでに資格取得」というものです。資格第一という人はほとんどいません。

面接に資格は必要か

 最後に、資格を持っていると面接に有利かどうかについてお話ししたいと思います。

 いままで何度も技術者の入社面接をしましたが、正直いって資格で判断したことはありません。社員として一緒に仕事をしていく場合は、入社後にスキルを付けてもらうことも可能だからです(特定のプロジェクトを任せる場合は資格を重視するでしょう)。しかし、技術レベルの参考にはします。MCSEなら無条件で信頼しますが、1科目か2科目のMCPの場合は、技術レベルを確認する口頭試問をさせていただきます。

 また、面接をするかしないかの判断に使うこともあります。経歴からいって、あまり興味を引かない人でも、MCSEなら「一度会ってみよう」ということになります。資格も経験もない場合は、面接の機会すら与えられないくらいの覚悟はする必要があるでしょう。

筆者紹介
横山哲也さんWindows 2000関連教育コースの企画・開発・実施を行う。共著書に『Windows NT 4.0完全技術解説』『Windows 2000 Server完全技術解説』(いずれも日経BP刊)などがある。最近は、Windows .NET Server 2003関連コースの開発と実施を担当しているという。

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